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弟たちとおもちゃ

 公爵令嬢ディーネに与えられた自室の、広い応接間に、ふたりの弟と四人の侍女が集まっていた。主人のディーネが仕事で忙しいので、彼らはひまを持て余して、思い思いの作業をしている。

 弟たちは侍女に勉強を見てもらったりしていたが、そのうちに飽きたようだ。

 戦車の模型を持ち出して、戦争ごっこをはじめた。


「ついに見つけたぞ、悪の大魔王め」


 戦車を喋らせているのは兄のレオだ。金髪に大きな釣り目の少年で、顔立ちは年齢相応にあどけない。


「こしゃくな人間どもめ!」


 そして弟のイヌマエルが動かしている『悪の大魔王』は、ディーネに似せた着せ替え人形だった。


「おのれ、よくもわたしの手下たちを倒してくれたな!」

「貴様らは弱い。貴様もここで倒れろ」


 兄のレオが戦車のボタンを押してぴかぴか光らせると、弟が操るディーネの人形もとい悪の大魔王は飛び上がった。


「ぎゃあああ! 浄化されるううう!」


 イヌマエルはしばらくじたばたと人形の手足を動かしていたが、やがて真剣に解せないという顔で、ディーネのところにやってきた。


 一点の曇りなきまなこでディーネをじっと見る末弟。


「姉さま、どうしてこの人形の首はもげないんですか?」

「く……首はもいじゃいけません!!」

「手足もバラバラになったほうが面白いと思います!」

「ひい! 惨殺死体! なんて残酷なことを言う子だろうね!!」


 着せ替え人形をなんだと思っているのだ。少女のように大きな黒目をうるうるさせながら言わないでほしかった。


「あと、この人形、女の子なのになんで白いズボンをはいているんですか? 魔女なんですか?」

「それはスカートをめくるいたずらっ子があとを絶たないからだよ!! やめて!! 乱暴しないで!!」


 ディーネが二の腕をかばってブルブル震えていると、ちくちくと裁縫に励んでいた侍女のシスが立ち上がった。


「あら、それならもっといいぬいぐるみがありますわ」


 シスが持ってきたのは、ころんとした形状のぬいぐるみだ。まるみのある形状で、蛇をかたどっている。頭が三つついており、根っこのところでつながっているが、ボタンでつけ外しができるようになっている。

 ペット用の、いくら乱暴しても大丈夫なぬいぐるみ、ということで商品化したが、幼児がふりまわすおもちゃとしても結構人気を集めているやつだった。


「ダハーカくんですわぁ。この、にょろにょろっとした尻尾のところがうちの子のお気に入りなんですのよ~」


 ぬいぐるみ化するにしても、蛇じゃなくてもっとかわいいものがあるだろうと思ったのだが、なぜかシスのデザインしたやつが修道院でも一番人気を博したので、採用した。子どもにはやけにウケているが、ディーネにはなにがいいのかさっぱり分からない。


 イヌマはダハーカくんの細長い首を引っ張ったり伸ばしたり、自分の首に巻き付けたりして遊んでいたが、ボタンのギミックに気づくと、歓声をあげた。


「わあ! これいいですね! バラバラにできるところがいいです!」

「どうして惨殺にこだわるの……?」

「やられたときの表現に幅が出るじゃないですか」


 さも当たり前のように言われて、ディーネは沈黙した。子どもの思考回路はよく分からない。


「わはは! こしゃくな戦車め! 魔女を倒したぐらいでいい気になるなよ! やつは魔族の中でも最弱! このダハーカが相手だ!」

「無駄だ。何人こようが浄化する」


 イヌマはイキイキと悪役を演じ、首をひとつ落としながらも善戦。もうひとつを落とされたところで命乞いをはじめた。


「まて、勇者よ、わしの負けだ! 降参する! 宝もすべてだす! だからこの通り! 命だけは勘弁してくれ!」

「仕方がないな……」

「と見せかけて、消えろ――!」

「なに、卑怯な!」


 ダハーカはやられて、アジトが爆発炎上したところで、寸劇は終わった。おしまいに、レオがぽつりと言う。


「……楽しい」


 いつもむっつりと不機嫌なレオがほくほく顔でそう言うのだから、相当なのだろう。バックに点描が飛んでいる。開発者のディーネとしては楽しんでくれたならそれ以上のことはない。相変わらず喜んでいるポイントはよく分からないが。


「姉さま、ほかにもっとおもちゃはないんですか?」


 イヌマがきらきらした目で聞いてくる。少女のようにかわいらしい外見で乞われると、うっかりなんでも買い与えたくなってしまいそうだ。


「そうねえ……おもちゃが三つとか四つだけって、やっぱりつまらないわよねえ……」


 ディーネは携帯用ゲーム機全盛の時代を知っているので、この国の貧弱なおもちゃ事情には切なさを感じるのだ。


「とりあえず、思いつく限り、色々作らせてみましょうか……」

「それでしたら、姉さま、僕は兵隊さん人形がほしいです!」


 ――その日は弟たちの夢いっぱいな妄想おもちゃ箱の話を聞いて過ごした。


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