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阿片戦争から学ばないお嬢様

 ディーネは今日も軍需産業の研究員とともに新商品の開発にいそしんでいた。

 小粒のネタはいくつもあるが、やはりどれもぱっとしない。

 公爵家には現在金貨一千万の借金があるが、この金額に届くだけの商売というと、どうしても一発なにかデカいものを当てる必要が出てくる。


 ふと目にした麻布の袋から、あるものを連想した。


「やっぱり貿易で一番儲かるものっていったらあれだよねえ……」


 禁断の輸出品の名前。

 それは麻薬。


 クラッセン嬢の知識を参照すれば、麻薬のような陶酔成分を含んでいると思われる植物にも二、三心当たりがないでもない。宗教儀式で使う植物などを中心に調べていけば、色々見つかることだろう。


 この世界には転移魔法があるので、便利なものの伝播などが緯度・経度の違いを問わず盛んなのである。別の大陸にしか生息していない珍しい植物がなぜかこの国に伝わって大流行り、なんてこともよくあったらしい。


 そう。麻薬の原料やその製法はなんとなく知っているのだ。商品化すれば最強の効率でお金を稼げることも。ひょっとしたら国内どころか世界も制圧できるかもしれない。麻薬の危険性を知らない、文化的な後進国に狙いを定めて集中的に輸出してやれば、短時間で荒廃させられるだろうし、属国化も簡単に――


「いやいやいや。いやいや。いくらなんでも、ねえ……」


 麻薬の流通と販売はさすがにいただけない。

 どれほど儲かるとしても、それをやってしまえば人としておしまいだ。


「タバコはどうかなあ……」


 タバコであれば中毒性はそこまで重くないし、即座に命にかかわったりはしない。

 値段を高めに設定して、貴族の嗜好品として出す分には罪もないのではないだろうか。支払い能力のない庶民にヘビーな中毒性のある商品を売るのは倫理的にもアウトだろうが、この世の贅沢を知り尽くしてなお退屈で退屈でしょうがないという、金と暇を持て余している高位貴族のたしなみとしては上等かもしれない。


 ディーネは公爵領で毒薬の研究をしている錬金術師に尋ねてみることにした。


「ねえ、火をつけて煙を吸引するような植物ってないの? そうね、神さまに捧げる植物とか、神と交信するときに食べる聖なる葉っぱとか、そういうので、興奮作用があるやつ」


 ディーネがアバウトな説明を試みると、研究員のガニメデはうなった。


「それでしたら、ドネル族の戦士が使うコーンが有名ですね。吸引すると恐れを知らぬ勇敢な兵士になるということで、わが軍でも切り込み隊や決死隊などで試験的に支給しておりました。かなり効果はあるんですが、際限なくコーンを要求する者があとを絶たないので、補給の量とタイミングが問題になっています」


 おおう。それ、すごく危ないお薬っぽい。

 研究員はほかにもいくつか候補を挙げてくれた。

 強い鎮痛作用を伴う薬や、素直になってしまう薬などが混じっているのを見て、ひやりとする。


 ――これはよく吟味しないと、気づかないうちにとんでもない麻薬を流通させてしまうことになりかねない。


「劇的に効くやつはだめなのよ。あくまでもふわっといい気分になる程度のやつがいいんだけど。貴族のたしなみ程度にほんのちょっと売るだけだから。お酒みたいに、中毒性が弱くて、摂取してもあとに残らないやつってないかしら?」

「それでしたら、これですね」


 研究員が出してくれた品は、見た目だけなら、限りなく葉巻タバコに近い感じだった。


「タバクという植物を乾燥させたものです」

「おおーっ……」


 名前もなんとなく似ている。


「これは、麻の近縁種だったりしない?」

「全然違いますね。もっと南で採れる植物です」


 どうやらタバコによく似たマリファナっぽい何かということもなさそうだ。

 しかし、効能などは実際に試してみなければ分からない。


「……ちょっと試してみようかしら」


 ディーネは水の魔法が得意なので、毒などの浄化魔法も比較的得意としている。多少なら大丈夫のはず。


死亡フラグ。

作中で彼女が摂取しているのはタバコっぽい何かであり、実在の商品等とは一切関係ありません。

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