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借金一億あらため一千万の公爵領

 借金が一億から、いきなり残り1024万まで減った。

 十六進法っぽい数字だが、別にチートを使ったわけではない。


 ディーネの報告が終わり、家令のハリムが感激したように声を弾ませる。


「やりましたね、お嬢様!」


 いつも鉄壁の無表情を貫いている執事のセバスチャンも、珍しく喜色を表に出していた。


「さすがのひと言でございますね、お嬢様」


 お嬢様こと公爵令嬢ウィンディーネ・フォン・クラッセンは、照れてしまって、頭をかいた。


「いやーわたしは、大したことしてないんだけどね……」

「何をおっしゃいますか。借金が一億から一千万になったんですよ。これは大々的にお祝いをするべきです」

「すばらしい経営手腕でございます。このセバスチャン、感服いたしました」

「いやいやいや、ほんと、大したことはしてないのよ?」

「いいえ、お嬢様は、これまでに誰も思いつかなかったことをいくつも発案なさって、そのことごとくを成功させていらっしゃいます。これが神の経営手腕でなくてなんでございましょう?」


 そんな、神扱いだなんて。

 ディーネは困ってしまう。


 借金を一億から一千万に減らした方策とは、なんのことはない。


 暴利を是正しただけである。


 現代人の感覚からすれば債務整理などは基本中の基本だが、まだまだ発展途上で地球の中世期あたりの文化水準に留まっている事柄が多く見受けられるワルキューレ国においては、天才の発想とも映るのだろう。


 ともかく、公爵家が抱えている借金は、債務整理により、一千と二十四万まで減ったのだった。


「そうだ、セバスチャン、バンケットの準備は順調?」

「ええ、お嬢様のおっしゃる通りに、いくつかプランを立てました。さらに私の独断で、庶民向けの特別プラン、『結婚式コース』も企画いたしました」


 結婚式!

 目の付け所がイイ。

 日本でも、ホテルの宴会場は葬儀場の帰りや結婚式の二次会などでよく利用されていた。


「すでに園遊会で皇妃さまや皇太子さまのお墨付きをいただいておりますから、わたくしどものサービスは『皇室御用達の本格的なアフタヌーンティーサービス』と銘打つことができるでしょう。そうなれば、高級志向の庶民からの需要が見込めるかと思いました。いずれは晩餐会のコースなども研究して、本格宮廷料理のコースも創設する予定でございます。うまくいけば、連日予約で埋まるような状態に持ち込めるかと」

「いーね! じゃあそれで進めて!」


 お昼の食事会や結婚式、午後のお茶会、夜の晩餐会。最大で一日三回の宴会予約が取れれば、ひと月あたりの利益率も跳ねあがる。


 一般的に、来客が百人近くにも及ぶようなお茶会にかかる費用が大金貨一枚程度だ。晩餐会の場合は昼よりもはるかに長時間のサービスの提供に加えて宿泊客の面倒も見ないといけないので費用が跳ねあがって、大金貨で十枚ほどとなる。提供する料理の食材をリーズナブルに抑えつつ、代わりに調理法や提供する楽曲などのエンタテイメント面で箔をつければ、割高であっても注文は増えるに違いない。


「原価率って三割くらいが妥当なのよね……そうするとお茶会一件につき金貨三枚くらいは取ってもいいのかしらね」


 一度のお茶会で金貨二枚の利益。あるいは舞踏会や晩餐会で金貨二十枚の利益。それを、昼の食事会、午後のお茶会、夜の晩餐会か舞踏会、と一日三回回せば、最大でひと月あたり大金貨七百二十枚の売り上げになる。

 セバスチャンのお休みや、予約が取れなかった日なども考えれば、稼働率は四、五十パーセントほどを達成すれば上々だろうか。


「お茶会や舞踏会は毎日どこかしらの貴族の屋敷で開かれているわけだし、国内だけじゃなくて帝国の言葉が通じる外国にも手を広げれば、かなりの大事業に……!」


 早く軌道にのせて、利益が出るようにしたい。遅くても二、三か月後には本格始動するとして、これだけでディーネの持参金はかなり稼げる算段だ。


「しかし、そうなりますと、お屋敷の執事業は別の人間に任せねばならなくなります。どうか後任をお決めください」

「う……そうね。考えておくわ」


 執事その二かあ。

 どんな人がいいだろう。



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