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フィギュアを作りたいお嬢様


 公爵令嬢ディーネには前世の記憶がある。

 現在はその力を使って領地経営の真っ最中だ。


 お部屋で侍女たちとぐだぐだ歓談中、ふと次に作るおもちゃの話になった。

 戦車の模型はそろそろ飽和してきたので、別のものを用意したいとかねてからディーネは考えていた。


「限界効用……なんとかの法則なのよ」


 とディーネがご自慢の簿記二級の前世知識を侍女たちに披露すると、彼女たちは一様に浮かない顔をした。


「はぁ……」

「なんとか……とは?」

「ちょっと度忘れしちゃって思い出せないんだけど……えーと、同じものばかりを出しているとそのうち飽きられてしまうって法則よ」

「まあ、それはそうですね」

「法則っていうか、普通はそうです」

「いや、そうなんだけど、違うっていうか……ごめん、やっぱいいや。忘れて」


 ディーネは説明に詰まって、話を打ち切った。どうにもこの国にない概念を理解してもらうのは難しいようだ。


「おもちゃをお作りになるのなら、次は女の子向けのものになさいません?」

「あらいいですわね! お人形さんですとか」


 盛り上がる侍女たちのトークで、ふと先日のことを思い出した。


「人形といえば、ジークに似せた人形を今度作ろうかなって思ってるんだけど、作ったらあなたたち買う?」


 侍女たちは、遠くの物音を聞いたうさぎのように、ぴくん! とした。


「お人形を……ジークラインさまに似せるんですの?」


 まるでわけが分からない、という口調だ。

 その反応を見て、ディーネは不安になる。


「……やっぱりだめかな? いらない?」


 フィギュアだなんだというのは、ちょっとまだこの国の人たちには千年ぐらい早かったのかもしれない。


「いえ、いらないということはないのですが……」

「ちょっと見てみたい気もいたしますが……」

「ほしいかほしくないかで言ったらほしいのですが……」

「お前たち、ご婚約者さまの御前ではしたないですよ」


 ――あ、やっぱりほしいのね。

 ディーネはちょっと安心した。生粋のワルキューレ育ちの侍女たちと、前世の知識があるディーネとでは感覚が違いすぎて、たまに常識のラインを確認しておかないと不安になるのだ。


「ただ、お人形さんといえば、かわいらしい女の子が定番ではございませんの?」

「あ、あああ、そう、そうね!?」


 ディーネはちょっと恥ずかしくなった。言われてみればそうだ。フランス人形しかり、ミカちゃん人形しかり、女の子の持つ人形といえば通常は着せ替え人形を指す。


 突然、レージョがぱちんと手を打ち合わせた。


「それでしたら、ディーネさまのお人形を作ればよろしいのではなくて?」

「あら、それは結構なことですわ! それでしたらわたくしも孫娘のお土産にほしゅうございますもの!」

「いいですわね~!」

「いいんじゃありません? ディーネさまのお人形ならきっと美人さんになりますわよ~」


 シスがかたわらに置いてあったティーコゼーをとりあげた。

 それを人形に見立ててか、テーブルの上をちょこちょこと動かす。


「こんにちは、ワタシはディーネ」


 裏声で台詞の吹き替えまで始めた。


「ああ~、ケーキ、おいしいー。太っちゃうー」

「ちょっと、もう。声真似やめてよ」

「カブトムシもおいしい~」

「カブトムシ!? 私カブトムシは食べないよ!?」

「将来はセミになりたい~」

「セミ!? え!?」


 ――シスの中の私どうなってんの!?


 困っていると、今度がナリキが隣から口をはさんだ。


「ジークラインさま、だいしゅき~」

「やめて」

「ジークラインさまと結婚しゅる~」

「やめてよ! 人の黒歴史えぐるのやめて!! それ本当につらいから!!」


 ――えっ。なんなの。もしかして私、ものすごくこの子に嫌われてる?


 ディーネは横目でナリキを観察する。

 そういえばこの子には、先日の園遊会で一杯食わされたまま、お礼をまだしていなかった。


 ディーネは冷や汗を感じつつ、思い悩む。

 ディーネは今、彼女の商会を詳しく調査させているところだった。


 ――そろそろこの子とも話をつけなきゃいけないんだよねー……


 結果が出るのを待って乗り込みにいくつもりだが、友達が相手だと思うと、やりづらいのもまた事実だった。


限界効用逓減の法則

お金をかければかけるほど、一回の投資における満足度は下がるという経済用語。

初めて食べるお菓子はおいしいが、二度目、三度目になるにつれて一度目の感動は薄れていく。


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