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犯人はお前か!


 スタッフが騒然としている。


「代わりになるお茶菓子が何もない」

「あり合わせのものでどうにかしてください!」


 がなり合っている料理長らしき人物と儀典長官らしい人物がいた。

 ディーネは思わずへたり込んだ。


 ――積み荷がだめになった?


 それは紛れもなく何者かの妨害工作だ。つまり、誰かが故意に引き起こした事故である。

 この計画はそもそものはじめからトラブル続きだった。ディーネも途中でこれはおかしいと思い、用心のために、計画のことはほとんど誰にも知らせずに、内々で進めていくようにしていたのだ。しかしそれでもまた事故が起こってしまった。


 身内に、誰か、裏切り者がいる。


 心底ぞっとしたが、今は犯人を追及している場合ではない。


「ねえ、積み荷がダメっていうのは本当なの? どれか一部でも使えそうなものはない? 一個ずつ取り出して確認してみた?」


 ディーネが顔なじみの商会のスタッフをつかまえて問うと、彼は力なく首を振った。


「竜巻の魔術にやられたらしくて、すべてグッチャグチャになっているとのことです……」

「ノ――――!」


 よりによってその魔法か。これは絶対に狙われている。いくらなんでもそんなピンポイントに効果的すぎる魔術が偶然使用されるわけがない。計画的な犯行だ。


 仕方がない。過ぎたことを嘆いてもケーキは戻らないのだから、次の手を打とう。

 暗く落ち込みそうになる自分に喝を入れて、即座に思考を切り替えた。


「今からケーキを三百人分――? 無茶だ! どうしたって準備に半日はかかる!」


 ディーネは今度は儀典長官とケンカしている料理長に近寄っていった。


「材料はどのぐらいありますか!?」


 割り込みでディーネが質問をぶつけると、料理長はぎらりとにらみつけてきた。


「あん? なんだ、あんた――」

「わたくしはバームベルク公爵家のウィンディーネ・フォン・クラッセン。今回の責任者です。ここにある小麦粉や砂糖の量を教えてください。果物などもありったけ全部よ! はやく!」


 儀典長官はかすかに息をのんだ。


「フロイライン・クラッセン、今回のことはお気の毒でしたが、ここから先はどうかわたくしどもにお任せを……」

「いいえ、この場を収められるのはわたくしだけです! さあ、三百人分のケーキの材料はあるの? それともないの? はやく教えて!」

「だから、今から準備しても間に合うわけが……」


「あの、ひとつよろしいですか」


 うしろから声をかけてきたのは、ディーネの侍女であるナリキだった。


「ケーキの数が、足りないということですよね」

「ええ……そうですが」

「失礼。わたくし、ナリキ・フォン・ミナリール。ミナリール商会の会長はわたくしの父でございます」


 これにおどろいたのは料理長。


「あの、ミナリール商会の……」


 ミナリール商会は食品なども広く手掛けているから、料理長が反応するのも当然のことだった。


「それでしたら、わたくしどもがお力になれるかもしれません」


 ナリキは淡々と後を継ぐ。


「皇宮のそばに、わたくしどもの経営しておりますカフェが、およそ二十店舗ございます。すべての店からありったけの在庫をかき集めさせれば、三百名の貴族の皆さまが召し上がるケーキがそろいますわ」


 突然の申し出に、ディーネは雷に打たれたような衝撃を味わった。


 ――犯人はお前かーっ!!


 これが計画的な犯行でなくてなんだろう。彼女は最初から自分のところのケーキを使わせるつもりでわざとディーネの荷馬車を襲わせたに違いない。

 よく考えるまでもなく、バームベルク領内の小麦の流通などはミナリール商会が一番シェアを取っているのだから、いきなり取引がキャンセルされた時点で疑わしいと思うべきだった。

 うすうす彼女が犯人ではないかという気もしていたのだが、まさか、顔見知りの令嬢がそんな非道をするはずもない、と心のどこかで甘く見ていたのが敗因か。


 状況証拠は揃いまくっていたが、今はそんなことを追及している場合でもない。

 目先にある問題を解決するのが先だ。


「おお……ありがたい。では、さっそく……!」

「ええ。各店舗と連絡を取りますから、転送魔法を使用させてくださいまし。皇宮なら希少な魔法石の蓄えくらいおありですわね?」

「では魔法石の準備を……」


「――ちょーっと待ったー!!」


 ディーネの制止の声があたりに響き渡る。その場にいる誰もが凍りつき、ディーネに注目した。


 ディーネは落ち着くために二、三深呼吸をすると、静かに命令を下す。


「この場はわたくしの預かりといたします。何人たりともわたくしの許可なく行動することのないよう。従わぬ者はバームベルク公爵家の名において処します。よろしくて?」


 すごみをきかせたディーネに、反論できるものは誰もいない。


 クラッセン嬢は由緒正しい公爵家の令嬢だ。将来は史上最高の為政者と目される皇太子ジークラインの伴侶となるべく、厳しい賢妃教育を受けてきた。


 この程度のトラブルが収束できずに、皇妃は務まらないのだ。


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