落ちた先には神がいた
ピィー
パタパタと羽ばたきの音
ガサガサ木の葉を揺らして
日が差し込んでいる
うっすら目を開けてまた閉じる
ここは.......私は.......
気がついたら――
私は、地面に倒れていた。
……冷たい。
背中に、じわっと湿った土の感触。
ここ、どこ?
ゆっくり目を開けると――
目の前に、顔があった。
「……あ、起きた?」
近い近い近い。
え、なによこの人、
俳優?モデル?
いや、それより距離!
思わずガバっと上半身を起こす。
「え、なにここ、どこ?」
「ごめんねぇ。えへへ」
えへへ、やあらへん。
「いや、あんた誰?」
男は、にこっと笑って――
ピッと指を上にあげた。
その瞬間。
空中に、青い光が浮かぶ。
すーっと文字が現れて――
*クニオ*(大国主命)
……は?
「大国主って……神様?」
「うん、そうそう」
そうそうって、なんで神様なんよ。なんで神様がおるんよ。
「ごめんね、君。明日、結婚式だったんだよね?」
は?
「ちょっと手違いでさ、こっち来ちゃった」
だからー、どこなんよここは。何なんよ手違いって。
明日、やっとゴールインやのにー。
ドレス、着たかったのにー。
「あのねー。いわゆる異世界ってやつだよ。大丈夫、怖くないから」
はぁ?なんで突然異世界やねん。
怖いも何も。どういうこっちゃ。説明してくれー。
そしてちょっと真面目な顔で
「大丈夫、ちゃんと生きてる。君はここで暮らすんだ」
生きてるって?転生なん?転移?いやなにそれー。
「ほんとーに申し訳ないからさ、僕が責任を持ってお世話するよ」
いやいや意味わからんしー。
お世話って?
ほんでその服装なんなん。
パーカーにジーンズにスニーカーて。
神様やろ。神様やったらもっとこう......あぁー軽すぎちゃうんかー。
「えーっと、今野香津美さんね。これ」
ぽいっと渡されたのは、小さな光る札。
「通行証ね。君のステータスも表示されてるから」
「あと、お詫びに特殊能力つけといた」
嫌な予感しかしない。
「“違和感センサー・レベル1”」
……なにそれ。
レベル1て。なんの役に立つんや?
てか、すでにあんたが違和感やけど。
「あと、この子」
足元に、ちょこんと現れたのは――
小さな、白いこぎつね。
「まぁ眷属みたいなもん。かわいいでしょ」
いや、かわいいけど。
状況がかわいくない。
「で、どんな人がいいの?」
どんな人って、どういうこと?
でも、口が勝手に動く。
「……とりあえず、優しい方が」
神様は、満足そうにうなずいた。
「オッケー。任しといて」
いや、何任すねん。
「ここ、まっすぐ行ったらね、門があるから」
「そこから行けば、まあ分かるよ」
雑やな、案内。
いや、肝心なこと何もわからんし。
「じゃ、僕ちょっと急ぐから」
いや待てや。
「またねー」
軽っ。
ほんま軽っ。
クニオは、森の奥へすっと消えていった。
うっそー。マジー。
呆然と見上げた空は、青かった。
……静かや。
ほんまに消えた。
残されたんは、知らん森と、知らん世界と、
――足元の、白いの。
真っ白で小さなモフモフ。
小首をかしげて、黒いクリクリの目でこっちを見上げてる。そしてフワフワ動くシッポ。
……かわいい。
悔しいけど、かわいい。
抱き上げた。
両手の中で長い尻尾をふわりとまいている。
「うわーほんまにまっしろやぁー」
白いかたまりが、ぴくっと耳を動かし、目が青く光った。
ピコン♪
モフモフの上に青く光る。
*マシロ*(眷属 レベル1)
え、名前つけてもた?
「マシロ」
呼んでみる。
「きゅうん」
ああ、あかん。
これ、あかんやつや。
「しゃあない……行くか」
顔を上げる。
木の隙間の向こうに、
石の城壁。
でかい門。
たぶん、あそこ。
ましろを懐に入れる。
あったかい。
それだけで、ちょっと救われる。
そして大きく深呼吸。
一歩をふみだした。
道の先に――
ひとりの女が、立っていた。
……と思ったら。
木の陰に、なにやら動いてる。
「……え?」
あの、パーカー。
あの、茶髪。
そーっと、木の陰から覗く。
そこにいたのは――
さっきの神様。
と、金髪美女。
「ごめんねー、待ったぁ?」
「もー、遅いじゃないのー♥」
女、腕組んでる。
「じゃあ、どこ行く?」
「.........」
「フフっ♥」
クソっ、聞こえない。
なんか腹立つ。
そしてどこかに消えていった。
「……マシロ」
懐のこぎつねが、こっちを見る。
「これなぁ」
ひと呼吸おいて。
「あいつ、あかんかも」
マシロが、
「きゅん」
と、短く鳴いた。
「……」
顔を上げる。
もう一度、城壁のほうを見る。
でかい門。
「行こか、マシロ」
私は歩き出した。
森を抜けると、
急に、視界が開けた。
「……でか」
思わず声が出る。
目の前にあったのは
城門ーーではなく、赤い、でっかい鳥居。
その前に立つ背の高い男。
うわっ。門番?いや鳥居番?
近づくと――
ピコン、と
頭の上に青い光が浮かんだ。
*サルコー*(猿田彦命)
……また神様かい。
男は、じっと私を見る。
じーっと。
うっ。どうしよ。そやそや通行証や。
「……ふむ」
「そっか。君か」
なにがや。
「クニオから聞いとる」
あ、あいつ、ちゃんと連絡はしてるんや。
「……まあ、いろいろあるじゃろうが、頑張りなさい」
え。頑張れって?何を?
「まっすぐ行きなさい」
男は、ゆっくり門の奥を指した。
「大通りに出て突き当たりに、ギルドがある」
ギルド?
「気をつけてな」
ギルドなん?
「あ……ありがとう...ございます」
サルコーが両手を広げると、
空気が、変わった。
目の前に広がったのは、
にぎやかな通り。
「……なんやこれ」
右には、石造りの店。
左には、木造の屋台。
肉を焼くいい匂いがしてる。
中世っぽいけど、和風もあるし、なんかもう混ざりすぎてて分からん。
あー。耳生えてるのもおるー。
「……異世界か」
誰に言うでもなく、つぶやく。
ましろが腕の中で
「きゅん」と鳴いた。
「……まあええわ」
どうせ、戻られへんねんやろ。
どうにでもなれー。ヤケクソや。
通りの奥に、
ひときわ目立つ建物が見えた。
派手な装飾。
「......ここやな」
その上に――
でかでかと書かれていた。
♥婚活ギルド♥
「……婚活?」
ドアの上には――
でっかい、しめ縄。
「出雲大社か!」
思わずツッコむ。
婚活に全振りしとるやん。
「……入るか」
深呼吸ひとつ。
ドアを押す。
ギィ、と音を立てて開く。
「……は?」
中は――
正面に、カウンター。
横には、紙がびっしりの掲示板。
その掲示板の前にはひとりのおっさん。
「……」
おっさんは、ちらっとこっちを見て、すぐまた掲示板に戻る。
あちゃー。気まず。
奥に目をやる。
カウンターの向こうに――
ひとり、座っていた。
背筋がすっと伸びた、綺麗なお姉さん。
その瞬間。
ピコン、と光が浮かぶ。
*スセリ*(須勢理毘売命)
……また神様。
お姉さんは、ゆっくり顔を上げて、
まっすぐこっちを見た。
「いらっしゃいませ」
声が、きれい。
「婚活ギルドへようこそ」
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=大国主命=
国造りと縁結びを司る神。
多くの試練と別れを越え、人と人、神と人の縁を結んできた。
=猿田彦命=
天孫降臨の道案内を務めた神。
導きと道開きの神として、境界に立ち行く先を示す存在。
=須勢理毘売命=
大国主の正妻にして、須佐之男命の娘。
夫を深く愛し、その行く末を見守り続ける女神。




