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セーフハウスと襲撃者

 ヤケに、重装備だ。

 なんでも今回逮捕する相手はホテル街で女を買っていた。

 その時に使用していた電子ドラッグの使用剤成分が違反だということで、今回逮捕に踏み切る。


 しかし、成分と言われても多少廃人化が進む程度のレベルだ。

 それに対してあてがわれている警官の数は、自分を含めて六人。しかもそのうち半分は機動隊用装備で行けとの指示だった。


 それもエプトからの指示、というのが気に食わない。

 エプトはやることなすこと過激すぎる。

 その暴力的手段で相手が萎縮するから、自分たち普通の警察官からすれば、住民を逮捕して金を巻き上げるとか、そういった今まで出来ていたことも出来なくなったし、やりづらくなった。


 正直言って今回の相手がまともに反応しないなら『抵抗したから射殺した』という事実だけでっち上げて金品軒並み略奪してとっとと上がりたいとも考えている。

 むしろそっちのほうが楽でいい。


「めんどくせぇなぁ、ホントに」


 そう呟いてから、隊長はターゲットのいるアパートに向かう装甲車の中で警官に一応のブリーフィングを行う。


「よし、お前ら、分かってると思うが、今回の任務は正直パシリみたいな感じだ。気に食わないのは分かるが、楽な仕事ではある」


 そう言ってから、隊長は警官全員の目を見て、電脳に情報を送った。


「ジェイミー・ネクサス。年齢三一歳。それが今回逮捕することになる奴だ。罪状は電子ドラッグ禁止法違反。お前らからすればアクビが出るほど簡単な仕事だ」

「隊長、こいつの来歴調べましたが、軍にいた経歴あるっぽいですね」

「あー、でも泣きついて離反してクビになってるから、どうせ大したことはねぇ。やることはいつもと同じだ」

「抵抗したら?」

「殺して金持って変えりゃいいんだよ」

「こっそりと、ですね?」

「そゆこった。さ、とっととかかろうか」


 そう言ってから、機動隊装備の警官を先頭にして、ジェイミーのいるアパートに突入する。

 タバコとドラッグのすえた匂いがする。


 後で適当にしょっぴいてもいいな。


 そう隊長は思ってから、ジェイミーの部屋を包囲した。

 機動隊装備の警官で左右と前方を包囲し、その後方に自分たちのような普通の警官がサポート役としてつく、という状況だ。


 住人は、気にする様子もない。

 恐らく慣れているのだろう。

 そう思った直後、隊長は頷いて、機動隊装備の警官に自動ドアを開けさせた。


「オラ、クソッタレのジェイミー・ネクサス! 逮捕に来てやったぞ!」


 そういって突入した瞬間だった。

 横にいた、通常装備の警官が倒れた。


 なんだ。


 そう思った時、眼の前に飛び込んできたのは、男の死体。

 眉間をぶち抜かれた、隊長の死体だ。

 冷や汗が、止まらなくなった。

 そしてその死体が、首を上げて、にやりと笑った。


 直後、銃声。

 もう一人の部下が、眉間を一発で仕留められていた。


 しかし、誰もいない。


 まさか。


 思った直後に機動隊装備の警官から声がする。


「隊長! ジェイミーがいます! 後ろ!」

「え?」


 直後。

 視界が、真っ黒になった。



 拳銃を奪うのがやっとこさだ。

 さすがに丸腰で機動隊装備と戦うほど、自分は馬鹿じゃない。

 だから悪いと思いつつ、三人ほど警官を殺させてもらい、そこから拳銃をもらった。


 ジェイミーは分かっていた。それも最初から。

 このアパート自体が、そもそもジェイミーにとっては巨大なセーフハウスだ。

 住人の気づかない間に大量の監視センサーと警察無線の傍受ユニットをつけている要塞でもある。

 そこに装甲車が向かっているのだ。


 明らかに消しに来た。そう嗅ぎ取るには十分な証拠だった。

 エプトがいないのだけは幸いだが、機動隊装備は厄介だ。

 よりにもよって完全ヘルメットに電脳ハック防止型のバイザー付き。


 電脳ハックは軍経験者でも特殊な任務についていない限り不可能な技術だ。その時に電脳に埋め込まれる特殊なチップを介して、相手の目を見ることで相手の電脳をハックする。

 それが自分たちのような連中が行える電脳ハックだ。だから一般人には使うことどころか、存在すら警察と軍関係者以外知らない。


 しかし、この技術を使うには条件があった。

 相手の目を見ること。

 電脳デバイスを埋め込んだ連中は、全員眼が電脳の入口そのものだ。

 その入口がバイザーで塞がれているとなると、途端にこの技は無力になる。


「ちぃ、殺人犯が!」


 そう言って機動隊装備の警官がサブマシンガンを撃ってくる。

 銃声。甲高い音と空薬莢の落ちる音が聞こえるが、それもジェイミーからすれば、スローモーションの世界に過ぎない。


 銃弾は所詮まっすぐにしか飛ばない。

 だからこそ、奪った拳銃を撃って、相手が撃ってきたサブマシンガンの弾と全く同じ場所に当てた。

 相殺された弾は金属音が鳴り響いて、その当たった場所に落ちる。


 そして一人の機動隊装備の警官の背後を取った直後、右腕を展開した。

 ブレード。

 前腕から展開した折りたたみ式のブレードが、警官のボディアーマーを貫通して、ジェイミーの身体を血で染める。

 ブレードには生体センサーもセットしてあるが、それが相手の生命が消えたことを知らせた。


 そのまま、その警官を盾にしつつ、サブマシンガンを奪って、動揺している他の警官二人の脚と腕を両方とも、一発ずつで撃ち抜いた。

 一瞬で、両名とも戦闘不能になる。


 同時に、盾にしていた警官を戦闘不能になった警官に向けて投げてその死体で下敷きにした。

 当然、相手は身動きすら取れない。


「く、来るな!」


 警官の一人が、怯えた声で言った。

 ジェイミーは二人の警官からメットを取った。


 相手の目が怯えきっている。

 だが、知ったことではない。


「襲ってきたのはお前らだ。バイザーさえなきゃ、所詮は電脳になった木偶の坊にすぎねぇってこと教えてやる」


 二人同時に電脳をハックした。

 そこには、青い光が流れる、ネットの海があった。


 悲鳴にも似た怯えた声がネットの海の中でノイズのように駆け巡っているが、そんな物は知ったことではない。

 そのネットの海の中から、情報だけを根こそぎ取る。


 セーフハウスの場所がバレた理由も、そこにはあった。

 あのホテル街だ。

 そこの中のネオンのLEDの中に最新の超小型カメラが無数に仕掛けてあったようだ。それも、あの街にいたメンバー全員をクラックした状態で仕掛けていたようだ。


 つまり、あのホテル街自体が完全にエプトの手に落ちていたことになる。

 どうやら相手は、想像以上に監視社会を徹底させたいらしい。

 ホテル街が密談で使われることも恐れているのだろう。


 同時に、あのエプトに殺された奴の情報も出てきた。

 死亡届が出ていたやつはアングラ系の情報屋だった。死亡理由は『事故死』となっている。

 経歴は、見てみるとこいつも元軍部所属だった。それも、自分が離反して少し後に、同じ部隊に所属していた。


 つまり、エプトはあの部隊に所属していた連中を消して回っているのだ。

 非合法なことも厭わない、電脳電子戦闘専門の全身義体化を強制される、表向き後方部隊となっている特殊部隊『七八二一小隊』を。


 それが知れれば用はない。

 そのまま、ジェイミーは相手のニューロンを焼き切って、警官を殺した。


 次のセーフハウスへ向かう前に片っ端から装備を服の中に入れて、街中へとジェイミーは消えた。

 正直言うと、むしゃくしゃしている。


 自分らしくないなと思いつつも、軍だった自分の勘が、嫌でも戻ってきているのを感じる。


『随分派手に暴れたな。お前らしくもない』


 ガルムからの秘匿通信。


「喧嘩をふっかけてきたのはあいつだ。だから俺は買った。こいつは俺なりの挨拶だ」

『警官六人殺しか。これでお前は警察とエプトに追われることになるぞ』

「願ったりかなったりだ。どうせあいつの影を見つけた時から、こうなることくらい分かっていたはずだろ」

『そうだな。やはり目的は復讐、か?』

「そうだな。それもある。もう臆病者の仮面は捨てるさ」


 そう言ってから、ジェイミーはタバコを吸う。


「俺は、奴を殺すために生きているんだからな。そして、奴も本気で喧嘩にぶつかってくるのを望んでいる」

『修羅の道が、始まるか』

「もう、とっくに始まってるさ」


 そう言ってから、ガルムの通信は切れた。

 夕暮れの空は、まるであの時、全身義体化される時の自分の身体のように真っ赤だった。


 その空へ、言い放つ。


「待ってろよ。アルファ・ニコラウス。てめぇがふっかけた喧嘩、買ってやる」

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