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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第254話:アドバイスと、手つなぎ

「えっと……昨日、自分なりにどういう動画を作りたいか、少しだけメモにまとめてきたんです」


カフェの窓際の席。

向かい合わせに座る彩音さんと翔さんに、俺は自分のスマホのメモ画面を開いて見せた。


「俺が作りたいのは、料理のレシピ動画です。ターゲットは、俺たちみたいな高校生だけじゃなくて、大学生や新社会人とか……10代から20代前半で、一人暮らしをしている人たちを想定しています」


初めての「プレゼン」という状況に、どうしても声が硬くなってしまう。


「自炊したくても、何から始めればいいか分からない人に向けて、誰でも簡単に真似できるような献立を発信できたらなって……。機材は、とりあえずスマホのカメラと三脚があればいいのかなと……」


言いながら、俺は内心で(ちょっと真面目すぎたか?)(素人の浅知恵って笑われないか?)と不安になっていた。

言葉に詰まりそうになった、その時だった。


スッ……。


テーブルの下で、俺の左手に柔らかい感触が触れた。

驚いて視線を落とすわけにはいかないが、それが誰の手かは見なくても分かる。

隣に座る凛が、自分の小さな手を俺の手に重ね、指を絡めるようにギュッと力強く握ってくれたのだ。


『大丈夫だよ』


声に出さなくても、その温もりから凛の優しい励ましが伝わってくる。

テーブルの上では真面目な顔で話を聞いている凛が、下では俺の手をぎゅっと握りしめている。

その秘密のスキンシップと、彼女の体温のおかげで、強張っていた肩の力が不思議とスッと抜けていった。


「なるほど。ターゲット層もすごく明確だし、すごくいいと思う!」

「うん、朝陽くん、一晩でこれだけしっかり考えてきたのすごいね」


俺の説明を聞き終えた二人が、感心したように頷いてくれた。

ホッと息を吐いたタイミングで、店員さんが注文していたドリンクを運んできた。


「お待たせいたしました。ブレンドコーヒーお二つと、アイスティー、それから季節限定のキャラメルマロンラテになります」


凛の前に、たっぷりのホイップクリームとキャラメルソース、そして細かく砕かれた栗がトッピングされた甘そうなラテが置かれる。


「わぁっ、美味しそう……!」


凛は目を輝かせ、さっそくストローに口をつけた。

コクのあるエスプレッソと甘いマロンの風味が合わさった冷たいラテを一口飲んだ瞬間、凛の顔がパァッと明るくなった。


「んんっ! これすっごく美味しい! 栗の甘さにキャラメルのほろ苦さがピッタリ合ってる! ……ほら、朝陽くんも一口飲んでみて!」


そう言って凛は、自分が今口をつけていたばかりのストローを、ごく自然な動作で俺の口元へと差し出してきた。


「…ん!?」


いやいや、ちょっと待て。

家で二人きりの時ならいざ知らず、今は初対面の先輩カップルの目の前だぞ!?


俺が少し慌てて視線を泳がせると、向かいの席の彩音さんと翔さんが、目を丸くした後に「ふふっ」と吹き出していた。


「あはは、本当に仲いいなぁ。凛ちゃんがこんなに隙だらけなの、初めて見たかも」

「仕事の時はあんなにクールで隙がないのにね」

「えっ? あ、いや……これはその……っ!」


二人にからかわれて、自分が無意識にとんでもないことをしていたと気づいた凛が、ハッとしたように顔を真っ赤にする。

俺はそんな彼女の頭をポンと撫でてから、差し出されたストローから一口だけラテを飲んだ。


「……うん、美味いな。甘すぎなくてちょうどいい」

「〜〜っ! もうっ……朝陽くんの意地悪……っ」


顔を真っ赤にして、照れ隠しのように俺の袖をギュッと引っ張る凛。

テーブルの下で再び俺の手を握り直してくる彼女の可愛さに、俺の口元も自然と緩んでしまっていた。


和やかな空気になったところで、翔さんがコーヒーカップを置いて真面目なトーンに切り替えた。


「機材のことなんだけど、朝陽くんの言う通り、最初はスマホのカメラで十分だよ。最近の機種は本当に性能がいいからね」

「やっぱりスマホで大丈夫なんですね。よかった」

「うん。その代わり、手元を真上から綺麗に撮るためのスマホスタンドと、料理を美味しそうに見せるためのリングライト。この二つだけは揃えた方がいいかな」


翔さんがスマホで具体的なおすすめ機材の画像をいくつか見せてくれる。

どれも数千円で買えるものばかりで、これなら俺のお小遣いでも十分に手が届く。


「それから、企画についてなんだけど」


今度は彩音さんが、俺のメモを見ながら口を開いた。


「さっき朝陽くんが言ってくれた『10代から20代前半の一人暮らしの人』っていうターゲット設定。こういうのを、動画作りでは『ペルソナ』って言うんだ」

「ペルソナ……」

「そう。そこからもう一歩だけ踏み込んで、そのペルソナが『どんな悩みを抱えているか』を具体的に想像してみてほしいの」


彩音さんが優しい先生のように、分かりやすく教えてくれる。


「例えば、一人暮らしの学生なら『お金がない』『コンロが一口しかない』『まな板を置くスペースが狭い』とかね。そういう具体的な悩みを解決してあげるレシピを作ると、一気に需要が跳ね上がるよ」

「なるほど……。コンロが一口でも作れるレシピとか、洗い物が少ないフライパン一つレシピとか……」

「そうそう! その視点、すごくいいよ!」


目から鱗だった。

ただ美味しいものを作るだけじゃなく、見てくれる人の生活に寄り添うこと。

毎日凛の生活を支えている俺にとって、それは決して難しくない考え方だと思えた。


「とりあえず、今日の打ち合わせはこんな感じかな。まずは二人でゆっくり、チャンネル名と、一発目の動画のメニュー、それにタイトルをどうするか話し合ってみて」

「はい、分かりました」


俺が頷くと、彩音さんがにっこりと笑って続けた。


「それらが決まったら、一度LINEで教えてくれる? そしたら、どんな風に撮影したらいいか具体的なアドバイスを送るから」

「ありがとうございます!」

「で、実際に動画を撮り終わったら、次は編集作業だよね。その時はまた集まって、私が直接編集のやり方を教えに行くからさ!」

「えっ、そこまでしてもらっていいんですか……?」

「もちろん! 凛ちゃんにはいつもお世話になってるし、朝陽くんの料理、私もすごく楽しみにしてるから」


翔さんも隣で優しく頷いてくれている。

ただでさえ忙しい大学生なのに、見ず知らずの高校生のためにここまで親身になってくれるなんて。


「今日は本当にありがとうございました! 決まったら、すぐに連絡します!」


店の外へ出て、俺は二人に深く頭を下げた。


「うん、頑張ってね。凛ちゃんも、またイラストの打ち合わせよろしく!」

「はいっ! 今日は本当にありがとうございました!」


先輩カップルを見送り、駅前の喧騒の中で俺と凛は二人きりになった。


「はぁ……緊張したぁ」


俺が大きく息を吐き出すと、凛が満面の笑みで俺の腕にギュッと抱きついてきた。


「お疲れ様、朝陽くん! すっごく立派だったよ! 私、朝陽くんが真剣にお話ししてる横顔見てたら、また惚れ直しちゃった」

「お前なぁ……人の気も知らないで、テーブルの下で手なんか握ってくるし」

「えへへ、だって朝陽くん、ガチガチだったから。ちょっとだけパワーを分けてあげようと思って」


悪戯っぽく笑う凛の頭を、もう一度だけ優しく撫でる。

彼女のサポートと、心強い先輩たちのおかげで、俺のやるべきことがハッキリと見えた充実した時間だった。


「さて! 難しいお話はここまで! 次は私のお洋服選びに付き合ってもらうからね!」

「ああ、分かってるよ。行こうか」


俺の腕に自分の腕を絡ませて、機嫌良く歩き出す凛。

新しい目標への具体的な第一歩を踏み出した高揚感と、隣を歩く大好きな彼女の温もりを感じながら、俺たちは秋晴れの街へと歩き出した。

第254話、ありがとうございました!

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