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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第225話:秘密の買い出しと、チーズケーキ

「じゃあ、私、仕事してくるね」

「おう。無理すんなよ。たまに様子見に行くからな」


おばあ様を見送って、おはようのやり直しハグを済ませた後。

すっかり目を覚ました凛は、二〇二号室にある自分の仕事部屋へと向かっていった。


休日とはいえ、イラストレーターである彼女に決まった休みはない。

締め切りが近ければ土日でも机に向かうのが日常だ。


俺は自分の部屋で少しだけ家事を済ませてから、温かい紅茶と、手軽につまめるチョコレートを小皿に乗せて彼女の部屋へ向かった。


「お疲れ。これ、ここに置いとくぞ」

「あ、ありがとう朝陽くん」


液タブに向かってペンを走らせる凛の邪魔にならないよう、サイドテーブルに差し入れを置く。


「俺、ちょっとスーパーに行ってくる。生活必需品が切れそうだから、三十分くらいで戻るよ」

「うん、いってらっしゃい。気をつけてね、何かあったら連絡して」


画面から目を離さずに返事をする凛の横顔を見届け、俺はアパートを出た。


向かった先のスーパーで俺がカゴに入れたのは、トイレットペーパーなどの日用品ではなく、クリームチーズ、生クリーム、レモン、そして無塩バターやビスケットだった。

これらはすべて『ニューヨークチーズケーキ』を作るための材料だ。


以前、凛の誕生日のお祝いにケーキ屋さんへ行った時、彼女はショーケースの前でショートケーキとチーズケーキの二つで、最後まで真剣に悩んでいた。

結局ショートケーキを選んだのだが、あの時の名残惜しそうな顔がずっと頭の片隅に残っていた。


それに、誕生日の時はバタバタしていて、手作りのケーキを焼いてやれなかったのも俺の中では少し心残りだったのだ。


(休日で時間もあるし、ずっと作ってやりたかったからちょうどいい)


驚く凛の顔を想像しながら、俺は足早にアパートへと帰路についた。


帰宅後、買ってきた材料を急いで冷蔵庫の奥に隠し、一度凛の様子を見に行った。


「ただいま。何か必要なものとかあるか?」

「おかえりなさい。ううん、大丈夫だよ。ありがとう」


集中モードに入っている彼女を確認し、俺は自分の部屋のキッチンに立った。


ビスケットを砕いてバターと混ぜ、型の底に敷き詰める。

常温に戻したクリームチーズをボウルに入れ、空気が入りすぎないように泡立て器でなめらかになるまで丁寧に練り、他の材料を順番にすり混ぜていく。

なめらかな生地を型に流し込み、オーブンへと入れた。


じっくりと湯煎焼きにしている間、せっかくなので余ったバターや小麦粉を使って、三時のおやつ用の簡単なクッキーも焼いておくことにした。


しばらくすると、オーブンから漂う甘い香りが部屋中に満ちてきた。

(いかん、このままでは凛が来た時にバレてしまう)

俺は慌ててキッチンの換気扇を「強」にし、窓を少し開けて空気の入れ替えを行った。

焼き上がったチーズケーキの粗熱を取り、ラップをして冷蔵庫でしっかりと冷やす。

これでサプライズの準備は完了だ。


お昼。

時計の針がてっぺんを指したところで、俺は『キノコとベーコンの和風パスタ』を作って、凛を呼びに行った。


「お昼できたぞ」

「わかった、今行くね」


しばらくして、俺の部屋のドアが開いて凛が入ってくる。

すると、彼女は部屋に入るなり鼻をクンクンとさせた。


「あれ? なんかすごく甘くていい匂いがした気がするんだけど……」


換気はしたものの、やはり微かに香りが残っていたらしい。

俺は内心少しだけ焦りつつも、平然とした顔で答えた。


「あぁ、ついでにクッキー焼いたんだ。後で三時のおやつに持っていくよ」

「本当!? やったぁ、ありがとう!」


凛はパッと顔を輝かせ、嬉しそうにダイニングの席に座った。

本命のチーズケーキが冷蔵庫に隠されていることには、全く気づいていないようだ。


「いただきまーす。……んっ、パスタ美味しい!」

「そりゃどうも」


食後、凛は「じゃあ午後も頑張ってくるね」と再び仕事部屋へと戻っていった。


午後三時。

約束通り、俺は淹れたてのコーヒーと焼きたてのクッキーをお盆に乗せて凛の部屋へ入った。


「おっ、ちょうどいいところに来てくれた。ありがとう」

「どういたしまして。進み具合はどうだ?」


凛はクッキーを一口かじって「美味しいっ」と微笑んだが、無意識にトントンと自分の肩を叩き、首をグルグルと回していた。


「結構疲れがたまってるみたいだな。今日は少し早めに上がったらどうだ?」


俺がそう提案すると、凛は少しだけ考えてからコクリと頷いた。


「そうだね……じゃあ、16時になったら終わろうかな」

「わかった。じゃあ、後で俺の部屋でゆっくりしよう」


そして16時。

仕事を切り上げた凛が、二〇一号室のソファにやってきた。

夕食の準備を始める17時までの約一時間。

俺たちはソファでぴったりとくっついて座り、テレビを眺めながらのんびりと言葉を交わした。


「ねえ朝陽くん、来週の遊園地なんだけどさ。友達から聞いたんだけど、新しくできたアトラクション、すごく面白いらしいよ」

「へえ、絶叫系か?」

「ううん、シューティングゲームみたいなやつ。二人でスコア競えるんだって」

「面白そうだな。絶対勝つけど」

「ふふっ、負けないもん」


何気ない会話。ただ隣に体温を感じながら過ごす時間が、たまらなく心地よかった。


17時を回り、俺はキッチンに立って晩御飯の準備を始めた。

食後に重めのケーキが控えているため、夕食は胃に優しい『鶏肉のトマト煮込みと、コンソメスープ、彩りサラダ』にしておいた。


「美味しいね。最近、朝陽くんのご飯のレベルがどんどん上がってる気がする」

「そりゃどうも。作りがいがあるよ」


二人で向かい合って、ゆっくりと食事を楽しむ。

そして、お皿を片付け終え、温かいお茶を淹れて一息ついた時だった。


「……なぁ、凛」

「ん? なぁに?」


不思議そうに小首を傾げる凛に向かって、俺は立ち上がり、冷蔵庫へ向かった。


「実は、凛にちょっとしたものを作ったんだ」


そう言って、俺は冷蔵庫でしっかりと冷やしておいた箱を取り出し、ダイニングテーブルの凛の前にそっと置いた。


「え……?」


箱を開けると、そこには綺麗な焼き色のついた、ずっしりとした『ニューヨークチーズケーキ』が姿を現した。


「これ……!」

「誕生日の時、ケーキ屋さんでショートケーキとどっちにするか、最後まで迷ってたろ。だから、今日作ってみた」


俺の言葉に、凛は目を丸くして、それからチーズケーキと俺の顔を交互に見つめた。

休日の穏やかな夜に、俺が用意したささやかなリベンジのサプライズ。

凛がどんな顔でこれを食べてくれるのか、俺はそれが楽しみで仕方なかった。

第225話、ありがとうございました!

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