第221話:守られた腕と、自慢の彼氏
今回は久しぶりの凛ちゃん視点!
三時間目。
担任の先生が不在となり、自習になった二年二組の教室。
自分の席に座った私は、そっと長袖のブラウスをまくり上げた。
そこには、保健室で朝陽くんが不器用ながらも優しく巻いてくれた、湿布とそれを留める白い包帯があった。
それを見つめていると、二時間目の終わりの出来事が鮮明に蘇ってくる。
男子に無理やり腕を掴まれた瞬間。
いつもは温厚な朝陽くんが、ガタッと椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、私を庇ってくれた。
『……その手を、離せと言ってるんだ』
その時の朝陽くんの目は、周りの男子たちから見れば、すくみ上がるほど冷たくて恐ろしい瞳だったのかもしれない。
でも、私から見れば全然違った。
私を守るために本気で怒ってくれた、キリッとした鋭い目つき。
不謹慎かもしれないけれど、私にはその姿が、震えるほど頼もしくて、最高にかっこよく見えてしまったのだ。
(これが陽菜の言う「恋人補正」というやつなのだろうか)
(…ああ、私……本当に、朝陽くんの彼女なんだ)
守られた腕の温もりを感じながら、胸の奥が甘く痺れるような幸福感に浸る。
「絶対に不安にさせない」と言ってくれた彼の言葉が、本当の意味で実感できた気がした。
「おかえり、凛」
自習中、隣の席の陽菜が椅子を少しだけこちらに近づけて、小声で話しかけてきた。
「なんか、一組の教室で瀬戸くんが凛のためにブチギレて大暴れしたって噂になってるけど?」
「……大暴れなんてしてないよ。朝陽くんは、ただ私を庇ってくれただけ」
ニヤニヤとからかうように聞いてくる陽菜に対し、私は少しだけ頬を熱くしながら小声で答えた。
「へえ。……怖くなかった?」
「ううん、全然怖くなかったよ。むしろ、すごく頼りがいがあって……かっこよかった」
私が誤魔化さずにそう伝えると、陽菜は少しだけ目を丸くした後、肩をすくめて笑った。
「はいはい、ごちそうさま。……いやー、それにしても瀬戸くん、熱いねぇ。凛がそこまでベタ惚れになるのもわかる気がするよ」
「もう、からかわないでよ……」
陽菜とそんなやり取りをしていると、少し離れた席から、クラスでよく話す女子の友人二人組が心配そうな顔で近づいてきた。
「冬月さん、腕大丈夫? なんか、一組の男子が生徒指導室に連行されたって聞いたんだけど……」
「瀬戸くんって、もしかして結構怖い人なの……?」
どうやら、朝陽くんが怒ったという噂が尾ひれをつけて広まり、彼女たちは少し怯えてしまっているようだった。
私は背筋をスッと伸ばし、彼女たちに向き直った。
「腕はもう大丈夫。……でも、一つだけ誤解しないでほしいんですが」
私は、いつもの「氷の令嬢」としての冷たい表情ではなく、自分でもわかるくらい自然に綻んだ笑顔を浮かべて答えた。
「彼は決して、怖い人ではありません。ただ、私のために怒ってくれただけ。普段は誰よりも優しくて、私のことを一番に大切にしてくれる……私の、自慢の彼氏ですから」
堂々と、誇りを持ってそう告げる。
すると、私のあまりにも幸せそうな顔を見た女子二人は、ぽかんと口を開けた後、顔を見合わせて息をついた。
「……そっか。なんか、すごいね。これじゃあ、他の男子たちはもう絶対に入り込む隙なんてないわね」
「うん。瀬戸くん、すごく素敵な彼氏さんなんだね」
彼女たちの言葉に、私は「はい」と嬉しく頷いた。
女子たちが席に戻り、私は窓の外の景色をぼんやりと見つめた。
もちろん、これで何もかもが終わったわけではない。
来週の遊園地に行けば、また公認カップルとして騒がれることになるだろう。
でも、コソコソと隠れる必要がなくなったことで、気分はとても晴れやかだった。
これからは、朝も帰りも堂々と一緒に歩けるし、お昼ご飯だって当たり前のように隣で食べられる。
(早く、今日の学校終わらないかな……)
窓から吹き込む秋の風を感じながら、私の頭の中は、すでに放課後のことでいっぱいになっていた。
今日は金曜日。
そういえば昨日の夜、朝陽くんは「金曜日の夜なら、添い寝してもいいよ」と約束してくれたのだ。
その甘い約束を思い出すだけで、口元が自然と緩んでしまう。
大好きな彼氏への愛しさを噛み締めながら、私は平和になった午後の授業が終わるのを、今か今かと待ちわびていた。
第221話、ありがとうございました!
朝陽くんの怒る姿も、凛ちゃんから見れば「最高にかっこいい自慢の彼氏」でした。
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