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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第201話:雑貨屋の視線と、広まる噂

「あ、これ可愛い。お部屋に飾るのにちょうどいいかも」


大型商業施設の上の階にある雑貨屋で、凛は楽しそうに秋らしいポストカードの並ぶラックを眺めていた。

変装用の伊達眼鏡の奥で、真剣にカードを選んでいる横顔を隣で見守る。


「紅葉のやつか。いいんじゃないか、季節感あって」

「うん、これにするね」


凛が嬉しそうにポストカードを数枚手に取った、ちょうどその時だった。

ふと、背中からチクッとした視線を感じた。

誰かに、じっと見られているような感覚。


「……ん?」


俺は少し首を傾げ、パッと後ろを振り返った。

しかし、そこにあるのは休日の買い物客が行き交う通路だけで、特にこちらを気にしているような人物は見当たらない。もちろん、知っている顔もない。


「どうしたの、朝陽くん?」

「いや……なんでもない。気のせいだ」


休日の人混みだ。誰かとたまたま視線が合ったか、勘違いだろう。

俺は深く考えるのをやめて、凛と一緒にレジへと向かった。



買い物を終えて、俺たちは無事にアパートへと帰還した。


「誰にもバレなくてよかったな」

「うん! すっごく楽しかったね」


エコバッグから買ってきた食材を取り出しながら、俺たちはホッと胸をなでおろした。

その日の夕飯は、予定通り二人でお鍋を作ることにした。


二人でキッチンに立ち、手際よく準備を進める。

少し肌寒くなってきた秋の夜、卓上コンロに乗せた土鍋から、出汁と野菜のいい匂いが部屋いっぱいに広がっていく。


「朝陽くん、お肉も良い感じに色が変わってきたよ。スープの味見、してみる?」

「お、サンキュ」


俺が小皿を取ろうとすると、凛はふーふーと息を吹きかけて冷ましたお玉のスープを、そのまま俺の口元へとスッと差し出してきた。


「はい、あーん」

「っ……」


不意打ちの行動に少しドキリとしたが、ここで照れるのも悔しいので、俺は大人しく口を開けてスープを飲んだ。


「……美味い。」

「本当? よかったぁ」


俺が褒めると、凛はパァッと顔を輝かせ、嬉しそうに自分もスープを一口飲んだ。

俺が口をつけたのと同じ場所から飲んでいることに本人は無自覚なようだが、見ているこっちの心臓が持たない。


「ん〜っ、すごく美味しい! 白菜も甘くなってるし、最高だね!」

「ああ。やっぱり、年中通して鍋は美味いな」


俺たちは向かい合って座り、白菜やキノコ、たっぷりの豚肉が入ったお鍋をつついた。

今日スーパーで見たものや、来週のイルミネーションの話。何気ない会話の一つ一つが楽しくて、時間が経つのを忘れてしまう。



「……残ったスープ、明日の朝、雑炊にしようか」

「うんっ!」


幸せな満腹感に包まれながら、後片付けを済ませてお風呂に入り、俺たちはそれぞれの部屋で眠りについた。

本当に、平和で満ち足りた日曜日だった。



翌日の月曜日。

いつも通り登校し、一時間目の授業が終わった後の休み時間。

俺が自分の席で次の授業の準備をしていると、大輝と寺田さんが連れ立って俺の机にやってきた。


「お、二人ともおはよう。どうした?」


俺が軽く挨拶をすると、二人はなんだか妙に真剣な顔つきをしていた。


「おう。……なぁ朝陽。お前、昨日……隣町のショッピングモールにいなかったか?」


大輝が少し声を潜めて、探るような目で聞いてきた。


「ああ、いたけど。なんだ、お前らもあの場にいたのか?」


俺が普通にそう答えると、大輝と寺田さんは顔を見合わせた。

そして、寺田さんが周りを少し気にしながら、小声で提案してくる。


「……ちょっと、場所変えよっか」

「だな」


二人に促され、俺は少し不思議に思いながらも席を立ち、人目のつかない階段の踊り場へと移動した。



「違うのよ。私たちがいたわけじゃなくてさ」


階段の踊り場に着くなり、寺田さんが声を潜めて切り出した。


「今日、朝から女子の間でちょっとした噂が流れてて……。昨日、ショッピングモールで朝陽くんが『知らない女の子』と親しげに歩いてるのを目撃した女子がいるらしいんだよね」

「……は?」


俺は思わず間抜けな声を出した。

昨日の雑貨屋での、あの背中を刺すような視線。

あれは気のせいじゃなかったのだ。


「『朝陽くん、実は彼女いたんだ!』って、今ちょっとした騒ぎになってるぜ? まぁ、俺たちは冬月さんがお前の返事待ちで『保留中』だって知ってるから、別の女の子なわけないって分かってたけどな」


大輝の言葉に、俺は小さくため息をつき、頭を掻いた。


「……あー、なるほどな。実は昨日、二人で冬服とか買いに行ったんだよ。で、休日に出歩くと目立つからって、冬月さんが変装してたんだ。その方が周りの目も気にせず、気楽に買い物できるからって」

「あー、なるほどね。やっぱりそういうことか」


俺の説明に、寺田さんは深く納得したように頷いた。


「まぁ、変装のおかげで『一緒にいたのが冬月さんだ』ってバレてないのは不幸中の幸いだったね。もしバレてたら、今頃こんな騒ぎじゃ済んでないもん」

「確かに……」


寺田さんの言う通りだ。「氷の令嬢に彼氏がいる」なんて噂が広まれば、学校中が大パニックになる。


「でも、どうするんだよ。この『彼女持ち疑惑』の噂」

「……どうするって、否定するしかないだろ」

「いや、変にムキになって否定すると逆に怪しまれるぞ。もし女子から直接聞かれたら、『ただの仲のいい女の子だよ』くらいで適当に流しとけって。その方が自然だ」


大輝のアドバイスに、俺は「なるほど」と頷いた。

確かに、焦って否定するのは不自然だ。相手の素性を明かさず、ただの友人だと押し通すのが一番安全だろう。


「わかった。そうしておく。二人とも、教えてくれてサンキュな」

「おう。まぁ、気をつけてな」


平和だった日常に、いきなり投げ込まれた小さな波紋。

ただの「仲のいい女の子」という言い訳で、果たしてこの波紋を無事に鎮めることができるのだろうか。

俺は少しの不安を抱えながら、次の授業のチャイムが鳴る教室へと戻っていった。

第201話、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
 いやいや、「そうだよ、あの娘と付き合っているよ」と、言ってしまえば……余計な虫が寄ってこなくなりそう、と思う所存。  「付き合っている以上なのに、くっつく未満」以外は本当だし、告白返答も時間の問題で…
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