王女と思い出のフルーツゼリー(食後編)
ご馳走様でした…そして王族達へはお粗末様でした。
ゼリーは何とか食べ終わったけど…緊張の所為で甘くて美味しいという事くらいしか心で言えない!
これがアイリス様だけだったら言えたかもしれないけど…。
「お、お味は如何でしたか?(緊張してるせいでゼリーの味が感じにくい…。作った本人が言うのも何だけど…)」
ゼリーを平らげ、手元にあったハンカチで口元を拭うアイリスに輝は感想を求める。
尚、輝はアイリスを含む王族一同に見られている緊張の所為なのかゼリーの味を殆ど感じられなかったが…。
「………とても美味しかったです。それと同時に…懐かしい味でした」
輝にそう尋ねられたアイリスは口元を拭ったハンカチをテーブルに置いた後に美味しいと呟くが、その後に続くように発せられた言葉に輝は疑問を浮かべた。
「…え?な、懐かしい?」
そう、謎の力によってこの世界に飛ばされた輝と違ってアイリスは元々この世界の人間である。
この世界ではゼラチンは勿論、寒天やアガーもまだ作られていない為にゼリーという食べ物を知る事は出来ない筈のアイリスから懐かしいという単語を聞けば輝が疑問に思うのも無理はない。
「はい。と言ってもこの場以外では5つの時に1度食べただけなので」
「そ、そうなんですね…(王族の料理人はゼラチンの技術を持っていたって事か?)」
…ならば何故か
答えは簡単、輝はまだ気付いていないのだ。
ゼリーを作ってほしいと依頼したアイリスが…15年前、当時10歳だった輝が友人と父親と共に店に連れていったアイリスその人であるという事に。
「はい。ヒカル様のお父様であるコウタロウ様の作っていたフルーツゼリーに味が似ていましたし…ヒカル様の友人であるカケル様も美味しいと評価していましたよね?」
「コウ…タロウ?それにカケル…って…」
だが、アイリスの言葉に出てきた煌太郎と翔という名前で輝は理解した。
そして真実を理解すると同時に輝の顔は真っ青になる。
知らなかったとはいえ王族に馴れ馴れしく話し掛けた事は勿論、自分の店に連れていき未知の食べ物を食べさせた事や結婚を約束したりしたからだ。
「…あ…。ま、まさか…!」
「はい。15年前のあの日…私や私の家族に美味しい料理を作ってみせると約束し、お父様達が認めてくれた時…結婚しようと言ってくださいましたよね?コウヅキ・ヒカル様!」
「「えっ!」」
(まぁ!アイリスが子供だった頃に言ってた男の子は彼の事だったのね♪)
「えっ!?(確か騎士団に入りたての頃だったか…ダヴィド様から15年前にアイリス様が城から突然消えたという話は聞いていましたが…まさかヒカルが住んでいたという世界に飛ばされていたなんて…)」
「なっ!(アイリス様に結婚を申し込んだ…だと!?)」
輝は顔を青ざめたまま確認をするが、アイリスは頬を赤らめながら15年前に輝がアイリスに放った言葉を簡潔だが正確に語っていく。
そして輝とアイリスとの話を聞いていたアイリスの家族(ソフィアは除く)は勿論、護衛であるラヴァンダとダヴィドは驚きを隠せなかった。
「あの時に出会った女の子…アイリスち「転移!!」え?うわっ!!」
輝はアイリスが本当に15年前に出会った少女なのかと当時の呼び方で確かめようとした瞬間、アイリスは転移魔法を使って輝を何処かに飛ばしてしまった。
勿論、輝の行先はアイリスの部屋である。
「「ア、アイリス!?」」
「「ヒ、ヒカル!?」」
アイリスの突然の行動に驚きを隠せないエドアーとアレクサンドラに、アイリスによって何処かに飛ばされた輝を心配するラヴァンダとダヴィドの声が食堂に響き渡るだけだった。
「では、私はヒカル様と2人きりで話したい事がありますので…失礼します!転移!!」
アイリスは食堂に残ったエドアー達にそう言った後、自身に転移魔法をかけて自室へと戻っていった。
「「「「………」」」」
(あらあら。もう少し此処に居てくれたら良かったのに♪アイリスってば気が早いわね)
エドアー達4人が普段とは違う行動を取るアイリスに呆気に取られる中、母親であるソフィアだけは残念がっていた。
流石はヴェネタリアの王であるエドアーに唯一勝てる存在である女性なだけはある。
「ア、アイリス…様?」
突然アイリスの部屋へと飛ばされた輝はすぐに飛んできたアイリスの名を呼んだ。
「今は様なんて付けなくて良いですよ。私達2人以外誰もいないのですから♪前のようにアイリスちゃんで良いですよ!」
「さ、流石に聞かれたら殺されそうだから止めておきます…。特に父親であり国王のエドアー様に」
だがアイリスは15年前のようなタメ口で構わないと言ってきたのである。
輝は万が一にもエドアーに聞かれたら殺されてしまうかもしれないという強迫観念のような物があるのか少しだけ躊躇っていた。
「ふふ。仮にそうなった時は…お父様が隠しているガールズヌードという絵の束をお母様に見せて(社会的にも人間的にも)処刑してもらうだけです♪そして私はヒカル様を蘇生させますから」
「そ、そうか…じゃあ念の為に確認を。アイリスちゃんが僕のレストラン月光で食べた物は?(この世界にエロ本みたいなのがあるの!?というか何か名前が現代っぽいけど絶対僕みたいな現代人が何か関わってるよね?というかアイリスちゃんさり気に王の弱みを握ってるのは凄いな…。というか蘇生魔法も使えるのか…何気にチートだな…)」
「ペスカトーレです!」
アイリスの言動に内心引きつつ、輝は本当に15年前に出会った少女が目の前にいるアイリス本人なのかをとある質問で再度確認した。
アイリスは質問の内容を聞いた後、即座に答える。
15年前の事を尋ねられて即座に答えられるのは凄まじい記憶力と言えるだろう。
「僕が食べていたのは「唐揚げランチです!」…だけど翔が食べていた天麩羅御膳の天麩羅に使われていた種の名前は?僕の世界の呼び方で」
「エビ、キス、オオバ、イカ、サツマイモ、ナス、タマネギでカケル様はエビとキスとイカはテンツユで、それ以外を塩で食べていました!」
輝はすぐに別の質問をするが内容を全部言い終える前にアイリスが食い気味に答え、輝は引っ掛け問題のように翔が食べていた天麩羅の具材の名前を尋ねる。
しかも難しさを上げる為に輝の世界の食材の名前で答えろという。
それすらもアイリスは即答した上にどの具材をどの味付けで食べていたかも言い当てた。
「………正解です。今も翔の奴は天麩羅はその3つだけは天つゆでそれ以外は塩で食べていたからな…。参りました…アイリス様」
とうとう輝も観念したのか両手を上げて降参の意を示して目の前にいる王女が自分が料理人を目指す切っ掛けとなった少女アイリスだと認めたのである。
「仮にも一国の王女ですから♪…ヒカル様。あの日からもう15年も経ちましたがレストランゲッコウは大きくなりましたか?」
「…いえ、土地の関係で店自体の大きさは変わってません。ですが、料理の腕は父さんに勝るとも劣らないと思っています」
アイリスは15年前の約束は達成したのかを尋ねたが、輝は苦笑いで出来なかったと伝えた後に料理の腕は煌太郎に引けを取らない腕となったと返した。
「そうですか。…あっ!それともう1つ質問が…ヒカル様の両親であるコウタロウ様にアカリ様…そして友人であるカケル様は今はどうされてますか?」
「っ!」
アイリスは輝の返事に小さく呟いた後、王女と思えないような驚き方をしたと思うと輝に両親である煌太郎と灯、そして友人である翔が今はどうしているのかを尋ねた。
その質問を聞いた輝は両目を大きく見開いた後に拳を握りしめる。
…どうやら輝にとっては触れてはならない質問だったらしい。
「…翔は今は分からないが…親の店を継いでいる。…けど、父さんと母さんは5年前に事故で死にました」
「っ!そんな…(折角ヒカル様とお会い出来たというのに…!こんな形で会えなくなるなんて…)」
翔は飛ばされる少し前まで偶に月光で料理を食べに来る客としていた為に恐らく生きている事を前提で話すが両親の話題になった時、輝は俯き…表情をアイリスに見せないまま煌太郎と灯が死んだ事を伝えた。
そして質問をしたアイリスは輝の両親の訃報を聞いて信じられないと言いたげに両目を開いた後に悲しげな表情を浮かべる。
「僕も当時は人目も憚らずに泣き喚いた。けどそんな事をした所で両親は戻ってこない…。だから僕は天国にいるだろう両親よりも美味しい料理を作ってやると決めて、3代目のレストラン月光の店主になったんだ」
「………お強い人ですね。ヒカル様は」
輝は悲しげな表情のアイリスを落ち着かせる為に店主がいなくなった月光を継ぐと覚悟を決めた時の事を語る。
そしてアイリスはそんな輝の目を見つめながら強い人だと称えるのだった。
「強い人…か。そんな事を言われたのは初めてだよ」
「…ではそんなヒカル様にご褒美を差し上げます!」
アイリスの言葉に照れながら返事をする輝にアイリスは頬を赤らめながら褒美を与えると言って近付くと…
「………えっ?」
「ふふ。殿方にこんな事をするのは初めてなので…恥ずかしいです…」
輝の唇に柔らかく何かが触れる。
…そう、アイリスは輝の唇に自分の唇を触れさせた…簡単に言うとキスをしたのだ。
だからアイリスは顔を赤らめていたのである。
「そして、ヒカル様の左手の薬指には…」
「…ん?えっ!?コ、コレってまさか…!」
アイリスは更に輝の左手薬指に何かをしたと匂わせる発言をした。
左手薬指という単語を聞いて輝はアイリスが何をしたのか察しつつもゆっくりと自分の左手の薬指を見る。
そこには…
「はい!ヴェネタリアの王族の婚約指輪です♪」
青色の石が装飾された銀色の輪…そう、ヴェネタリア王族が所有するという指輪が嵌められていたのだ。
「えぇぇぇぇぇっ!?婚約って…(過程を滅茶苦茶すっ飛ばしたよ、この王女様!?)」
「それは勿論、この私とヒカル様との結婚を誓う為の物です!」
輝はアイリスの言い放った言葉を完全に受け止められていなかったのか、確認の為にアイリスに尋ねる。
尋ねられたアイリスは満面の笑みで返事をするが…
「ほ、本当に僕と結婚…」
「はい。勿論私が言っただけではお父様はきっと反対するでしょうが…その時はお父様をヒカル様の料理で説得してもらいます!」
輝はまだ信じられないのか三度確認を取った。
アイリスには「はい」以外の意思は無い為に即答するが、自分の言葉だけではエドアーは納得しないと分かっているのか輝の料理で説得…要は父親の胃袋を掴んでほしいと言ったのである。
「…そうか…。まぁ、子供だった時とはいえアイリスにあんな事を言ったんだ。責任は取らないとね」
「っ!では…」
「あぁ。これから時折此処へ来て王族の皆に料理を振る舞うよ!勿論、ラヴァンダさんやダヴィドさん達も交えて!」
こうして…輝は自分が過去に言い放った言葉の責務を果たす事を決めたのである。
さて…アイリスとの結婚の為に王族達に料理を振る舞うとは言ったものの…どんな味付けが気に入るだろうか。
今度この城へ来た時にアイリスやラヴァンダさんに聞いてみるかな。
それにしても…ソフィアさんいつこの部屋にやって来て覗いてたんだ?
視線を感じて見るまで気付かなかったよ…思わず「うえっ!?」って声出しちゃったし…。




