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H2Y  作者: 大塚めいと
12/22

Act 2-8 「ヒロと鹿取恵子」

調査回。




□□□□□

[死体]の名前は「鹿取恵子」リュックサックの中に財布を発見。その中の免許証より判明した。同時に財布の中の紙幣がそのまま残っていた所から、金品強奪の目的で殺されたワケでは無いことが分かった。






□□□□□

[死体]の職業は記者。アングラな記事を特集することに定評のある「トゥルーワールド」という雑誌のライターである。リュックの中に名刺と「トゥルーワールド」8月号が入っていたことから判明。






□□□□□

[死体]の目的は取材。おそらく「ダブルフィクション」の影響でクローズアップされたこの漂流島についての情報を集めていたのだろう。リュックの中から漂流島不法侵入についての記事が載った新聞がしまわれていたことからも伺える。






□□□□□

そして[死体]そのものをさらに詳しく調べてみると、新たに判明した事実が2つ。

1つは刃物で刺される前に首を両手で力強く絞められていたこと。[死体]の首に絞められた跡と爪のくい込んだ跡が残っていたことから判明。

そして2つ目は[死体]は犯人の手がかりを掴んでいたこと。

右手に握りこまれた一つのプラスチック製の白いボタン。

[死体]鹿取恵子はポロシャツを着ていたが、そのボタンとは一致しない。もちろん着ている衣類全てをチェックしたが、このボタンと同じ物、およびボタンの外れた痕跡は見当たらなかった。

つまり犯人に首を絞められそれに抵抗した際、着ていた服からもぎ取った可能性がある。さらにボタンを握りしめた手の爪先に若干ではあるが血の滲みがある。もしかしたら犯人の体を引っ掻き、返り着いた血液かもしれない。要するに犯人の体には爪で引っ掻かれた傷が付いている可能性がある。






□□□□□

~まとめ~

鹿取恵子は雑誌の取材の目的で、ここ漂流島に足を踏み入れる。そしてこの廃病院で何者かに首を絞められる。

それに抵抗して鹿取は犯人に引っ掻き傷を作り、同時にボタンをもぎ取る。鹿取の抵抗が激しかった為、ナイフを背中に突き立て、止めを刺し、何も奪うこと無く逃亡。犯人の目的は一切不明。






 わたしは鹿取のリュックから取材に使ったと思われるメモ帳とペンを拝借し、死体の様子や状況をこと細かく記した。小説を書くようになってからは、自分の周りで起こった出来事、興味を抱いた話題等をすぐにメモ帳に書き留める癖をつけていた。






 「なんとも言えないな…。」






 ずらりと書きとめた[死体メモ]の内容を何度も見返し、ただ一つ判明出来ない犯人の動機。金品が目的で無いとすると、快楽目的の猟奇殺人、あるいは人間関係によるもの、現状での情報だけではなんとも言えない。






 もう一度鹿取のリュックの中身を床に広げ、見直してみる。財布に新聞紙、トゥルーワールド8月号、それに名刺入れ、飲みかけのペットボトル入りコーヒー牛乳、黄色い箱の健康補助食品、そして今現在使用中のメモ帳とペン、さらにいかついボルトカッターと先に大きなカラビナのついた長さ15メートルはありそうなロープ。






 ボルトカッターにロープ?と疑問に思ったが、鹿取が記事を手掛ける「トゥルー・ワールド」をパラパラと読み流すとその2つの存在理由が理解できた。






 トゥルーワールドでは山奥や崖、崩れかけの廃屋、立ち入り禁止区域など、一般的な思考の持ち主ならば、まず近寄るだけでも危険と判断される場所ばかり特集されていた。

なるほど、ボルトカッターは立ち入り禁止の扉に南京錠でもかかっていたらそれをむりやり断ち切る為に、ロープは時には降りるのが困難な崖下等に足を踏み入れることもあるだろう。その為のアイテムなのだなと理解した。






 さらに「トゥルー・ワールド」を読み込んでいると、「ライター・鹿取恵子」の名前が記された記事を発見する。






 [謎を呼ぶS県連続女児失踪事件]






 それはS県某町近辺にて、次々と女性が行方不明になっているという話だ。何故それが謎を呼ぶ事件と呼ばれているのかは理由がある、失踪した女性達にはある共通点が見受けられたからだ。






 それは女性達の髪型である。行方不明の女性はいずれも肘まで伸びた黒髪という特徴が一致している。






 行方不明者の数は現在判明している限りで6名。






 同じ町で、同じ髪型の人間が6人いなくなる。






 単なる偶然かもしれないが、この手の雑誌の記者であれば些細な共通点にも関連性を見出し、あたかもミステリアスな事象のように煽り、興味を引く文面に仕上げるのだろう。

すぐ傍でマネキンのように凍りついた女性記者が生前書きあげた記事に、特に気をかけることもなく本を閉じた。






 結局のところわたしはこれといった結論も出せずにいた、推理の難航にいらつき、床の上に勢いよく座り込む。






 「…あれ?」






 自分の足元の床に一つの違和感を覚えた。






 床は将棋盤のようにおよそ30cm四方の正方形で作られた白いタイルがびっしりと敷きこまれている。長年の風化によりところどころ欠けていたり剥げていたりしている箇所もあるが、そんなことで説明できない異様な点を発見した。






 床に着いた茶色い染みがあった、その染みはまだ新しく、この場所ではありえない覚えのある香りを僅かに発していた。






 「これ…コーヒー牛乳?」






 その染みの正体は床にこぼしたコーヒー牛乳だ。鹿取の持ち物には飲みかけのコーヒー牛乳があった、おそらく蓋を開ける際に手を滑らせて中身をばら撒いてしまったんだろう。

だけど注目すべき点は別にある。コーヒー牛乳の描いた茶色の染みが、床のタイルとタイルとの間の溝で途切れている点。それはタイルの間に隙間ができていることを意味する。






 「ちょっと待って…  と、言うことは…。」






 鹿取が使っていた金属製の名刺入れの蓋を床の隙間に引っかけ、かさぶたを剥ぐようにタイルを持ち上げてみる。

案の定タイルの板はあっさりめくることが出来た、そしてその板の下から現れたのは床に掘られた縦長の空洞。ロウソクの明かりで穴の中を照らす。深さは50cmはありそうだ。






 「穴だけ?他に何も無い…。」






 その穴は何かを隠すために作られたように思えた。しかし、一体何を?何の為にこんな場所に隠したのだろうか。






 過去に読んだ新聞記事、ミステリー小説などから吸収した知識をフルに結集させ、わたしはある一つの仮説を導く。

それは鹿取がここ漂流島ではなく、S県連続女児失踪事件の情報を探っていたのではないか?というもの。






 鹿取は連続女児失踪事件には漂流島が関わっているのでは、と嗅ぎつける。そして恐らく、この霊安室で見つけてしまったのだ。

犯行に関わる重要なアイテムがこの穴に隠されていたことを発見してしまったのだ。犯行に使用した道具が隠されていたのか?はたまた誘拐した女性を殺して、その一部を保管していたのか?いずれにせよ、犯人にとって見つけられては困る代物を、鹿取は偶然にも拾い上げてしまったに違いない。






 それを見られて、彼女を殺した…。






 さらにもう一つ、ある不自然な点を鹿取の持ち物から見つけ出す。






 「ちょっと待って…そうだよ…無いんだよ…!この人、記者なのにカメラを持ってないんだよ!」






 雑誌の取材であるなら必ず無くてはならないカメラが鹿取の荷物からは見当たらなかったのだ。






 彼女は、失踪事件のキーアイテムを見つけ、犯人にそれを気づかれてしまう、でもカメラで撮った!犯行に関する何かを撮ったんだ!だから犯人は他のものに目も向けず、カメラを持ち去った!






 現時点における有力な仮説が立って、ようやく謎の[死体]というジグソーパズルの絵が見え始めた。わたしの体は火照り、高揚する。けど、その時だった。






 「…ッ誰!?」






 突如、部屋の空気が変わった。雨上がりの夜の湿った、密度が濃く、重い空気を感じ取った。誰かがいる。自分と[死体]以外の新しい気配がある。

誰なの…?






 今までの流れから推測すれば、この気配は[死体]を作り上げた張本人である可能性が高い。






 けど、それは分かっていても、わたしは否定した。発想を抑え込んだ。






 殺人鬼がこの場所にいる。そんなことは信じたくない。さらに、たった今気付いたことがさらにその気持ちに強固な砦を作る。

それは死体も寛子も、肘まで伸びた黒い長髪。連続女児失踪事件の被害者と全く同じ条件を満たしていたこと。






 まさか、そんな!誰か…助けて…!!






 心の中で叫ぶ声にならない絶叫。恐怖で振り返ることすら出来ない。だが無情にも気配はどんどん自分に近づいてくるように感じる。

助けて!たすけて!






 次の瞬間、空間を切り裂くような音が頭の中に入り込む。






 「オイ、お前なにやってんだ?」






 それは男の声、聞いたことのない、初めて聴く低音。






 終わった






 わたしはそのまま気を失った。














「実話ナッ○ルズ」みたいなモンです。

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