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真・恋姫†無双 魏譚  作者: 灰善
4/7

始まりはいつも突然なもの

―――――夢を見たような気がする




とても…とても暖かい夢




自分と良く似た青年の夢




しかし――夢の主役、登場人物は酷く朧気で




でも幸せなのは眺めるだけで分かって




どうしようもなく輪に入りたくて、触れたくて




伸ばした手は、上げた声は、縋る目線は









自らの部屋へ



空しく伸び、響くだけだった











――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





『聖フランチェスカ学園』






「かっずピ~♪茶ァ…しばかへんッ?」

「とりあえず覚えたての言葉を使うのやめような」




時は昼。何故か激辛料理を口にしたいと思いつつ、ここには無いよなぁと学園内にあるメイド風喫茶「黎明館」へと足を運ぼうとした時。俺の名を呼んだ人物は「及川祐」

…こいつ確か元々九州出身だったよな。何故か好んで関西弁を話す。

茶をしばくって、こんなお嬢様学園で伝わる人居ないだろ。




「んー、…かずピー?なんか薄汚れてない?」

「開幕失礼だね君」

「や、ちゃうねん、言い方悪かったわ。かずピー自身が薄汚れてるんやのうて、身なりがこう…な?」



「………」



言われて自分の体を一度見直す。…確かに分かり辛いが汚れていると言われれば汚れている。

しかし…よく見ないと気付かない程度で。

こんな汚れよく気付いたな。俺の事どんだけ注意深く見てるんだよ。




「おぉ…。なんや体も引き締まってるよーな凛々しくもあるような?」




さわさわ。気付けば及川は俺の体を撫で回しながら「ふーん」とか「ほー」だの唸ってる。

会って数分で相手の体を撫で回すって……落ち着いてお嬢様方。これは禁断の愛とかじゃなくてですね、やめて、ほらそこ頬を染めない




「かずピー隠れて筋トレでもしてたん?めっちゃ引き締まっとるやん。アスリートまでとはいかんけど…思わず触りとうなるで」

「なんか昨日目が覚めたらこうなってたんだよね。……というかその言い方嫌だしべたべたするんじゃない」

「え?それ大丈夫なん?死なへん?」



死ぬ?えっ怖っ

突飛な発言だが…こうなった原因に心当たりが無い為あまり強くも否定できない。



「ふーん………。ま、そない元気そうなら今は大丈夫…やろな?」

「目立った痛みとかは無いし、うん。大丈夫」

「なんかあったら言いや?相談乗ったるから」



口調は軽いが心配している事は伝わってくる。フッと向けられる愛情のような物には気付けるようになっていたが、それが何によるものなのかは今の一刀には分からない。



「そういやな?今日新しい教育実習生が来とるらしいんよ。今丁度黎明館おるらしいで」

「話題急に変わり過ぎだろ」


話題の急速転換。こうも急に話を変えられると少し戸惑う。


「ウチのクラスには関係無かったみたいなんやけどな。聞くまで知らんかったんやけど、及川ネットワークのツテで情報仕入れたんや」

「いや何だよそれ」


なんて言った?及川ネットワーク?

得体が知れない上、少し怖い。詮索しない方が良い様な気がする。俺は間違ってない。



「情報によると、なんでも絶世の美人らしいで?何人もの男子が骨抜きにされたそうや。アカンもう楽しみなんやけどゥ!」

「本当に信憑性のある情報なんだろうな」

「アッ!先生アカンです!そんな、生徒と先生なんて…禁断の…それ以上は!」



話を聞け、と言いたいが及川は妄想の世界に入ってしまったようだ。クネクネするな、頼むから。周りの目が痛い。





そんなくだらない会話を続ける内、黎明館に着いた。



「おーなんやなんや、入り口にぎょーさん人だかりがあるやんけ!これは期待できるでぇ…!」

「これはちょっと…確かに多いなぁ」



多い。あまりに多い。大半は新しい先生を一目見たくて来ているのだろうが…うん。奥が見えない。

これでは純粋に腹を満たしに来た生徒も困っているだろう。しかし自分もその人を見たいのも事実。少し背伸びをして苦闘、なんとか人の垣根の奥へ目を…







【肉体美の悪魔】


人外、という言葉が似合いそうな悪魔がそこに鎮座していた。

部屋の光を眩く照らし返す頭皮。もみあげから下がる長い長いおさげ。整えられた髭。人の魂を吸い込みそうな分厚い唇。パッツンパッツンの女性用スーツ…

それが背筋をビシッと伸ばしお手本の様な姿勢でうどんを啜っていた。



女性用スーツ?

え?女?

どう見ても体つきが男のソレなんだが。髭も。

男、漢?身長も推測するに2メートルに迫るのでは。



回りを見渡すと、自分と同じような事を考えているのだろう。恐怖と驚愕の色が濃い。

当然だ。明らかに常人から風貌からかけ離れている。しかも姿勢や動きがとても綺麗だ、あの出で立ちからこのギャップはインパクトが強すぎる。

そしてあの筋肉、ボディビルダーとかそういうレベルの体じゃない。格が違う。ミチミチと音が聞こえそうなぐらいスーツは大胸筋により張りつめている。



(どう見ても化け物)



誰が見たってそう思うだろう。何も知らない子供や赤ちゃんが見たら泣くぞアレ。というか不審者なのでは?どうなってんだうちの学校。

心の中で呟いた。その時。



「ダァァァァァレが今にも無害な民を千切っては投げ千切っては投げ世界を絶望に陥れそうな化け物ですってェェェェェエエエエ!!!!!!!!!!!?」



空気が、震える。

まるで大地が、空が怒り狂っているような錯覚を覚える怒号が飛び……目が合った。



「あっやべ目が合っ『ごっ主人様ァァァァァァァァァァん♡』ハァッ?!」


挿絵(By みてみん)


ご、ご主人様ァ?!俺の事か!?


本能が警笛を鳴らす。身の危険をいち早く察知したのは鍛えられた本能だ。


…なんだ、この感覚?

いやそんな事より来る、こっちに来る。に、逃げねば!一刻も早く此処から離れなければ!

……そういえば及川は?……駄目だ、妄想の中だ。捨て置くしか無い。


及川に背を向け、足に力を籠めリノリウムの床を蹴る。この際空腹なんて気にしていられない。

あの筋骨隆々の女(?)から距離を取らねば命が取られる。…なんて洒落てる場合じゃない。

幸い校舎の構造の理解については分がある筈…だ。今現在駆けている廊下は20メートル程。その先には階段、それを上って曲がり、今は使われていない空き教室の掃除用具箱の中へ隠れる!



頭の中でルートを決定し、階段へと差し掛ろうとした時



「なァァァァんでこんな国だって傾きそうな超絶美貌の美女から逃げるのよォォォォォォォオオオオオ!!!!!(ガッシィ!)」

「いっ嫌ァァァァァ!!!!!捕まったああああァァ?!!」



だっ、だっ…、抱きしめられたァ!!!!

嘘だろ??これでも全力全開で走ったのに…!

こんなのって…こんなのって…ねえよ……!

速い、速過ぎる!!!!

ここで…死ぬのか!?もう…駄目なのか?

いや諦めるな、『彼女達』は諦める事なんてしなかっただろう?

これでも剣道やってたんだ、力ずくで…!あっ無理、万力か何か?無理に抵抗すると関節がおかしくなる!



……すみませんお母さん……先立つ不孝をお許し下さい。

僕はもう…この化け物から逃げる事は出来ないようです。


…あ、なんか良い匂いがする。とても女性らしい花を連想させる香り。しかしキツくもなくほんのりとした、心地よい香り。金木犀…?

ってそれも嫌ァァ!!!頭が混乱する!怖い!



あまりに理不尽な不幸により、覚悟を決めると共に困惑、瞳からは零れたのは涙。



「ハッ、ご主人様に抱き着いている…?生徒と教師…?非合法!?背徳!?オ、ォォォォオオオオオオ!!!!」



耳元で猛る号声。耳が壊れる!鼓膜に風穴空いちゃう!

ご主人様って何!しかもお尻に何か固いモノが!…やっぱり男じゃないのか?!うわあああああああ!!!!!



「ぬううううううううううううう!!!」

「ヒィイイイイイイイイイイ!!!??」



お互いが興奮?と嘆きで支配された数分。不思議と周囲に人は居なかったみたいで、この惨劇を目撃される事も無かったみたいだ。

本当に目撃者が居なくてよかった。じゃないと学園生活終わっちゃう。

もう終わったも同然なのかもしれないけど。



――――そこから両者共に落ち着きを取り戻す迄、再び時間を要した。







______________________________

__________________

_________









「やぁぁぁっと出会えたわねん!ご主人様♡」

「………!(ガタガタガタガタガタ!)」

「何そのまるでこの世の悪を全て集約した悪魔に魅入られ恐怖に染まったような表情はァ?!」

「思ってない!そんな事オモッテナイヨォ!?」



流石にそこまで恐れてはいない…ような気がするが、確かに今自分は目の前の男へ恐怖を抱いているのだろう。

というか恐れるなという方が無理な話なのでは…?



「こちらは危害を加えるつもりは更々無いのよん?出来れば深い愛情を以って接して欲しいわねん♡(ヴァッチィィィン!)」



ウィンクで突風が巻き起こった。何処のヘル○ィンクだ。

……しかし確かに敵意は感じられ…感じられない?うん。感じられないという事にしておこう。そして人を見た目で判断するのは良くない、冷静にならねば。



「あらん、急に凛々しい目になっちゃって…。漢らしくてまた惚れちゃいそうよォん♡」

「いや…別にイイです…」

「ぃぃいい今なんてエエエエ???!!」

「何でもあああああありませんんんん!」



聞かせるつもりのない呟きでも聞き取られてしまう。地獄耳とかそういうレベルじゃない気がする。

ついさっきも化け物と呟いた声も聞こえていたみたいだし……

アレ?ついさっきのって声に出してたっけ?もしかして心の声までバレてる…?



「…ふゥん、このままじゃおちおち話もできないわねん」


超絶美貌の美女(自称)は溜息を吐きつつそう語る。


原因はあなたですが。反省の色もないのは自分に自信があるからですか。



「……これでも一応落ち着いたつもり…です。それよりも、何か俺個人に用……ですか?」



口が勝手に敬語を使う、畏怖の現れなのか学生としての立場がそうさせるのか……ついでに表情も取り繕う。

「いかなる時も冷静であれ」、いつの日か幼い頃にじいちゃんに言われた言葉だ。


内心逃げ出したい気持ちでいっぱいだけど…俺頑張ってるよね?良いよね?

心を乱すな、とか無理だよじいちゃん。これ俺が相手するには荷が重すぎるよ…


届くわけもない悲痛な言葉を胸に、男と向き合う。



「敬語じゃなくてもいいわよ。……今日はね、ご主人様に確認したい事とお願いしたい事があってきたのん」

「…………?」



今更話の腰を折るつもりはないが、この話し方はなんとかならないものだろうか。聞きなれない語調は悪寒を助長させる。

あとご主人様。意味が分からない。

いや言葉の意味は理解できるがなぜ俺?



「えっとねん?ご主人様は曹操って覚えてる?」

「…はい?」



言葉の意味があまり理解出来ず、抜けた声で返事をしてしまった。

『曹操を覚えている?』…?どういう事だ。



「言葉通りの意味よん。…どう?」

「?覚えてるも何も、大体の人は知ってるんじゃないか?乱世の奸雄とまで呼ばれた、あの曹操だよな?」



何を言っているんだ?自分の周りでは知らない人の方が少ないんじゃないか、とまで言える偉人であり。

言った通り。覚えているも何も、『忘れる訳がない』。それほどまでに有名だ。



「そう、ねん……。もしかしたらと思ったけど、やっぱり…『覚えてない』みたいねェ」



そういうと彼は目を少し伏せ、憂いを帯びた表情になった。

まるで自分がいけない事をしてしまったような気分になる。

声をかけようかと逡巡している間に、向こうが目線を戻し口を開いた。



「ご主人様。最近、何か記憶について不思議に思ったことはない?」

「記憶…?これと言って特には無いけど…」

「本当に?」

「………」


…いや、―――有る。不思議に思うというより、違和感だ。経験した覚えの無い内容でも体が『慣れていた』し、先ほども何故か危険をかなり早期に感じとることが出来た。野生の感とまでは行かないが、本能がそうさせた。

結局捕まることになったが、今それは良い。

良く考えれば、この体だって不可思議の塊だ。いきなり鍛え、筋肉が発達するなんてあり得る筈がない。第一、体を鍛えた覚えが無い。

今まで深く考えずにいたが……今思えばあまりに楽観視しすぎていた。なんでもない事かのように。

まるで何か、考えさせないようにする力が働いているのでは無いかという程にそれは不自然だ。

度々浮かぶ『誰か』の事も。顔も分からない。声も『覚えていない』のに、まるで自分の意識とは関係の無い潜在意識のような物が心を揺さぶる事がある。今朝見た夢のように。



「心当たりはあるみたいねん?」

「――――うん。まあ、確かにその通りだった」

「お願いっていうのはその違和感、不思議を解消してほしいの」

「違和感の、解消…?」



このモヤモヤを取り除きたくあるのは確かだ。しかし、なぜ俺個人の、しかも他人には分かりようもないような事についてこの男は知っている?

現状を言い当てられた事に驚いたが、不自然さ極まり無い為少し警戒を強めながら話を促す。



「その違和感を解消する事が私の願いであり、ご主人様の進むべき道の一部だと思ってるの」



進むべき、道

それがどういった物を示すのか今は理解できないが、自分の中の自分?とでも言うべきであろうか。それが『そうするべきだ』と告げている。

しかし、そこで疑問も湧き上がる。



「さっき曹操の話をしたよな、それは何か関係が?」

「関係も何も核心って言っても過言じゃないわねん。現状をどうにかするには歴史を知り、己を知り、思い出さねばならないの」

「それは曹操について、だけ?」

「いいえ、曹操を含む『あの』時代についてよん。ご主人様は失ってはいけない物を失っているの、でもそれは取り戻す事が出来る筈よ」


「……」



今いちピンとは来ないが、突飛な話だとは分かってはいるが、自分でも興味が湧いてきている。不思議と、やらない気にはならなかった。



「私に言えるのはここまでねん。……ご主人様には幸せになって欲しいの。もっとお手伝いしてあげたいところなんだけど…そうもいかないのが辛いところね」



その後「感付かれると不味いから」と言っていた。誰にと聞こうかと思ったが必要はあまり無さそうで、彼自身も時間が惜しいという事を述べる。


「全てを取り戻した後どうするか、どうしたいかはご主人様に任せるわ。結論によっては協力を惜しまないつもりよん!」

「わかった。正直分からない事も多いけど頑張ってみる」

「それじゃ、今日はお開きよん。また機会があれば愛を囁き合いましょう♡」

「さようなら!」

「ああン、つれないご主人様」



身をよじりながら頬を染める姿はさながら狂気。耐性の無いお嬢様方なら目にした瞬間卒倒するかもしれない。

鳥肌が立ち、早くその場を離れたかった為、別れを告げる。





そういえば名前を聞いていなかったと思い数歩進んだところで振り返ると、

―――――――――そこにはもう、先ほど駆けた廊下があるだけだった。

変な時間に目が覚めまして、眠れないので仕上げました。

書いてる途中で瞼が重くなっていたので見落としとか…あるでしょうね、ハイ。

今回は一刀サイドのみのお話しとなっております。

しばらく…続くかな?


正直眠いのでこれ以上長々とあとがきを続ける気力もありません。

お読みいただいた皆様方、ありがとうございました!


―追記―

挿絵の挿入って結構手間かかるんですね。驚きました。

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