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神のくさめ  作者: paradsh
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平臥神の後日談

 畢生惰眠偏重ひっせいだみんへんちょうを目標とする予には、今回の仕事はかなりきつかった。如何せん最近まで我が誇るべきくしゃみで生じた俗世のねじれの後始末を「日本国大明神議會にほんこくだいみょうじんぎかい」のエライ人達から課せられていたのである。退會たいかいさせられざりたるは不幸中の幸いであった。一生分の体力を使い切ったと言っても過言でなかろう。運動と言うものをした試しのない予に限って言えば。

 あの日くしゃみをした後、日本の神ならば誰でも備え付け必須の警報機がうーうー鳴ったかと思えば、日本警の恰好をしたふたりがすぐ駆け付けて来て、予を素っ裸のまま風呂場から連行して行った。その内のひとりから汚物を見るかの様な目で大きなタオル一枚を渡された。すぐに行われた裁判では傍聴席にいた神々に「タオル一枚しかつけてねえぞ」「まだお風呂気分か」「遂にやりやがった」「いつかこんなことになるんだとは思っちゃいたが本当になるとは」などと馬鹿にされて裁判神から顰蹙ひんしゅくを買った。

 ことは一刻を争うとて、その日の内に日本警姿ふたりの監視下で後始末をさせられた。具体的には、中年カルテットの口にあらゆる人の怒りをしずめるという「鎮火飴ちんかあん」を放り込んだり、同じく他人に移り変わったというヘンテコ特技を元に戻したり、とある青年の喫茶店における未払いの代金を洋卓テーブルに置いたり、ついでにそこにあったパンケーキをふたりの目を盗んで食ったり、同じく友人から借りたという埃だらけの財布を彼のポケットからこっそり抜いて杉の板戸に戻し本棚の位置を整えたり、色々東奔西走した。中には予の罪には与り知らぬこともさせられて骨を折ったものである。

 上の人曰く俗世への被害はあまりなかったそうである。そうであったとしても、もう一生の内にこんなにも体力を使うのは断じて御免である。と思ったが吉日、予は下宿を風呂の付いていない四畳半に遷した。勿論これに懲りて下宿の設備を弄らないと心に決めた上、金は掛かるが毎日銭湯へ通うことにした。とはいうものの、銭湯通いもなかなか乙なものである。

 今日も今日とて、銭湯へ参っている。予は元をとる為にできるだけ色んな湯へ入る。底のやわい「ひのき風呂」、枯山水を見渡す「露天風呂」、毎日色の替わる「薬湯」、血行を改善する「高圧気泡噴出風呂」、微電流を流して身体に何らかの効能をもたらす「電気風呂」云々うんぬん、魅力的な湯ばかりである。

 しかし予には絶対に入らないと決めている風呂があった。銭湯へ通うたび見て見ぬ振りをするのである。

 体を洗っていると、その風呂からひとつのくしゃみが聞こえた。

 予はその後、「高温風呂」でじっくり身体を温めたのであった。

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