25 九頭龍閃
カヴァスキまでの道中。いつものように修行をつけてもらう。
しかし今日はいつもと違った雰囲気だ。
「これから教えるのは、九頭龍閃という技だ」
「はい!」
「剣の流派は違えど、人を斬る軌道は大して変わらん。 唐竹、袈裟、逆袈裟、左薙ぎ、右薙ぎ、左切り上げ、右切り上げ、斬り上げ、刺突。剣術とは、この九つの斬撃から成り立つ」
師匠にはとても珍しくすごく丁寧な説明だ。それだけ難しい技だということか。
僕は心して聞く。
「そして、今回教える技は、この九か所を同時に斬る というものだ」
……は? え? 同時?
「は、はい! 師匠」
「どうしたロシュ」
「すみません! もう一度聞いてもいいですか?」
「唐竹、袈裟、逆袈裟、左薙——」
「あ! いえ! そこはわかったんですけど!」
「なんだてめぇ。俺の教え方に文句でもあるのか?」
「あ、いや、お言葉ですが……。刀は一本なわけですから。同時に9回も斬ることはできないんじゃないかなって……」
さすがの師匠の神速剣でもそれは無理だ。
「はぁ……」
ため息……! え? 僕、間違ってないよね?
「”百聞は一見に如かず”だな。……そこに立て」
ヒャク……? なんだ? なんか腹立つな。しかし、言われた通りに立つ。
「動くなよ」
やや前傾に構えた師匠は、体にぐっと力を入れる。
そういえば”動くな”なんて始めて言われ
——消えた!?
——飛天御剣流 九 頭 龍 閃
壱
捌 弐
陸 玖 参
漆 肆
伍
……動けなかった。しかし、はっきりとわかる。
一瞬で間合いを詰められ。
——同時に9か所を斬られた。
「ほう、すこしは見えたみたいだな。飛天御剣流は神速の剣。その速さを極めた先にある、究極の技、それが、九頭龍閃だ」
「九頭龍閃……」
これが奥義ってやつか……。
「これを習得するには、強い相手との実践が不可欠だ。大抵は習得する前に死んじまう」
刀を収めながら。僕に向き直る師匠。
「ロシュ……。お前は十分強くなった。俺が育てたどの弟子よりも素質があると言っていい。だが、お前の帰りを待つ人間も多い。ここで——」
「師匠!」
「……なんだ」
「僕が強くなりたいのは、その僕の帰りを待ってくれている人を守るためです」
ここで帰れば、それこそ僕の帰りを待つ人に顔向けできない。
ふと、師匠が笑ったような気がした。
「……そうか。では練習だ。まずは3回同時に斬ってみろ」
「はいっ!」




