78 記憶と悟り
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事情聴取を何とかやり過ごした後、気絶していたカテジナ、カルチナ、キャローナが目を覚ます。
三人は互いの無事を確かめ合うと始めは喜びを分かち合っていた。
だが、直ぐさま様相が変化する。
カルチナに対してカテジナが「天然さんスキル持ちの貴女に期待し、それ本日信じた私が馬鹿でしたわ」とディスる。
一方のカテジナはキャローナから「あの場面で裸婦を造り出すって頭の中に蛆虫が湧いて…、いや、常に脳ミソを雄ゴブリンにでも犯されてるんじゃないですが?」と場を弁えない変態性を激しく責め立てられる。
そしてカルチナ幸せな夢から一転した状況にカテジナに対しては「あぅあぅ…うぐぅ…」と返すのが精一杯であり、キャローナに対しては「流石に言い過ぎじゃぁ…」と意見している。
その様をフロレアールが黙って見たいた事に違和感を覚えた面々が恐る恐るフロレアールへと向き直る。
すると神妙な顔をしていたフロレアールが突如として頭を下げる。
「皆んなゴメンなさい。特にキャローナには何てお詫びを言えばいいのか分からないわ」
予想外のフロレアールの謝罪に三人がアワアワと慌てふためいているとバースニップから状況の説明となる言葉が投げ掛けられる。
「フロレアール殿は記憶に欠落が生じてるみたいでな。今日チェーネに到着してから先、そして爆発が発生したその瞬間迄の事を覚えていない。君たちが目覚める迄の間に確認したから嘘偽りない事実だ。そして俺やクーヴァの自己紹介や領主館の建設については要点だけを簡単だが説明し終えている。そしてこれから陛下などからの招聘に関する封書の件に入るところだ」
「はい、このタイミングで皆様が目を覚まされたのは幸運でした。何せ、コレよりフロレアール様が変調に見舞われた原因と思しき封書の説明となりますので…。御三方には最悪の場合は先と同じくフロレアール様と事を構える事も覚悟していただき、いざと言う際の対処をお願いします。ただし、呉々(くれぐれ)も爆発だは勘弁してくださいね」
カテジナたち三人から「ゴクリ」と喉が鳴る音が聞こえフルフルと小刻みに震えている様に見える。
三人へと意図が伝わったと判断したクーヴァがフロレアールに問い掛ける。
「フロレアール様としては何らかしらの変化はございませんか?些細な事でも良いので気付いた事があれば仰ってください」
「そうね…。欠落している記憶の話しを聞いていると招聘、封書って言葉を耳にする度に強めの頭痛が起きているわ…。それと順を追って説明して貰ってるのに関係してなのか話しが進む程に慢性的な頭痛、その痛みが徐々に増してる様にも感じてるわ。慢性的な頭痛は欠落した記憶に関する部分の説明を受け始めてからよ」
それを聞いたバースニップとクーヴァは顔を見合わせる。
「主様、類似の症状をご覧になった事や耳にした事はありませんか?」
「少し待て、今思い出しているところだ。確かな事は洗脳などによる記憶の改竄では、類似する症状は生じないことは確かだ。それに記憶の消去であれば関連する事柄を耳にしても頭痛が起きるなどの反応は起きない。考えられるのは記憶の封印に類するものだな」
「確かに記憶の欠落が生じる少し前からフロレアール様は頭に手を当てたり、最終的には意識が遠のいていた様にも見受けられましたね。となると原因は灼滅の騎士からの封書と観て間違いなさそうですね。フロレアール様は彼女からの封書の受け取りを拒んでおられました。その後に伺った話も決して良いものではありませんでしたからね」
「ぐぅっ…」
灼滅の騎士との単語に拒絶反応を示すが如く猛烈な頭痛に見舞われ堪らず呻き声を上げよろめくフロレアール。
「フ、フロレアール様、大丈夫ですか!?私にお掴まり下さい」
カテジナが瞬時にフロレアールの元へと駆け付け、咄嗟にその身を支える。
「あ、ありがとうカテジナ。何とか大丈夫よ。でも、このまま立っで話し続けるのは避けた方が良さそうね…」
そう言ってフロレアールは簡素な円卓と座席を魔術で造り出す。
「悪いけど席に着いてから残りの話は聞かせてもらうわ。それと飲み物でも口にして少し気分を落ち着かせる時間を貰えないかしら?」
そうして一同は円卓へと着く。
フロレアールの左に隣接する形でカテジナが、フロレアールの対面にバースニップ、その左にクーヴァが隣接している。
カルチナがフロレアールとクーヴァの間に、キャローナがカテジナとバースニップとの間に座る。
フロレアールが収納から取り出した果実水をネコ耳ヘッドドレス&フレンチメイド服姿のカテジナが給仕している光景は、場末の如何わしいお店での接客を連想させそうなのだが、この場にいる者にはその様な事を連想できる程の余裕が残っている者はいなかった。
先の一連の騒動もあって予想以上に一同の喉は渇いていたらしく、飲み物を口にしてから初めてその事実に気付き、一様にお代わりをし終えた頃にやっと気分が落ち着いた様に感じられる様になっていた。
「それでは改めて聞かせて貰えるかしら。招聘や封書とやらに関してね…」
頭痛に耐えながらフロレアールが口火を開く。
「承知しました。先に国王陛下からの封書となります。内容はフロレアール殿の招聘、この町チェーネでの度重なる活躍への領主としての謝辞、加えてその類稀なる力から国王陛下は貴女縁を築くことをお望みになられております。その見返りとではないですが貴女の後ろ盾になる事も吝かではないと記されておりました」
「封書の内容と聞いたけど貴方が(あなた)が知っているのはどうしてなのかしら?」
「私も含めてこの場にいる全員が手紙を拝見しましたわ。その封書はフロレアール様が収納で保管している筈ですわ」
そう言われてフロレアールは自身の収納を確かめる。
すると確かに一通の封書が収められており、収納からそれを取り出すとやや躊躇いつつも中身の手紙に目を通す。
するとデジャブ感に見舞われと同時に一瞬の激しい頭痛に見舞われるのに併せて欠落した記憶の大部分が蘇る。
「くぅぅ…、はぁはぁ…、お、思い出したわ…。話を聞くよりも実際に関連する物を見た方が効果的だったみたいね…。これも百聞は一見にしかずってやつなのかしらね…」
その言葉を耳にしたバースニップは肯定すると同時に尋ねる。
「思い出したってのには間違いないみ様だな…。で、どこまで思い出せたんだい?」
「町に着いてから冒険者ギルドに行った事。そこでギルドマスターパルミーナから話を聞いた事。内容は、赴任してきた司祭と神官に関すること、領主館の建設に関する指名依頼、最後にこの招聘に関してで、貴方と会うことになったわ。そしてこの場で色々と無かった事になった後に領主館に関する話しを纏めた。そして、この招聘に応じる事にした…迄かしらね」
それを聞いた一同が頷き、その内容に間違いがないことを確かめ合う。
それを見たフロレアールが言葉を続ける。
「どうやら戻った記憶に間違いはないみたいね。そうなると問題は…、しゃ、灼滅の騎士とやらが問題って訳ね…。でも、その封書らしき物は私の収納には無かったけど、何処にあるのかしら?」
「それは、私めが持っております。記憶を失う…いや封じたとの方が正しいでしょうか?その折にフロレアール様は該当の封書を無意識に近い状態で燃やし消し去ろうとなさいました。それをカテジナ殿が指揮をとり、身を呈して守り抜いた際に私めへと引き渡され預かっておりました」
そう言ってクーヴァは懐から畳まれている手紙と封切られている封書を取り出し机の上へと乗せる。
それを見たフロレアールには警鐘としてなのか、先までの頭痛を凌駕する痛みが襲い、激しい動悸までもが生じる。
その余りの辛さにフロレアールは目眩を覚え、左手で頭を抑えて机へと倒れ込みそうになりカテジナが直ぐさま支えに入る。
「フロレアール様、灼滅の騎士殿からの封書の内容は貴女以外は見にしておりません。ですが、灼滅の騎士が誰であるかは貴女"(あなた)の口から語られましたので皆が知っております。お望みとあらば、先にその名を告げることは可能です。貴女の選択肢としては三つ御座います。一つは自身で手紙の内容を確かめられる。もう一つは先に灼滅の騎士の真名を聞き、誰かに手紙を朗読させる、最後は封書をご覧にならず、国王陛下からの招聘もお断りするとのものになります。これは王陛下との顔合わせの際には必ずしや灼滅の騎士殿も傍に居ると考えられる為です」
フロレアールは、クーヴァからの提案を聞き、激しく痛む頭で考える。
カテジナに頼み果実水をコップに注いで貰ったものを一口流し込み終えると深呼吸をする。
彼女は「ふぅ」との深い吐息の後に意を決して顔を上げる。
「自身で読むわ。万が一って事も考えるなら他の人に任せず自分で読むべきだわ。それに神殿や教会との問題に備えて後ろ盾は有った事に越したことはないと思えるから…」
そう言ってフロレアールは手紙へと手を伸ばすのを見た面々に緊張が走る。
激しい頭痛と動悸によりフロレアールの手は震えていた。
震える手で手紙を慎重に開き、その内容を目にした瞬間に閉ざされてた最後の記憶が蘇る。
それに併せて頭痛と動悸が嘘の様に消え失せる。
そして閉ざし封印していた記憶を思い出した事に激しい後悔に襲われる。
手紙を目にした途端にフロレアールの目が死んで腐った魚の様に濁り始めたのを感じ取った面々が身構える。
だが、今回はフロレアールは前回と異なっていた。
フロレアールは突如として悟りを開いたかの様な表情へと代わり目から濁りも消え失せたのである。
そう、フロレアールは悟ったのだった。
自身に仇なす価値観が相容れない存在に自身が思い悩む必要は何ら無く、その存在を何らかの方法で消してしまえば良いのだということに。
「皆さん、心配をおかけしました。もう大丈夫ですよ。私は悟りを得て真理にを得ました。私に対して仇なす存在はどの様な方法でも構わないので消えてもらえばいいとの実に単純で簡単な事にです。その方法は説得でも再教育でも物理的にこの世から消え去っても構わないのです。以前から愚かな姉でしたが更に拗らせてしまった様ですね…。ホント初めてですよ…ここまで私をコケにしたおバカさんは…」
穏やかな表情を浮かべながらフロレアールの口から放たれる言葉に一同が氷付く。
ことの真偽を確かめるためにバースニップへと視線を向けると彼はコクコクと頷く事でその言葉が本心なものだと肯定する。
「皆さんもおバカさんからの手紙に興味がお有りでしたら読み聞かせて差し上げますよ?」
「お、俺は知らくても良いかな。陛下と会う際には、フロレアール殿に同行する事も無いからな」
「あ、主様がそう仰るのなら私めも遠慮させて頂きますね」
「そ、そうですわね。私はもちろん同行しますわ。ですが、手紙の内容は知らなくても特に問題はありませんわね」
「えっ?皆さん気にならないんですか?そこまで酷い私手紙って言うのならは私は聞いてみたいです」
「ちょっ!?カルチナあんた何言ってるの!?天然さんは少し黙りなさい。そ、そのフロレ様、天然娘の事は気になさらずに手紙はフロレ様がお持ちになってて下さい。私も別に内容は知る必要はございませんので…」
皆からの返答を聞いたフロレアールが静かにユックリと口を開く。
「キャローナさん、カルチナさんがお可哀想ですよ。それに皆さん聞きたくないとは仰っていないようですし、カルチナさんが一人では可哀想すから、遠慮なさらず皆さんでお付き合い下さいな」
そう言って灼滅の騎士ことフロレアールの実姉が一人、テルミドールからの封書に収められていた手紙の朗読が始まる。
『愚妹フロレアール。お前もあのクソ村から追い出されたみたいだな、ざまぁみろ。ご愁傷さまでほんと笑えるぜ。少しは私やフリメの気持ちが理解出来たか?いい気味で清清したよ。今度顔を会わせたら自分がしでかした非道に土下座で詫び入れろやボケ。冒険者になってイノシシ倒した程度で持て囃されて調子に乗ってイキってんじゃねぇぞ。優秀な姉様は今や王国近衛の超エリート様、その上メローネ姫様付きの騎士だ。平民のお前とは身分がそして格が違うんだよ格が、分かるか?姉より優れた妹は居ないと言うだろ?所詮は無駄な脂肪のデカイ胸だけが取り柄の下等なゴミ虫、いや汚物と言い表した方が適切な存在なんだよ。次に顔を会わせた時に昔の詫び入れるなら特別に許してやるが無ければ不敬罪でその場で粛清してやる。成長した姉様はスキル知りたての昔とは技の威力がダンチだから覚悟しておけ。私の灼滅でデカ胸汚物は消毒してやるから感謝しろよ。そして国王陛下からの招聘に誘われてホイホイ王城に来た時がお前の最後だ。だが優しく優秀な姉様から愚妹へ最後のチャンスをくれてやる。今後、奴隷として一生尽くすと誓うのなら特別に下女として飼ってやるから涙を流して感謝しろ。その面を拝むのが今から楽しみで仕方ないぜ☆』
朗読を終えたフロレアールが手紙を皆に見えるように広げたまま円卓の上に置く。
その内容と文章表現の二重の酷さ、それに加えてフロレアールの悟り発言から一同が固まり室内を静寂が支配する。
暫くの間、静寂の支配が続いていたのだが、それは突如として破られる。
突如ドアが激しく叩かれたと思うとバースニップからの返答を待待つこと無くドアが開かれ、衛兵の一人が室内に飛び込んで来たのだった。
『領主様、緊急事態の為、無作法をお許し下さい。町民の半数近く、その数、推計二千名以上が蜂起。既に教会を包囲し司祭イムテラと神官ポティロンの身柄を要求。対する教会側は門戸を固く閉ざし籠城にて抗しております。残る市民も現場に集まりつつあり、こちらは蜂起した一団を遠巻きに眺めております。衛兵だけでは対処叶わず、現場は騒然とした様相を呈しております』
フロレアールの記憶が戻り悟りを得た頃、既に日は傾き、チェーネの町には帳が落ち始めていた。
だが昼に発生した爆発の余波は未だに収まること無くチェーネの町を掻き乱しており新たな局面を迎えるのだった。




