013 素材生成
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念願のお風呂を満喫し終え、魔術で残り湯を消し、身体の水滴を取り除き、次いで髪を整える。
ドーム小屋に戻り台の上に鎮座している旅装束の残骸を眺める。
「旅装束さん今までありがとう。あなたの事も多分忘れないわ。」
私はマジックバックから下着類と白ベースでやや丈の短めなショートローブとこちらも白ベースのマントを取り出し身に纏う。
これらは自身のお手製であり高レベルの裁縫スキルを駆使して作り上げた自慢の逸品である。
「村の人達からは多少厚手の生地でも旅装束ほど頑丈じゃないから勧められないって言われたけど仕方ないわよね。その旅装束さんが天に召されてしまったものね。」
気にしないようにしても、頭の中にブースト状態で盛大にコケた時の記憶が蘇る。
「ブペッ」、「アガッ」といった声にもならない声を上げつつ地面を転がり滑り続け、口の中までジャリジャリとした砂塗れとなったあの感覚とボロ雑巾と成り果てた旅装束。
「これは何か対策をしないと。事ある毎に全裸になるのはゴンメンだわ。」
対策行ってもできることは限られる。
①魔術で対策
②更に頑丈な衣類や防具を入手する
③諦めて裸族として生きる。
どうやら選択肢は①しか無さそうである。
②も可能性はゼロではないが、今は早急な対策が必要なのである。
これから訓練を開始するというのに都合良く手に入る筈もなく、ちょっと頑丈な程度では意味を成さなないだろう。
何らしかの保護魔術やスキルが付与されたマジックアイテムであれば話は変わる。
だが、それらは簡単には手に入らないし、実用性が高いものは物凄くお高いのである。
③は有り得ないけど、悟りを開き人としての尊厳をポイっと捨ててしまえれば、あながち間違いとは言えない。
何故なら人外ステータスのお陰で殆ど全ての防具よりも己の躰の方が強固なのだである。
“防具なんてタダの飾りですよ、偉い人にはそれがわからんのです。”と簒奪値さんがドヤ顔で言い放ちそうなくらいに本当にお飾りなのである。
やっぱり魔術で何とかすることにしよう。
それよりも先にそろそろ暗くなってくる頃なので、食事の用意をするためにも炊事場の整備を行うために外へ出る。
因みに炊事場に関ては野営の訓練を兼ねて屋外で焚き火を用いて行おうと考えている。
構想としては、焚き火台位置とはドーム小屋階段の正面から少し離れた場所、その川側隣の少し離し位置に獲物の解体を行う作業台を設け、その双方に簡易的な柱と屋根だけを架す。
魔術による洗浄が可能とは言えども解体などの諸々の作業は臓物や内容物の処理を行うため、かなりの臭いを伴うことになるので、生活拠点とする建物内はちょっと避けたい心情なのです。
日もかなり傾いた来たため、いくら小さいと言っても森の中に構えた拠点周囲は急速に闇に包まれ始める。
作りたての焚き火台にスノコベットの端材をくべて火魔術で火を起こす。
今から狩りをする訳にもいかないことから今回もマジックバックの在庫を用いて食事を用意する。
空腹感をしっかりと感じられるため、本日はワンパンパスタを多めに拵えることにする。
始めにスライスしたベーコンと玉ねぎとマッシュルームを炒め香ばしさを出した。
次いで鍋に水と牛乳を比率で加えてひと煮立ちさせた後に乾燥スパゲティを加える。
スパゲティが一塊にならないように解した後に塩を控えめに加える。
スパゲティがアルデンテに茹で上がる少し前にセロリの葉部分を刻んだものを入れて風味だす。
最後に少量のバターを加えた後に足りない塩味を調整して完成となる。
なお、風味付けのバターは料理が完済する直前か完成後に加えることでバターの香りが飛ばないので少量で済むため覚えておくとポイント高いですよ。
それとセロリの葉は捨てる人も多いが細かく刻んだものスープに加えても香味野菜として風味が増し、大きめに刻んでごま油で炒めて塩で味付けしただけのものもシンプルだが美味なのでオススメである。
食事を摂りつつマジックバック内の食料在庫を改めて確認する。
このまま在庫を使い続けると十日と経たずに底を着くことになりそうである。
当初目的の町まで普通なら五日程度の旅程と考えれば、旅程の三倍近い食料を持たせてくれた村の人々の厚意には頭が上がらない。
次いで食事をしながら装備類について改めて考える。
武器に関しては白メイスがあり、本日の自損事故でも無傷なことから頑丈さの観点から問題はなさそうである。
それにブースト状態のピーキーさや過日のショートソード試し斬り粉砕事件を鑑みると力加減も細かな調整は効かないと想われる。
一から我流で剣の訓練を今更するのも無謀なため、当面はこの子(白メイス)を使うことにしましょう。
そうと決まれば問題は防具や衣類となる。
頑丈さから考えれば衣類の上に金属鎧となるが私の基本ステータスだと厳しく、常時ブースト状態なのは人としての暮らしに多大なる影響が生じそうなため遠慮願うことにする。
魔術に頼るとしてもどうやって解決するか思い悩みながら周りを見廻す。
とは言え、着用してるものを除けば周囲にある物と言っても、自らが作り出した拠点設備類、白メイス、マジックバック程度である。
「そういえば風壁で軟禁した五人組リーダー(?)が私の作った小屋がやたら硬いとか言ってたような...。それに相手が飛ばしてきた石礫も小屋の壁に当たって砕け散っていたわね。」
食事を終えた私は、物は試しと地魔術で70cm程の棒を出来うる限り強固にして作り出す。
その強度を確かめる対象として選んだもの、それは頑丈さには定評がある白メイス。
「白メイス君、ゴメンよ。私が人間としての尊厳を維持できるのか否かの重大な局面なんだ。」
そう言って私は作り出した棒で白メイスを軽く叩き合わせる。
ガツガツといった硬いもの同士がぶつかり合う少し甲高くも鈍く重く感じられる音が短く響く。
「ふむ、地魔術でも鉄とかの金属に近い感じまでは硬くなるものなのね。それじゃあちょっと本気で叩いてみますかね。」
そう言って私は左手に白メイスをしっかりと握り締め、棒を握った右手を高く振り上げた後にブースト状態になるよう意識して振り下ろした。
ガギィィィ、ドゴォーーン
白メイスに棒が打ち付けられた次の瞬間には解体台に架けた屋根の一部が吹き飛び大穴が開く。
私の猛烈に痺れる右手には、半分以下の長さに変わり果てた地魔術製の棒が握られていた。
どうやら折れた棒の一部が解体場屋根を直撃してその吹き飛んでしまったようなのである。
辛うじて崩れてはいない為、屋根は後で直すことにする。
そう悠長に考えていると残念なことに屋根が崩落してしまったので一先ず瓦礫の除去と修繕を行う。
修繕を終える頃には右手の痺れも消えており、改めて折れて短くなった棒を確認してみる。
直径5cm程の円形、見た目のサイズと感じられる重さから素材としての比重は鉄の半分程であろうか。
右手の握り位置から破断箇所迄には歪みは見受けられない。
恐らくだが硬質化を念頭に作成したために、素材としての剛性は高いが柔軟性が低いのだろう。
白メイスとの衝突した衝撃に耐えきれずに破断したと推察される。
この素材では私自身の使用を前提とした際には、ブースト状態における衝の突衝撃などには耐えられないであろう。
そうなると自身の装備品の材料としての流用は見送らざるを得ない為、不採用となる。
尤も私以外なら金属素材よりも軽量で地魔術で好きな形に生成できるから使い勝手は良さそうに感じられるのであった。
「もし、旅の連れでも出来た時にはコレで防御面を整えるのも悪くないかもね。」
そんな事を考えるフロレアールであった。