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33.最後の賭け

 村を焼き払った後、邪悪な魔女はたった一人生き残った子供に――魔女があえて生かしておいたのだ――静かに声を掛けた。


 ――あなただけは殺さないでおいてあげる。


 ――私を恨み、生きていきなさい。


 ――そして、大人になって、強くなったら。私を殺しに来なさい。


 ――村の者達や、家族の仇を討つために


 ――その時に改めて


 ――殺してあげる。


 ケラケラと愉快そうに笑い、『呪詛の魔女』は姿を消した。



 生き残った幼い子供は、魔女に言われた通り、強くなるよう努めた。

 最強の魔女を倒せるようになるまで、剣の腕を磨き続けた。

 長い年月をかけて、世界中を旅して回りながら、修行を続け、様々な困難を乗り越えていった。


 数十年後、大人に成長し、世界でも一、二を争うレベルの剣士となった、かつての少年は、再び現れた魔女に挑んだのだった――。


「よう、クソ魔女。お前に言われた通り、会いに来てやったぜ」

「なんだ、お前は……どこかで会ったか?」

「忘れたってのか。悪いが、俺は一度もお前の事を忘れた事はないぜ……あの時の約束を果たさせてもらう」

「約束? はて、どんなものだったのか……」

「お前を、俺が、必ず殺してやるっていう約束だよ……!」





「ヤツのもとへは自力で行け! よいな?」

「了解。後は頼んだぜ」


 パラカララは、水の塊をバンバン撃ってきている。

 その攻撃を避けつつ、俺は移動を開始した。

 魔力をまとって加速し、狙い撃ちをされないよう軌道を変え、少しずつ距離を詰めていく。


「やあ、お帰り。ようやく観念したのかな?」

「いや、俺ってヤツはあきらめが悪くてね。ぶっ倒されて動けなくなるまで、戦うつもりだ!」

「往生際の悪い……いいだろう、どうやってもボクには勝てないという事を教えてあげるよ!」


 水の塊を小さなものに変え、連射してくる。

 なるべく回避し、かわせないものは魔力剣で斬り、四散させる。

 無駄撃ちが多かったからか、闘技場の地面はどこもグショグショに濡れていて、足を滑らせないように移動するのは大変だった。

 よし、かなり近付いたぞ。魔力の刃を飛ばして攻撃できる間合いに入った。

 ヤツに攻撃を当てるには、あともう少し、接近する必要がある。次の加速移動で、一気に間合いを……。


「やはり子供だな。いくら強くとも、経験がないから、敵の狙いが分からないわけだ」

「あ? なにを言って……」


 そこで俺は気付いた。ヤツの足元から、白い何かがかなりの速度で伸びてくるのを。

 慌てて飛び退き、そのなにかが追尾してくるのを見て、冷や汗をかく。

 地を這うタイプの攻撃魔法かと思ったが、違う。

 これは……あいつが、足元から凍らせているんだ……!


「ボクは、水系統の魔法を得意としているわけだけど……氷系の魔法も含まれているんだよ」

「水の塊を撃ちまくって水浸しにしたのは、凍らせるための布石だったのか……!」


 なんてヤツだ。そこまで考えて攻撃してやがったとは。

 マズイぞ。闘技場内のほとんどは水浸しになっている。

 氷系の呪文なんか唱えられたら、場内の全てが凍り付いてしまう。


「君は、氷漬けにして捕獲する事にしよう。随分と手こずったけれど、これで終わりだよ……!」


 ヤツの足元から俺に向けて、瞬間的に地面が凍り付いていく。

 加速移動でどうにか逃れているが、もはや地面のほとんどが凍り付いている。逃げ場はどこにもない。

 恐ろしいヤツだぜ。自分の方が圧倒的に実力は上なのに、まだ切札を隠していやがったとは……抜け目がないにもほどがある。

 こうなったら、一か八かだ。この凍った地面を利用させてもらおう。


「行くぜえ! おりゃああああああ!」


 凍り付いた地面の上に飛び乗り、加速移動を行う。

 向かう先は、パラカララだ。氷の上を滑って近付き、あの野郎をぶった切ってやる……!


「この状況で向かってくるとは……度胸は買うけど、あまり利口な方法とは言えないね……!」

「!?」


 あとほんの少し接近すれば、確実に剣の間合いに入る、というところで。

 地面から噴き出した氷の波のようなものに行く手を阻まれ、俺はそれ以上進めなくなった。

 足先から腰のあたりまで、氷に飲み込まれてしまい、動けない。

 くそ、あと少しだったのに……! ヤツを倒すには、もっと接近しないと……。


 ともかく脱出しなければ。魔力剣を使い、周囲の氷をカット、氷の波から抜け出す。

 ところがそこで、新たな氷の波が襲い掛かってきた。今度のは俺を頭から飲み込む大きさだ。


「くっ……!」


 回避は間に合わない。こうなったら魔力剣で斬れるだけ斬って、氷漬けにされるのを防ぐしかない。

 上等だ。必ず、あいつの所まで行ってやるからな……!


 迫り来る氷の波を魔力剣で迎え撃とうとした、その時。

 強烈な気配が真横から急接近してきたのを感じ取り、俺はギョッとした。

 なんだ? まさか、敵の新手……?


「でやああああああ!」

「!?」


 それは、炎の渦をまとった、少女だった。

 アーシェ・クリダニカは剣を振りかぶり、右手から突進してきた。

 一瞬、まだ操られていて、俺に攻撃を仕掛けてきたのかと思ったが……。


「魔法剣、紅蓮火炎斬!」


 炎をまとった剣を振るい、氷の波を叩き切り、ジュワッ、と蒸発させる。

 俺の前に着地したアーシェは、笑顔で告げた。


「お待たせ! 私が来たからには、もう大丈夫だよ!」

「あ、ああ……そうなんだ……」


 どう反応するべきか困っていると、アーシェは頬をふくらませた。


「ちょっと、アロン君! 大ピンチの場面で、倒れたはずの仲間が復活して助けに来たんだよ? もっと喜んで!」

「いや、まさかアーシェが助けに現れるとは思わなかったから……本物だよな?」

「正真正銘、本物の私だよ! なに、私が戦力になるとは思いもしなかったとでもいうの!?」

「そういうわけじゃないけどさ……」


 まったく予想外の援軍だったので驚いたが、どうやらアーシェは本人で、操られてもいないようだ。

 実際、助かったぜ。しかし、今の技は一体……?


「私の切り札、剣に魔法を宿らせた、魔法剣だよ! 驚いたでしょ?」

「ああ、びっくりだぜ。そんな技が使えるのなら、なぜ今まで使わなかったんだ?」

「実はまだ未完成で……全力で使うと、魔力がゼロになっちゃうの。おまけに体力も消耗しちゃうし……」


 アーシェは力尽きたように膝をつき、肩で息をしていた。

 まだ完全にものにしていない技だったのか。俺が危ないのを見て取り、無茶を承知で未完成の技を使ってくれたんだな。


「助かったぜ、アーシェ。後は任せてくれ」

「うん。がんばって……」


 アーシェに礼を言い、俺は正面に目を向けた。

 決着をつけるために。

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