31.魔女の弟子
剣を振りかぶり、迫り来るバーサーカー達の足元を狙い、魔力の刃を放つ。
地面が爆発し、生徒達はみんな吹き飛んでいった。これで全員、意識を失うだろう。
だが、一人だけ爆発を回避したヤツがいた。
「あははは! こんなの見え見えだよ!」
アーシェは一瞬、足を止めて爆発を避けたようだ。
さすがは学年トップ、そしてあいつの弟子だけはあるな。
「えいっ、全力で魔力加速! そこから魔力剣で斬りつける……雷鳴斬!」
瞬間的に加速、稲妻の軌道を描いて魔力剣を振るうアーシェ。
見事なもんだ。訓練中に見たヤツよりも完成度が上がっているな。
だが――まだ、甘い。
俺も魔力をまとって加速、アーシェの動きに合わせて並走する。
魔力剣に魔力剣をぶつけて威力を殺し、そして……ぶつけた魔力を、アーシェごと飛ばしてやる。
するとアーシェは、加速状態からさらに加速し、すっ飛んでいった。
「あははは……きゃああああああ!?」
闘技場の壁に激突、魔力が爆発し、ようやくアーシェは動きを止めた。
魔力をまとった状態なので、大きな怪我はしていないはずだ。
やれやれ、やっと片付いたか。
さて、ヤツは……俺が倒すべき、本来の敵はどこだ?
「いやあ、お見事。粘るとは思っていたけど、まさか全員倒しちゃうなんてね……ふふふ」
ヤツは、パラカララは上空に浮いていた。
パチパチと拍手をしながら、ゆっくりと降りてくる。
かなりの間合いを開けて着地し、俺と対峙する。
「そろそろ片付けないとまずいよね。異変に気付いた警備の連中が集まってきたら鬱陶しいし……」
「片付けるって、なにをだ?」
「君を倒して、捕獲する。そう言っただろ?」
「やってみろよ。お前みたいなお子様には無理だと思うがな」
俺が挑発してやると、魔女の弟子は、ニヤリと笑った。
「ふふ、そう言えば、忘れていたよ。仮の姿のままだったっけ」
「!?」
ヤツの足元に魔法陣が出現し、その小さな身体を怪しい光で包み込む。
栗色の髪の毛が伸びて、身長がグングン伸びていく。
あっと言う間にヤツは、ローブをまとった、大人の姿に変化してみせた。
成長してもその顔や体型は中性的なままで、男なのか女なのか、分からなかったが。
輝く瞳は、金色に変化している。なるほど、黄金眼の異名通りだな。
「これがボクの、黄金眼パラカララの本当の姿だよ。この姿なら君を捕らえるぐらい簡単なものだと思わないかい?」
「……っ!」
コイツ、ヤバイ。予想していた以上だ。
魔力を抑えているようだが、それでもすさまじい力を有しているのが分かる。
魔女の弟子なんだから、魔女よりは弱いはずだと考えていたんだが……コイツはそこらの魔女よりも強いかもしれない。
「君の戦い方は見せてもらった。その年齢、その小さな身体で、大人顔負けの力を持っているみたいだが……悪いけど、ボクの相手を務めるには力不足のようだね」
「!?」
パラカララが細い腕を振るうと、ローブの袖から鞭のようなものが飛び出してきて、俺の所まで伸びてきた。
剣を振るい、鞭を斬り払う。なんだあいつ、ナメてるのか? こんな攻撃、当たるわけが……。
斬った鞭が、剣に絡み付き、蛇に姿を変える。
慌てて蛇を振り払うと、再び鞭が襲ってきた。
鞭を斬り払うと、切断した鞭が蛇に姿を変え、襲い掛かってくる。
「ちっ、妙な術を……こんな蛇なんかで俺を倒せるとでも思っているのか?」
「ああ、言い忘れたけど、その蛇は猛毒を持っているから。噛まれたらあっと言う間に死んじゃうよ」
「て、てめえ、なんて陰険な攻撃を! これだから魔法使いと戦うのは嫌なんだ! どいつもこいつも卑怯な真似しかしないし!」
俺が抗議すると、パラカララはピクッと反応し、低い声で呟いた。
「そういう言い方は気に入らないね……剣士の方が優れているから、魔法使いは卑怯な真似をしないと互角に渡り合えない、とでもいうのかな?」
「違うってのかよ。お前なんか、卑怯な魔法使いの代表みたいなもんだろ」
「んー、ちょっとカチンと来ちゃったかな……よろしい、魔法使いにも強い者はいるという事を、君に教えてあげようか」
パラカララが腕を振るうと、俺の周りにいた蛇が消えた。
ヤツはなにもない空間に長い杖を出現させると、その手に握り締めた。
「では、行くよ。君にしのぎきれるかな?」
「!?」
パラカララは魔力を高め、なんと一直線に突っ込んできた。
馬鹿な。剣士を相手に、接近戦を仕掛けるつもりか?
俺も魔力をまとい、剣を魔力剣に変化させて迎え撃つ。
パラカララは予想外のスピードで肉迫し、長い杖を振るって、打ち込んできた。
杖の先は斧のような形状になっていて、魔力に包まれ、威力を増している。
ガンガンと打ち込まれ、魔力剣で受けつつ、冷や汗をかく。
なんだ、コイツ。魔道士のくせに、なんでこんなに強力な打撃を……剣を折られてしまいそうだ……!
「そら、どうしたね? 剣士が接近戦で魔法使いに後れを取ってちゃ駄目じゃないか!」
「くっ……!」
コイツ、相当修練を積んでいるな。対剣士用に杖術を修得しておいたってところか。
強大な魔力と、一級品の魔道具と思われる杖を組み合わせる事で、一流の剣士と渡り合えるだけの力を備えているわけか。
「強いな、あんた。そこらの魔法使いとは格が違うらしい。そこは認めてやるよ」
「ふふ、それはどうも。そろそろ降参したくなったのかな?」
「いや。剣士として、意地でも負けられなくなったぜ」
「!?」
瞬間的に魔力を高め、相手の杖をガン、と弾く。
俺の剣も、それなりの一級品だ。魔道士の魔道具に負けない程度の性能は有している。
この短めの長剣は、魔剣、ソードウインド。風属性の魔力を備えた魔剣で、疾風のごとき鋭い斬撃を生む。
マヨネラに折られてしまったが、既に自己修復している。俺がコレクションしている魔剣の一つだ。
「やはり、魔剣か。普通の剣にしては威力がありすぎると思っていたんだよ。君の師匠である魔剣帝は、あらゆる魔剣を自在に操る魔剣士だと聞いているしね。その魔剣も師匠から譲り受けた物なのかな?」
「そんなところさ。あんたを倒せるだけの力を持っている剣だ」
「いや、無理だね。その剣ではボクを斬る事はできないよ」
「なんだと……!」
魔力を込め、剣を振るう。魔剣が本来の力を発揮し、鋭い斬撃を生み出す。
それは風属性の魔力を有した、魔力の刃。この距離では、魔道士には受けるのも避けるのも無理だ。
だが――俺が放った必殺の一撃を、パラカララは杖で弾いてみせた。
弾かれた魔力の刃が真横に飛んでいき、闘技場の壁に激突、爆発を起こす。
「ば、馬鹿な! 今の一撃を見切れるはずがない!」
「ところがそうでもないんだな。ボクには、魔力剣を見切る事が可能な、『眼』があるのでね」
「!?」
いつの間にかヤツの前髪が左右に分かれ、額があらわになっていた。
その額には、黄金に輝く、第三の眼が出現していた。
「まさかそれが、本当の『黄金眼』なのか?」
「そういう事。切り札は隠しておくものだよ、坊や」
誰が坊やだ。ちょっと大人の姿になったからって偉そうにしやがって。
しかし、マズイな。ギリギリまで魔剣の力を隠していたのに、まさかヤツがそれを上回る能力を隠し持っていたとは。
一応、切り札はもう一つ用意してあるんだが……あの『眼』には通用しないかもしれないぞ……。




