表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

【第一章】光野音晴と言う男


〈第一話〉


初めまして。どうも、この度、この大学に晴れて合格し、大学生として新しい人生を歩もうとしているジョン・マルクスです。

この学校は僕の住んでいる地域で最も大きくかつ優秀な学校であり、卒業生には高級官僚や芸能人など、表舞台で光り輝く方々が多く、とても有名な大学なのです。

僕はその大学の民俗学などを専門に学ぶ学科に通うことになりました。

まさに今、僕はその学科の先生の教室に向かう廊下を歩いているわけです。

…一体、どんな方なのでしょう!!!


『え~あ~聞こえますかぁ?』

扉を開け、見学用の席に座る。

美しく若い男性がなぜか真白い白衣を着て、前の教壇でマイクを握りしめ話している。

「あの方が、光野先生…?」

光野 音晴。民俗学専攻の大学教授であり、最年少で大学教授になった凄い方…とジョンは聞いていた。

ところが、教壇に立つ音晴であろう人物は白衣を着、片手にフラスコを掲げ、調子の悪く音割れしているマイクのテストをしている。

…ジョンははっきり言うと吃驚していた。

教室が違うのではないかと何度も確認した…が、どうやらあの男性が光野 音晴らしい。

『はい、じゃあ、今日はこの地域の地形と神話について話をしていくよ。』

気怠そうに話を進める音晴。

ジョンから少し離れた席に座っていたが―一番近い席に座っていた女性に声を掛けた。

「あの…あの男性が光野先生ですか?」

女性は話し掛けられたことに少し驚いていたが、すぐにジョンに微笑んで言った。

「そうよ。彼が光野先生。」

ジョンはそれを知り、気怠そうに授業をする音晴に失望感を覚えた。

「あ、あの方が先生…」

女性は少し可笑しそうにジョンを見ていた。

「そうね、今日は先生は元気が無いわ。でも、明日の講義に来てご覧なさい。きっと素敵な先生を見ることが出来るわ。」

女性は聖母のような微笑みをたたえてジョンを見た。


〈第二話〉


(…本当につまらない。

この世界は、こんなことを学び、調べ、探究したところで価値がないことを知っているくせに。)

…音晴は授業の終わった部屋で一人佇んでいた。

光野 音晴。この英国の大学の最年少教授である。

彼はいつも退屈していた。

(僕に素晴らしい刺激を与えるのは…やはりあの方々しかいない。)

音晴は軽く決心をしていた。


次の日。

ジョンは再び見学用の席に座っていた。

昨日の女性を疑うわけではないが、ジョンにはどうも音晴が“素敵”になると言うのが信じられなかった。

…ジョンが物思いに耽っていると、教室は急に真っ暗になり、辺りが見えなくなった。

ジョンが不安になっていると、ぱっと教壇辺りの場所がライトで照らされた。

―音晴だ。

『素敵な先生を見ることが出来るわ。』

あの女性の微笑みが思いうかんだ。

最年少で大学教授になったあの音晴の特殊な授業に軽くジョンの心臓は跳ねていた。

周囲が淡い光に包まれた。

…ジョンはそこで見てしまった。

昨日の講義に出ていた何倍もの人数の人が同じ白い服を着て一斉に教壇を向いているのを。

ジョンは怖くなった。

気付かれていないだろうと思い、ジョンは教室を抜け出そうとした。しかし、ジョンの行く手を白装束の男が塞いでしまう。

ジョンはその男をどかそうと必死に藻掻くが、どう藻掻いても男はびくともしなかった。

『おやおや?君はだぁれ?』

落ち着いた低い声。それが耳の後ろで聞こえた気がした。

『迷い込んできた訳ではなさそうだ。』

女性であれば惚れてしまいそうな甘ったるい声。

『ここの学生さんかな?ならば生贄には出来ないが…』

ジョンの足は竦み、腰の力が抜けて立つことが出来ない。

『君、気に入られているね。残念ながら。』

不気味に笑う男の口元で完全に恐怖に堕とされたジョンは気を失った。


目を覚ませばそこは見知らぬ部屋だった。

たくさんの本棚にぎっしりと詰まった書物。よく見れば様々な言語で書かれていた。

ジョンは記憶を辿った。

(確か、あの時僕はあの教室で儀式の様なものを見て、気味が悪くなって、教室を出ようとした。それで…それで…)

―君、気に入られているね。残念ながら。

音晴の言った言葉がジョンの中でフラッシュバックする。

(気に入られている…?僕が?一体何に…???)

ジョンが思考を巡らせていると、誰かが部屋に入ってきた。少し怖くなって、寝かされていたベッドの端に逃げるように頭から掛け布団を被って縮こまった。

ギィ…と立て付けの悪そうな扉が開いた。

「おはよう。調子はどうかな?」

(気怠そうな声、ふらふらと近付いてくる影…どこかで?)

震えながら掛け布団の隙間から部屋の様子を見ようとする。…しかし。

その隙間には人間の目が…。

「ひぇっ!?うぎゃああああああああああっ!!!?」 

「五月蝿い五月蝿い。あーっ!五月蝿い!!」

音晴は群がる蠅を払うかの様に手を顔の前で振った。落ち着きを取り戻したジョンは痛む頭を抱えながら音晴を見た。

「…ひっ。あ、あの…光野先生?」

音晴は耳を押さえながら面倒くさそうに言う。

「なにかな?」

ジョンは恐る恐る言葉を紡ぐ。

「あの、僕は何に気に入られているんでしょう?」

音晴はジョンの怯える様に呆れた様に溜息を吐いた。

「視えないと言うのは罪だねぇ。」

こんなにも綺麗なのに。と、音晴は言った。ジョンは音晴の言葉に首を傾げた。

…視えない。とは?

音晴は紅茶をジョンに差し出す。

音晴は自分のティーカップに引くほどの角砂糖を入れてティースプーンでかき混ぜていた。

「“貴方”の様な上級神がどうして、この人間に?」

音晴はジョンの背後斜め上に向かって話をしている様だ。

ジョンは怖くなって再び音晴に問う。

「ぼ、僕は一体、何に気に入られているって言うんですかっ!?」

音晴は本当に面倒臭そうに溜息を吐いて、それから、腕時計を見た。

「そろそろかな?君の後ろだ。」

ぬるりとした感触がジョンの首筋を這う。

「んひっ!?」

ジョンは恐る恐る振り返る。…と、そこには滑りを帯びた謎の生命体の姿があった。


〈第三話〉


「ひっ!?うっうわっ!?」

ジョンは布団から飛び退いた。

ジョンの真後ろの天井に異形の怪物が犇めいていたのだ。

「五月蝿い五月蝿い。」

ぼやく音晴の姿を見れば、その姿は豹変していた。

艶のある黒髪は妖しい輝きのある銀髪に、蒼い瞳はいつの間にか紅くなっていた。

首や腰の周りには赤く輝くルビーの様な宝石がついた輪がついている。

「あ…れ??光野先生!?」

ジョンは心から思った。きっと死んでしまうのだと。異形だらけのおかしな空間に今まで感じたことのない恐怖を覚えた。


「落ち着き給えよジョン・ニクソン君。」

不意にあの音晴の甘ったるい声が聞こえた。音晴を見ればその顔は恍惚とした表情をしていた。

「こんなに“美しい”神を見て狼狽えるのも無理はないが―少しは“彼女の声”に耳を傾け給え。」

ぱちんっと音晴が指を鳴らすと、先程まで部屋全体の天井を覆う程の異形生命体が一瞬で消え、目の前に美しい女性の姿があった。

「貴女は、昨日の…」

恐怖に顔を歪める女性は昨日、声を掛けた女性と瓜二つだったのだ。

「僕の教え子にそんな綺麗な女性はいない。昨日、君が初めて来たとき、独りで喋っていたものだから少し気になってね。」

…まさか、人間に擬態していたとはね。と、音晴はくつくつと笑った。

ジョンは首を傾げた。…独りで喋っていた?

(そんなことない。だって僕はあの時…)

確かにこの女性と話をしていたのだ。

「事実は小説より奇なり…とは良く言うものだよ。君はあの時、僕たちが教室で何をしている様に見えた?」

…ねぇ、大丈夫?

そう言って手を差し出したのはジョンにではなく、女性にだった。


〈第四話〉


ジョンはすっかり呆然としてしまった。

“被害者”は自分だと思っていた。

しかし、音晴の瞳はしっかりと女性を捉えている。

「先生…?」

「君は理数系の学科の子だね。見ない顔だ。どうりであの時“貴方”が見付からないわけだ。少し怖かったでしょう?」

音晴は女性を宥めるように背中を摩る。

「私、あの時、自分の意思とは裏腹にあの教室へ向かっていて…」

女性は震える手で自分の両腕を抱き締めながら弱々しく語る。自分の身に起きた不可解な現象を。

「“誰もいない”教室で…急に恐怖心を覚えて、それから、あの“異形の怪物”に会ったんです。とても恐ろしくて私は気を失って、気付けば此処に。」

ジョンは訳が分からなくなった。

あの時、確か自分はあの教室でたくさんの白装束の人間達に会ったはずだ。

ジョンは頭を抱えた。

音晴は女性を優しく抱きとめ、部屋への出口へ案内する。

「もう神と貴女は乖離している。安心してもらって結構だよ。」

女性は心底ほっとした顔で音晴にありがとう御座います。とお礼を告げて部屋を出て行った。

「さて。」

音晴は白銀の髪を揺らしながらゆっくりとジョン…否、ジョンだったものに近付く。

「本当に事実は小説より奇なり…とは良く言ったものだね。」


女性はすっかり晴れ晴れとした顔で部屋を出た。昨日からの悍ましい出来事から解放されたからであろう。

と、黒髪の前髪をピンでとめた可憐な青年が女性をまた別の部屋に案内し、お茶を差し出した。ここは、音晴の研究室だろうか。様々な書類や書籍が机上に散乱している。

「これを…私に?」

仄かに甘い香りのするお茶は日本のものなのだろうか。優しい深緑色をしていた。

どうぞ。と言わんばかりに差し出す青年の後ろから中学生くらいのこれまた見目麗しい少女がひょっこりと現れた。

「日本のお茶。とても美味しい。この男性は言葉が喋れない。ご了承下さい。」

辿々しい英語で少女は呟く。

どうやら彼女は日本の女子中学生の様だ。(英国では見慣れないセーラー服と言うものも着ているし。)何故此処に居るかは不明だが、ここの研究員の妹か何かだろうと女性は思った。

女性はお茶を数回口に運ぶと、女性は青年から紙を渡された。

今回は少女でも説明は難しかったのか、そっと達筆な筆記体の英語で書かれた紙切れと書類…と言ってもレポート用紙みたいなものを女性は見た。簡単に言えば昨日の事を書き出して欲しいと言う事だった。

彼女は再びお茶を飲んだ。

悪夢の様な出来事だった。そう…二度と思い出したくないくらいには…しかし、また自分と同じ被害者が出て欲しく無いという一心で筆を執った。


「一体…何を??」

音晴はにこにこと笑顔のまま、“ジョン”を見ていた。まるであの気怠そうなあの時の音晴とは大違いの。

「まだ気付いてないのかな?自分の姿に。まあ、気付かないでそのまま過ごしている神も少なくはない。愛奈君もそうだったし…。」

ゆっくりと近付いてくる音晴に少しの恐怖を覚え、音晴を遠ざけようとジョンは“右手を突き出した”。

「あ…れ…?」

ジョンの目の前に現れた“ジョンの右手”は、“滑りを帯びた触手”であった。

「どうして…?」

くつくつと笑っていた音晴は愉快そうに笑い声を発した。まるで可笑しくてたまらないと言うかの様に。

「だから言ったじゃないか!!」

目を輝かせ、恍惚とした表情で、興奮しているのか仄かに赤く色付いている頬で、荒い吐息で、音晴はジョンに迫ってくる。

「視えないと言うのは罪だって。」

不気味とも言えるほど顔を歪ませて笑う音晴は、ジョンに向けて手鏡を向けた。

「これが君の“姿”だよ。」

鏡をのぞき込めばそこには人間の原形をとどめていない異形の姿があった。

「嘘だ。僕は…こんな怪物なんかじゃ…」

…怪物なんかじゃない。そう言おうとしても、ジョンの姿は紛れもない“異形”。

蛸や烏賊の様な軟体動物を思わせる肢体。滑りを帯びた体、虚ろな瞳、突き出た口に並ぶ浅黒い牙。毛穴のようにぼっかりと開いた穴から異様な臭いが立ち込め、目を背けたくなるほど毒々しい色の見た目―この姿のどこが『怪物なんかじゃない』のだろうか…。

「ジョン…いや、貴方は…ウェルガマですね。我が主。崇敬致します。」

「ウェルガマ…」

ジョン…ウェルガマの頭の中で思考が一時停止した。

「大陸一の謎めいた鬼神、自らを運命と名乗る。万物は全て貴方が記した象徴が物質化したものだと言われ、人も動物も運命が終わればウェルガマの本のページを埋める文字に変えられてしまうと言う……。」

―貴方が運命だ!!


〈第五話〉


女性は達筆な筆記体でレポート用紙に昨日の体験を書き上げた。

可憐な青年は軽くお辞儀をして、レポート用紙に目を通すと、何回か納得したように頷いた。…と、先程のセーラー服の少女が再び現れた。

「了解。完璧。」

と、親指を突き立てていた。

私は昨日、とても不可解な現象に遭遇しました。それはとても恐ろしく悍ましいことです。

大学内での講義が終わり、帰ろうとした時、友達と興味本位で光野先生の講義を見に行こうと言うことになりました。彼の講義はとても素晴らしいと風の噂で聞いていたからです。

講義を聞いていた際、不意に後ろのドアが開いた気がして…振り向くと、そこには青年が座っていました。少し驚きましたが、私は気にもとめていませんでした。私は青年と他愛も無い会話をした後、悪寒がして、友達と教室を出ることにしました。

家に帰ってから、その現象は現れました。

普段使っていた食器棚が音を立てて壊れたり、何故か何時もと目線が低いと感じた私は、鏡を見ました。…そこには、とても巨大な平べったい醜い怪物の姿があったのです。

私は驚愕しました。しかし、目線を鏡から少し外すと、私の鏡に写る姿は元に戻っており、きっと疲れからなる幻覚だろうと思いました。

しかし、浴室や寝室、自分以外誰も居ない場所のはずなのに…視線を感じました。それも心労のせいと、私は思い、就寝しました。

真夜中に体に圧がかかっている気がして目を覚ましました。すると、そこには部屋中の天井を這うように広がる怪物の姿がありました。

私は驚いて、動くこともままならず、その場で硬直してしまいました。

怪物は私に何かを伝えようとしていましたが、私には理解できず…。私は気を失ってしまいました。

その翌日、目を覚ますと怪物は消えていて、昨夜のことが夢かのように思えました。

そして、今朝、私の意識は大学校内に入った途端に途絶え、気が付けば、昨日講義を受けた教室の隣の空き教室へと足を運んでいたわけです。

私は身動きもとれないまま、その空き教室へ入りました。すると、またあの講義の教室で感じた悪寒がして、私は“天井”を見ました。

…そこには、昨夜見た怪物が居たのです。昨夜同様、天井を這うようにして。しかし、昨夜と違うのはその怪物が何かを喋っていたことでした。しかも、私の理解できる言語で。

内容は恐怖でうろ覚えですが、確か途切れ途切れにこう言っていた気がします。

『に…かお…お……てる』

『あ……し…た』

…の部分は聞き取れ無かった所です。

そして、私は恐怖と異臭とで意識を手放しました。

後は、追記にて。


〈第六話〉


無理矢理記憶が遡る。

大理石の御殿、椅子、僕はそこに腰掛けていて、誰もいない広間をぼうっと眺めている。

目に映る僕の手はごつごつしていて、尋常じゃなく大きい。しかも鉛色をしていて、人間では無いのは確かだった。目線も高い。まるで巨人にでもなった様だった。

僕はずっと永い時を生きていた。何があるわけでも無い退屈な時間を。だから僕は作った。様々な“象徴”を。有機物、無機物、全ての万物を。退屈を埋める存在を。

そして、生まれた。

人間という初めての知的生命体。僕は気に入ってずっとその知的生命体に側にいさせた。名前もつけた。

こんなにも心が安らいだのは初めてだった。名前を呼べば、すぐに反応し、物を教えればすぐに覚えた。しかしながら、忘れっぽいと言う欠陥もあり、逆にそれも愛おしいと思えた。

僕は…人間を作り、それを愛した。

その作り出した人間は脆く弱く儚くすぐに消滅してしまった。

僕は人間に失望感を覚えた。だからこそ、“彼女”を作った。

(だから、僕は…)

ーあんなにも彼女を欲しいと思ってしまったんだ…。

視界が晴れた。それでも、僕は“本来の姿”のままだった。

「どうですか?思い出せましたでしょうか。我が主。」

深々とお辞儀をし、柔らかい笑みをたたえている音晴を見る。

「僕は人間を愛している…否、愛していたのだ。」

ウェルガマは坦々と語る。

「彼女は、貴方が愛していらっしゃった人間の造形物に“似ていた”のでしょう?」

核心をつくかのように、音晴はウェルガマの虚ろな瞳をじっと見つめた。

「ああ。似ていた…いや、瓜二つであった。人間に擬態していても、我の気持ちは変わらず彼のものを愛していたのだ。」

ウェルガマの声がジョンだった時のハスキーボイスから、低く嗄れた声に変わる。

「それはそれは深い愛で…」

音晴は肩をすくめて笑って見せた。

どこか悲しげに、どこか寂しげに。

「だから、彼女に憑依したんですね?ジョン・マルクス君は貴方の作った擬態用の入れ物。貴方が定めれば、運命は全てねじ伏せたでしょうし。」

ウェルガマは自嘲するかのように笑う。

転がる入れ物を眺めながら。

「封印された地でずっとあの娘に会いたいと思っていた。思っていたら、いつの間にかこの惑星にいた。この惑星にいて、あの入れ物で全てを忘れて過ごしていた。」

音晴は黙って入れ物を見る。虚ろな目をして倒れている、美しい青年。これが、ウェルガマの作った人間の形。

「綺麗だ…」

「そんなものまやかしだよ。我は彼のもの以外は人間とは認めん。人間は強欲で攻撃的だ。争いは絶えず、血が飛び、悲鳴が上がり、私利私欲の為には手段を選ばない。だから、我は人間を愛することを止めたのだ。君も…その一人なのだろう?」

音晴は少し驚いたように、入れ物を見ていた目をウェルガマに向けた。

「ええ、まあ。」

音晴は歯切れ悪そうにつぶやいた。

「君のその姿…人間ではないのだろう?それにその赤い輪…守護印だね。」

誰の従属かは、聞かないでおこう。ウェルガマはそう言って目を伏せた。

「さぁ、我を封印し給え。」

音晴は、少し躊躇いながら、ウェルガマの願いを断った。何故?と、ウェルガマは尋ねた。

「僕が、貴方を呼び出したから…です。」

音晴は、そっと目を伏せてウェルガマに語り掛けた。

「僕は貴方に用がある。」


…女性が丁度お茶を飲み干した頃。

部屋にまた別の誰かが入ってきた。

「こんにちはぁ…♪あらぁ?」

どうやら、今度は成人女性の様だ。

さらさらとした金髪を揺らして、女性の元に近付いてくる。華やかな香りが鼻をくすぐった。

「こんなに愛らしいお嬢さんが、どうしてこんなむさ苦しい所にいるのですかぁ?」

金髪の女性は顔を近付けて話し掛ける。

モデルの様な整った顔、すらっと伸びた手足にバランスの良い体躯。この世の人では無いのでは…と思わせるような美しいエメラルドの瞳。

「まぁ、いいですわ。今日は愛奈ちゃんに会いに来たのですけど、愛奈ちゃんは何処?」

そう金髪の女性が問うと、奥の部屋からまたセーラー服の少女がひょっこり現れた。

「ここです。」

少女は可憐に微笑んで金髪の女性を手招きした。

「あら!今日も美しいわねぇ!!男の子だなんて嘘みたい!!」

女性はぽかんとした。男の子…?

女性が呆気にとられていると、金髪の女性はセーラー服の少女(?)の頭を撫で回しながら、少女と一緒に奥の部屋から出て来た黒髪の青年にぼやいた。

「ほんっと。音晴はなにをしているの?さては、まーたつまらないカミサマ研究ね?熱心なのは良いことだけど、私に会わせたい助手なんて何処に居るのよ。」

もしかして貴女?と、金髪の女性はじっとこちらを見つめる。―しかしながら、青年は違います。と間髪を入れずに返した。

「ほんっと、いけずね、Mr.廿六木。ちょっとからかっただけよ。」

いい加減にして下さい。と、廿六木と呼ばれた青年が溜息を吐いた。

「少々お待ち下さい。Mrs.フォーサイス。音晴ならば、干渉が終わったら直ぐに此方に向かわせるよう手配いたしますので。」

当然よ。と、金髪の女性。

「この、アリーア・フォーサイスを待たせるなんて言語道断よ。」

女性は耳を疑った。

アリーア・フォーサイス…とは、この、英国大学の謎多き理事長の名だからだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ