45.悪い予感
「うーん・・・これはもう、新しいのを買わないとだめね。」
ある朝、レミアの部屋のベットを見てリーズはそうつぶやく。
ベットは真ん中がベコッとへこみ、下を覗くと底板が折れているのが見えた。
「レミア、あなたまたベッドの上で跳ねたんでしょ。」
「ごめんなさい・・・」
「もう、いつも言ってるでしょ、物は大切に扱いなさいって。
・・・まあでも、これもだいぶ古くなってたし、買い換え時だったのかもね。」
「確かに年期入ってるもんな。
どのくらい長く使ってるんだ?」
「前の代から使ってるんじゃない?
私が物心付いたときにはあったからね。」
へー、じゃあ結構長く・・・
あれ?この世界の一世代前ってどのくらい前なんだ?
相当なアンティーク品だぞこれ。
「とりあえずこのベットじゃ寝れないし、どこかの部屋から持ってこないといけないわね。」
「じゃあレミアはレオのところでねようかな?」
「バカ言わないの。
予備はいくらでもあるし、新しいのも今日買いに行くわよ。
レオ、今日私とレミアは街に新しいのを注文しに行くから、あなたはこのベッドを客室のものと取り替えておいて。
それが終わったら、好きに過ごしていいわ。」
「ああ、わかった。
いってらっしゃい。」
というわけで朝食後、俺はレミアの部屋のベッドを三階の物置へと運び、代わりのベッドを持ってきた。
もちろん運搬には魔法を使う。
九割くらい魔法で持ち上げて、あとは手で支えコントロールしながら運ぶのだ。
水を出す魔法と物を動かす魔法は日頃の家事でも使うので、既にかなり上達している。
これなら元の世界に戻っても、引っ越し屋さんに清掃屋さんにと大活躍だな。
もっと有効な使い道があるかな?
一人水力発電とかかっこいいかも。
特許取れそう。
廊下や天井も広いので移動中ぶつける心配も無く、パパッと運搬と毎日の家事を終えた俺は、アニエスに差し入れる用のお茶を用意していた。
でも考えてみれば、屋敷でアニエスと二人っきりってこれが初めてだな・・・
い、いや、だから何というわけじゃないんだけどね!
でもリーズというストッパーがいない今、もしかしたら
「ご主人様お止めください!」
「ハッハッハ!いいからさっさとその服を脱げ!」
「いやー!」
的な展開にまでいけるかもしれない。
・・・いや、おかしいか。
誰だよこのご主人様。
口調的に俺か?
それだとこれどっちも俺になるな。
地獄絵図だな。
まあ変なこと考えず、いつも通りのんびりお仕事するか。
コンコンッ
「アニエス、お茶入れたけど飲むか?」
「あら、ありがとう、レオ。
うれしいわ。」
ノックして書斎にはいると、真剣な顔で仕事をしていたアニエスが、頬をゆるめこちらに顔を向ける。
「あれ、これってもしかして地図?」
お茶を入れようと傍によると、アニエスの仕事机の上に、森や山や都市らしきものの描かれた大きな紙が広げられているのに気が付く。
「そうよ、世界地図。
レオは初めてみるのね。」
おぉ、やっぱそうか!
「なあなあ、じゃあローズ領はこの地図だとどこらへんなんだ?」
「ふふふっ、ローズ領はここね。
首都が真ん中のここで、マリルのコリー領はその横。」
急にテンションのあがった俺を楽しそうに見つめながら、アニエスは地図を指さし教えてくれる。
ローズ領は平地のど真ん中なんだな。
こりゃいい土地だ。
ちょっとだけ南の広い森とも接してる。
ていうかコリー領が広い。
さすが第一貴族。
それにしても、異世界の地図は見てるだけでワクワクしてくるな。
冒険したくなる。
パーティーを組むとしたら、リーズが勇者でアニエスが僧侶で俺は魔法使いかな。
レミアはかわいさで敵がひれ伏すタイプのユニークジョブで。
などとRPGなことを考えていると、アニエスが少し難しい顔で地図を見つめていることに気が付く。
「・・・なんだか深刻そうな顔だな。
何かあったのか?」
「あら、そんな顔してたかしら。
ごめんなさいね。
ちょっと気になることがあって。」
「気になること?」
「・・・亜種の群がね、近くまで来てるの。」
亜種の群!?
「といっても、私たちの領地まで来る可能性は薄いのだけどね。」
気を使わせまいとアニエスは軽い笑みを浮かべているが、その表情はどこか浮かない。
彼女は目の前の地図に視線を移し、ローズ領の南東あたりにある街道を指さす。
「南方領との境目の街道、ここに現れた亜種の群が、いま北上してるみたいなの。」
「・・・それなら隣の領地に行くんじゃないか?」
「そうね、順当にいけばたどり着くのは隣のクペ領だし、リーズもそう考えているみたいなのだけど・・・」
考え過ぎかしらね、とアニエスは曖昧に笑う。
その一方、俺には一つの考えが浮かんでいた。
「・・・なあアニエス、そんな大変な時に何だけど、一つお願いしてもいいか?」
「なに、レオ?」
「もし亜種が来て、討伐に行かなきゃいけないようなら、俺もそれに参加させてほしい。」
俺の言葉を聞き、アニエスは真剣な表情でジッと俺の瞳をのぞき込む。
「どうして?」
「俺ならきっと戦力になる。
それに、貴族の奴隷は戦わないと認められないんだろ。」
「・・・私やローズ家の評判を気にしているのなら、心配いらないのよ?」
「いや、ローズ家の為とかじゃないんだ。
俺が認められたいと思ってるんだ。
俺は活躍して、名声を得て、ローズ家だけじゃない、他の貴族たちからも認められたいんだ。
そうすればきっと、誰のわがままでもなく、俺は胸を張ってレミアと一緒にいられる。」
一息に、俺は自分の気持ちを告白する。
そしてすぐに、心の中まで見通すようなアニエスのまっすぐな視線に我に返る。
「あっ、いや、そうだな・・・
よく考えれば、名声を得て認められたいなんて、ひどいわがままだな・・・
悪い、忘れてくれ。」
「待って、レオ。」
いたたまれなさに部屋を出ようとすると、アニエスは座ったまま俺を手招きする。
傍に近寄ると、アニエスは俺の頭をその胸に抱き寄せた。
優しく甘い匂いに包まれる。
「わがままなんて思わないわ。
そんなにレミアのことを想ってくれてありがとう、レオ。」
抱き寄せた俺の頭をゆっくりとなでるアニエス。
「でもそれは、とっても大変な道よ。」
「・・・大丈夫だよ、アニエス。
俺はレミアに時間も力も分けてもらったから。
やってやれないことなんてない。」
「ふふふっ、そうね。
私も応援するわ。」
俺とアニエスはお互いに微笑み合った。
次話に続きます




