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02.レミア・ローズ

 暖かい日差しと、頬に当たる固い石の感触に眼が覚める。

 どうやら、あのまま庭園の石畳の上で数時間気を失っていたようだ。


(意識がある・・・

体も動きそうだし・・・

あの出血で死ななかったのか?)


 そんなことを寝起きでぼんやりとする頭で考えながら、体を起こす。


「キャ!」


 立ち上がると、鈴を鳴らしたかのような可愛らしい声と共に、背中から何かが転げ落ちた。

 後ろを振り返る。


 そこには、一人の少女がいた。

 膝まで届きそうなくらい長い綺麗な金色の髪に、白い刺繍の凝ったワンピースを着た少女が、地面に転がっている。

 なんだか神秘的な雰囲気を持つ少女だが、顔つきからはとても活発そうな印象も受ける。


 俺の背中に乗っていたのか?

 なんで?

 寝起きに情報を詰め込まれ混乱する俺の横で、少女は驚いた顔で起き上がった。

 少女と目が合う。

 整った目鼻立ちのかわいらしい少女が、パッチリした目で俺を見ていた。

 そして少女は急に涙目になる。


 え、泣かしちゃった!?

 背中から落としたせいか?

 それとも俺が怖かったのか?

 だ、大丈夫だよー、お兄さんは悪いオオカミさんじゃないよー。

 あ、いやオオカミさんっていうのはいやらしい意味のオオカミさんじゃなくて、ガチのオオカミさんっていうか、そうじゃないというかーーー


 と俺が一人で混乱していると、少女は涙目のまま満面の笑みを浮かべ、何か言いながら俺に勢いよく抱きついてきた。

 背丈のせいで腰にぶら下がるみたいになってるけど。

 あれ?泣いてる訳じゃない?

 逆に喜んでくれてる?

 ・・・よくわからないけど、とりあえず撫でやすそうな位置にある頭でも撫でるか。


ズキッ!


 動かそうとした右肩に激しい痛みが走る。

 見ると、俺の右肩は昨日のまま、肉が食い千切られ、周りの服も真っ赤に染まっていた。

 ・・・何で忘れていたんだろう。

 痛みが麻痺していたのか?

 とにかく早く病院に行かないと。

 ここは救急車の方がいいか?

 でも携帯もないし、今いる場所もわからないし・・・


「うっ・・・い、いてぇ・・・」


 急によみがえってきた痛みに、我慢できずうめき声を上げる。

 嬉しそうに腰に抱きついていた少女もそれに気が付き、不安そうにこちらを見上げた。


「----! ---、----!」


 すると少女が何か言いながら俺の服を引っ張り地面を指差す。

 ・・・ここに座れということだろうか?

 そんなことより誰か大人を呼んできてほしいんだが・・・

 そう思いながらも、とりあえず俺はその場に膝立ちになった。

 少女は俺のそばに立ち、傷ついた右肩に手をかざす。

 ジッと真剣な眼で傷口を見つめる。


 すると、彼女が手をかざす先に淡い光が現れ、俺の肩の傷を包み込む。

 まるで逆再生するかのように千切れた筋肉と肌が再生し、一分もしないうちに肩は元通りになった。

 触ってみても完全に傷はふさがっている。

 ありえない光景にしばし唖然とする。


 そこでハッと思い出す。

 痛みが無いので気が付かなかったが、そういえば目が覚めてから背中の痛みも消えている。

 手を伸ばし触ると、破かれた服はそのままに、背中の傷だけが綺麗に消えていた。

 なんかデジャブだな。

 少女の方を見ると、腰に手を当て嬉しそうにドヤ顔をしていた。

 かわいい。

 それにしても今のはなんだ?

 まるで魔法みたいな・・・

 本物の魔法?

 そんな馬鹿な。

 でもこの目で見てしまったわけだしな・・・

 よく見るとこの子、耳もちょっと横にとがってるし。

 エルフ?

 

 とりあえず助けてもらったお礼を言い頭を撫でると、少女は照れ臭そうにしながらも目を細め笑い、また腰に抱きついてきた。

 頭を撫で続ける。

 細い髪が指の間をサラサラと流れて気持ちがいい。

 ずっと撫でてたいなぁ・・・


 ・・・ハッ!

 ダメだ、ここんなところで呆けていても仕方がない。

 傷も治ったんだし、まずは今どこにいるのか確認しなくては。

 この少女に聞くのがいいだろうか?

 でもどう話しかけよう?

 先ほどから少女はちょくちょく何か喋っているのだが、話す言葉にどうにも聞き覚えがない。

 何語だろうか?


「こんにちは」

「?」


 こちらを見て首をかしげる。かわいい。

 まあ見た目からして日本人ではないし当然か。

 いやいや、でも俺ついさっきまで日本にいたんだぞ。

 ・・・とにかく知りうる限りの色々な言語で話してみるか。

 というわけで、ハローから、「こんにちわ」なのか「こんばんわ」なのかわからないような挨拶まで、色々と試してみる。

 しかしすべてはずれのようだった。


 うーん、どうしようか。

 とりあえずこのサッカーグラウンドほどもありそうな庭園の奥に見える、あのでかい屋敷に行ってみるか。

 人のいるところに行かないと始まらないしな。

 ここにいるってことは、この子もあの家の子だろうし。

 警察とか呼ばれないといいなぁ・・・


 などと考えていると、少女がまた俺の服を引っ張る。

 少女の方を見ると、彼女は自分自身を指差しながら楽しそうに何か話しかけてきた。

 やはり聞き取れない。

 意味を理解していないのがわかったのか、少女はまた元気な声で、今度は短く、


「レミア!」


と言った。

 彼女の名前だろうか?


「レミア?」


 確認するように彼女に話しかける。


「--!レミア!レミア!」


 俺の言葉に、少女は嬉しそうに何度もうなずいた。

 やはり名前であっていたらしい。


 そして今度はこちらを指差しながら、


「レオ!」


と元気よく叫ぶ。

 どうやら俺の名前はレオになったようだ。

 いやおかしくね。

 普通お互い名乗り出るものだろ。

 ・・・まあいいか。

 言葉も通じないし、ここで言い返しても仕方ない。

 それに「レオ」が本当に名前かもわからないしね。

 もしかしたら「レトナルド・ディカプリオ似のオ兄さん」って意味かもしれない。

 とりあえずこれで挨拶は済ませたようなものだし、彼女といっしょに屋敷に向かうとするか。

 レミアは俺の手を握りブンブン振りながら、「レオ♪レオ♪」とご機嫌そうに歌っている。


 とそのとき、遠くから誰かを探すような女性の声が聞こえてきた。

 「レミア」という言葉も聞き取れたし、おそらくこの少女を探しに来たのだろう。

 だがレミアの方を見ると、彼女は俺の顔を見ながら「どうしよう・・・」みたいな表情をしていた。

 見つかるとまずいのだろうか。

 ・・・ああ、俺がまずいのか。

 そりゃそうだ。

 不法侵入だもん。

 どうしよう、隠れた方がいいか?

 でもあの屋敷以外に行くあてないしな。

 うーん、でも警察沙汰になるのも困るし・・・


 俺がどうしようか決めかねていると、レミアが何か思いついたように腕を引っ張った。

 付いて来いということらしい。

 どうしようか。

 レミアの表情を見れば、俺が出て行けば問題に巻き込まれるのは明らかだ。

 さっさとこの迷子状態を解決したい気持ちはあるが、さっきの魔法のようなものを見てから、少し動揺しているのが自分でもわかる。

 冷静に現状を考える時間も欲しい。

 ・・・ここはレミアに付いて行くことにしよう。

 レミアはなぜか俺に懐いてくれているみたいだし、彼女に付いて行っても悪いようにはならないだろう。




 そうしてレミアに手を引き連れて来られたのは、干草が山積みにされた木造の小屋だった。

 隣には馬小屋もある。

 おそらく馬の餌用の干草の倉庫だろう。


 そんなことを考えながら小屋の中を見回していると、レミアは俺になにか早口に話しかけてくる。

 うーん、やはり聞き取れない。

 そしてキョロキョロと小屋の外を見渡し、さきほどの声の主がいないことを確認すると、こちらに手を振り戸を閉め外に出て行ってしまった。

 一人小屋の中に取り残される。

 ・・・これで良かったのか?


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