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03.奴隷化

 まあまずは焦らず状況を整理しよう。


 最初に、ここに来る前は何をしていたかだな。

 たしか新しいPCを買うためのお金を下ろしに銀行に行って、そこで強盗に背中を刺されたんだよな。

 それから・・・

 そこからはもう記憶がない。

 気が付いたら森の中にいたんだ。

 あのオオカミの森の中に・・・

 ヤバイ、思い出したらまた震えてきた。

 ていうかおかしいだろ!

 なんで刺されて気を失った後に目覚めるのが森の中なんだよ!

 普通病院だろ!

 二度も背中刺されたじゃねーか!!

 ・・・いや、まて、冷静になろう。

 わからないものは仕方ない。


 森で目覚めた後はオオカミに追われ、当てもなく逃げ回り、この庭園にたどり着いた。

 その後も出血がひどく結局死ぬのかと思ったが、レミアに魔法で助けられた。


 いやおかしい、特に最後がおかしい。

 魔法で助けられたって何だよ。

 でもあれは魔法としか言いようがないしなぁ・・・


 そして俺がその場にいるのは問題になりそうだったので、レミアの手引きで干草小屋に連れて来られ現在にいたる、と。


 まあ、流れとしてはこんなもんか。

 わからないのは俺が銀行で気を失ってから森の中で起きるまでだよな。

 なにがあったのだろうか?

 病院でも意識の戻らない俺を家で看病することになって、連れて帰る途中で森に置き忘れたとか。

 森に置き忘れるって何だよ。

 それにここ日本じゃないっぽいぞ。

 じゃあ国内の施設では回復の見込みがないから、海外の腕のいい医者に見せに行く途中で、置き去りにされたとか。

 いや、そもそも何で森の中を通るんだよ。

 飛行機で移動中ちょうど森の真上でうっかり落としちゃったとか。

 バカか。


 これは考えても仕方がないか。

 現状わかることはこのくらいだろう。

 あとは今後どうするかを考えなくては。

 海外で困ったら、やっぱり大使館とかに連絡すればいいのだろうか?

 でも連絡手段がないな。

 そこは借りるしかないか。

 本当に今服以外何も持ってないしな。

 借りる先は警察かな。

 人のいるところに行けば見つけられるものなのか?

 うーん・・・




 一人考え込んでいると、大きな音を立てて小屋の戸が開く。

 見るとそこには、太陽にも負けないほどの眩しい笑顔を浮かべたレミアが立っていた。

 急いでやってきたのか、少し息が上がっているようだ。

 手にはパンを一切れ持っている。

 レミアは出て行ったときと同じように、小屋の周りをキョロキョロと見回してから戸を閉めた。

 そして小走りで駆け寄って来たかと思うと、干草の上に胡坐で座る俺に向かってダイブしてくる。

 うおっ・・・軽いとはいえ結構痛い・・・

 ていうかパン潰れてるぞ。


 レミアは半分潰れたパンを見て少し悲しそうな顔をした後、それを一口大に千切り、目をキラキラさせながら俺の口元に差し出してくる。

 あ、それ俺のパンだったのね。

 俗に言うアーンというやつなのだろうが、なんだか餌を与えられているような気分だな・・・

 大人しく差し出されたパンを食べる。

 するとレミアは、胡坐をかいた俺の膝の上に背を向けて座り、その体勢のまま上を向き二口目を差し出してきた。

 かわいい。

 大人しく食べる。


 しかしこれは大丈夫なのだろうか。

 ここがどこなのかは未だにわからないが、今や子供に声をかけるだけで通報されるようなご時勢だ。

 これはもしかしたら女児監禁とかにならないだろうか。

 いや監禁されているのは俺か。

 宿も食事も提供されてるしヒモか?

 幼女のヒモ?

 ・・・このままではいけない。

 こんなアブノーマルなヒモ生活をしていたらきっとダメになる。


 パンも食べさせ終わり、レミアは俺の足の上でゆったりしている。

 俺はそんなレミアを持ち上げ立ち上がった。

 そして彼女の頭を撫でながら、


「今までありがとう、元気でな。」


とお別れを言い、出ていこうとする。

 レミアは俺の言葉がお別れだと気が付いたのか、


「―――、レオ!――――――!!」


と何か叫びながら、抱きつき必死になって俺が出て行くのを止めようとする。

 うーん、ちょっと罪悪感が残るけど仕方ないよな。

 とりあえず町まで行かないとどうにもならないし。

 無事帰ったら何かお菓子でも送ってあげよう。


 とそこで、レミアは何か思いついたように顔を上げ、腕を引っ張りまた俺をどこかへ連れて行こうとする。

 ・・・どうしよう?

 まあどちらにせよ外に出るつもりだったし、少し付き合ってからでも遅くないか。

 そう思い、俺はレミアに手を引かれるまま付いていった。




 そこは庭園の隅に建てられた、教会のような白い建物だった。

 中は長椅子が左右に何列か並び、まさしく礼拝所とっいた感じの内装になっている。

 正面には杖を掲げた女性の魔法使いのような像が飾られており、像の後ろにある大きなステンドグラスから差し込む昼前の暖かい光が、建物内を優しく照らしていた。

 俺とレミア以外は誰もいない。


 レミアはその像の前まで俺を連れて行くと、肩の傷を治したときと同じように、俺を目の前に膝立ちにさせた。

 そして真剣な顔で深呼吸をする。

 何をする気だろう?

 またあの魔法か?


 レミアは俺に一言だけ何かつぶやいた後、俺の頭に向かって手をかざした。

 そして、何か唱え始める。


ドクンッ!!


 レミアの詠唱と同時に体に異変が起きる。

 な、なんだ!

 レミアのかざす手から、肩を治療した時とは桁違いのエネルギーが体の中に直接流れ込んで来くる。

 きつい運動後に深呼吸したときの感じか?

 違うな。

 ライブ会場の音が直接からだに入ってくる感じ?

 違うような。

 まあわからないが、とにかく嫌な感じじゃない。

 まだレミアの詠唱は続いている。

 長い。

 こんな長い言葉を全部覚えているのか。

 すごいなこの子。



 五分ほど経ってようやくレミアの詠唱は終わった。

 手の甲にズキッと小さな痛みが走る。

 見ると、左手の甲に簡略化された花の紋章が浮かんでいた。

 なんだこれ?バラ?

 

 詠唱を終えちょっと疲れた様子のレミアもその紋章に気が付く。

 すると突然、膝立ちの俺の首に嬉しそうに抱きつき、


「やった!できた!

これでずっといっしょだよレオ!!」


とはしゃいだ。


 ・・・ん?

 いま言ってることが理解できたぞ。

 なんでだ?


 そこに、扉の開く音が響く。

 教会の入口を見ると、レミアに似た金色の髪の少女が入ってくるところだった。


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