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17.散髪

「レオ、あなた髪伸びたわね。

そろそろ切った方がいいんじゃない?」


 三姉妹と朝食をとっている最中、リーズが俺にそう言う。

 確かに結構伸びたな。

 ここに来る前もPCを買うために散髪代ケチってたし、かなりボサボサになってしまっている。


「レミアがきってあげる!」


 俺の横に座るレミアが目を輝かせながら言う。

 いいぞ!レミアが切るなら、坊主でもモヒカンでもバッチコイだ!


「ダメよ、あなた散髪なんてしたことないでしょ。

貴族議会の前に変な髪型になっても困るし、私がやるわ。」


「えー」


「リーズが切ってくれるのか?」


「亜種だと理髪師も呼べないしね。

それに姉妹の髪を切っているのも私よ。

安心していいわ。」




 というわけでお昼のティータイム後、庭の井戸の横に椅子を持ってきて、リーズが俺の髪を切り始めた。

 そんな様子を遊び相手を取られたレミアが退屈そうに眺める。


「へんなかみがたにしちゃダメだよ・・・?」


「大丈夫よ。少しすくだけだから。」


 リーズは慣れた様子で軽快にハサミを入れる。

 ごめんなレミア、後でいっぱい遊んでやるからな。

 でもただ切られてるだけなのも正直暇なんだよな。

 元の世界だと雑誌を読むふりとかしてたけど。

 日頃ジャンプしか読まないのに、急にメンズノンノとか渡されても困る。


 じゃあせっかくだし、色々聞こうと思っていたことを今のうちに聞いておくか。


「なあリーズ、突然でなんだけど、精霊族と亜種だったか?

その二つについでに詳しく知りたいんだけど、説明してもらってもいいか?」


「精霊族と亜種について?

また変なこと聞くのね。

いいわよ、じゃあ簡単にだけど教えてあげる。」


リーズが髪を切る手を休めず話しをする。


「まず精霊族についてだけど・・・

急に自分たちについて話せって言われても結構困るわね。

・・・そうね、まず全種族が高い知能と魔力を持っていて、寿命は数百年から数千年。

生まれてから百年くらいで成人した見た目になって、そこからは寿命が近づくまで容姿はほとんど変わらないわ。

寿命が近づくと老化が進んで50年くらいで死ぬの。

長寿の種として一番有名なのは竜種とかかしら。

私たちエルフ種も寿命は長いほうね。」


 やっぱりレミアたちはエルフなのか。

 それ以外はだいたい前に聞いたことが多いな。


 それにしても竜種か。

 ドラゴンだったらモンスターじゃないのか?

 いや、精霊族って言ってるし、人型だけど竜っぽいとかそんな感じなのかな、

 翼があるとか。

 見てみたいな。

 背中に乗せてもらえたりしないだろうか。

 それで、「すごい・・・神様みたい!」って泣きながら言いたい。


「次は亜種ね。

亜種は本能に従って生き、精霊族を襲い犯し喰らう、狂暴で残虐な生き物よ。

身体能力は精霊族よりずっと高くて、種族によってはある程度の知能もあるわ。

見た目は種族によって違うけど、動物よりは私たちに近いものが多いわね。

魔力を持って無いから、寿命は長くて三、四十年。

一箇所を縄張りにする亜種もいれば、土地を食い荒らしながら移動する亜種もいるわ。

・・・これくらいかしら?」


 リーズは、他には何があるかと、俺の髪を切りながら考える。

 精霊族を喰うって、前に見た奴隷のゴブリン、そんな危ない生き物だったのか・・・




「じゃあ、前から聞きたかったんだけど、街で男を見ないのは何でだ?

別々に暮らしているのか?」


 この世界に来てからもう一ヶ月近くは経つのに、一度も俺以外の男を見かけない。

 二回しか屋敷から出たことはないんだけどね。

 まあなんにせよ、いずれローズ家姉妹にお見合いの話なんかが来たら、相手を見定めないといけないしな!

 少なくともバルさんぐらい男前じゃなきゃダメだ。

 むしろバルさんでいい。


「男って何よ?」


 逆に聞き返された。

 男がわからない?

 え、いや、そんなことはないだろ。

 それとも哲学的なことを聞かれてるのか?

 深淵をのぞく者は考える葦だ、的な。


「あー、ほら、小屋で飼ってる馬だって分かれてるだろ?

その、なんだ、子供を生むほうと、生ませるほう?に!」


 我ながら酷い説明だな・・・

 どう言えばいいんだろうか?

 下半身の話をするのは恥ずかしいしな・・・

 もういっそ見せた方が早いか?

 これがついてる人のことさ!って感じで。

 捕まるわ。


「オスのことを言ってるの?

亜種なんかと一緒にしないでよ。

精霊族にオスはいないわ。

どの種族でもね。」


 男がいない?

 極端に数が少ないとか、別々に暮らしてるとかでもなくて?

 0なの?


「男がいないって・・・

じゃあどうやって子供をつくるんだよ!」


「ちょ、あなた大声でなに言ってるの!」


 赤くなった。

 あれやっぱりそういうことはするのか?


「いいから教えてくれ!」


「うぅ、もうわかったわよ。

だからそんなに顔を近づけないで!」


 いつの間にか立ち上がり、肩を掴んででリーズに迫っていた。

 リーズは顔を真っ赤にしている。

 おっといけない。

 クールになろう。

 俺は今クールだ。

 だから早く、早く続きを!!


「精霊族が子供をつくるときは、亜種から精子を採取して、注入器を使って体内に入れるのよ。」


 ・・・なんか思ったのと違う方向の答えが返ってきた。

 えげつない方向の答えが。


「昔は直接交わってたみたいだけどね。

でもたとえ奴隷でも、興奮して相手の精霊族に攻撃する場合が多いから、注入器が広まってからはほとんど行われなくなったみたいね。」


 え、えー・・・

 なんというか、何も言えない。

 でも同じ生き物同士じゃないと子供って作れないんだよな?

 染色体がどうとかで?


「それで生まれるのは、その・・・ちゃんと母親に似た子なのか?」


「当たり前じゃない、なに言ってるの?」


 当たり前なのか。

 これもうわかんねぇな。



「じゃ、じゃあ亜種はどうやって子供を生むんだよ。」


「あなた亜種なのに何で知らないのよ・・・」


 いや知ってる。とてもよく知ってる。

 テストで120点取れるくらい知ってる。

 知識では。

 でもたぶんこの世界では違う。


「亜種は基本オスしかいなくて、物を食べてその分だけ自身の同種を作るのよ。

口から吐いたり、体の一部を切り離したりしてね。」


 やっぱり違いますよねー。

 え、朝起きたら口からもう一人の自分がコンニチワとか流石に嫌だぞ・・・

 ん?でも待てよ?

 それって繁殖にメスがいらないってこと?


「そしてごく稀に生まれるメスは、同種のオスと交わって子供を大量に生むの。

メスの生まれた群れは巨大になる場合が多いから、確認され次第すぐに討伐隊が組まれるわ。

今は昔に比べればずっとメスの発生率は低いみたいだけどね。

一説によれば、精霊族を多く喰らった亜種がメスの個体を産むって話もあるみたい。」


・・・恐ろしい世界だな。

そういえばこの世界じゃ俺も亜種なんだよな。

そんなのと一緒なのか・・・



「でも初めて会ったとき、なんで俺が亜種だって一目で分かったんだ?」


 俺そんな凶暴そうに見えたかな。

 ショックだ。


「まあ、確かにあなたは精霊族に近い見た目だけど、なんとなく顔や体のつくりが違うし、見たらすぐにわかるわよ。」


 確かに女性と見間違えられるような容姿ではないしな。

 背も肩幅もそこそこあるほうだし。


「それに奴隷紋がついていたしね。

奴隷にできるのは亜種だけよ。」


「そうなのか?」


「ええ、精霊属に奴隷化魔法をかけると、かけられた相手は死んでしまうの。

入ってくる他人の魔力と自身の魔力が、体の中で反発し合うのが理由みたい。」


 へー、じゃあ奴隷化魔法を使って寿命を延ばす、みたいな事もできないってことか。

 リーズも、減った魔力量は戻らないって以前に言ってたしな。

 レミアの減った分の魔力を少しでも戻してあげたいけど、なにか方法はないものか。



 ところで話は変わるが、リーズは髪を切りながら、なんでかやたら俺の耳とか首とか触ってくる。

 頭もことあるごとに撫でてるし。

 なんでだろうか?

 まあ聞いてみるか。


「なあリーズ、なんでさっきから耳を触ってるんだ?」


「えっ!ばっ!触ってないわよ!

変なこと言わないで!

か、髪の毛を払ってただけよ!」


 ものすごい狼狽してる。

 うーん、それにしては、じっくり触っていたような気がするけど・・・?

 エルフの耳とは形が違うから珍しかったのかな?

 でもエルフの耳かぁ・・・


「・・・俺もリーズの耳、触ってみていいか?」


「なっ!きゅ、急に何言ってるのよ!バカ!」


 リーズが真っ赤になりながら声を荒げる。

 そ、そんなに怒らなくてもいいのに・・・


「耳をさわりたいの?

レミアのさわっていいよ!」


 俺の脚の上にたまった髪の毛を、わしゃわしゃして遊んでいたレミアが話に入ってくる。


「いいのか?」


「いいよ!はい!」


 そう言い、レミアは俺の方に耳を近づける。

 じゃあ遠慮なく触らせてもらうか。

 手についた髪の毛を払ってから、レミアの綺麗な色白の耳を優しくなでる。


「あはははは!

くすぐったーい!」


 おー、とがってるとがってる。

 でも感触は普通の耳と変わらないな。

 耳の穴の位置とかも同じだし。

 ちょっと長いだけだな。

 そりゃそうか。


 すると、それを見ていたリーズが、


「べ、べつに私もダメとは言ってないじゃない。

ほら、触りたいなら触れば!」


と言い、少しかがんでレミアと同じように耳を差し出してくる。

 いや、もうレミアでわかったから大丈夫なんだけど・・・

 とは言えず、リーズの耳にも手を伸ばす。

 リーズは俺の手が触れピクッと震えた後、くすぐったいのか耳と顔を真っ赤にしながら、唇を噛みしめ声を出すのを我慢している。

 少し涙目になってるし。


 ・・・これあれだな、ちょっとアウトなやつかもしれない。

 考えてみたら、耳触らせてとか普通にセクハラだしね。

 い、いつ手を離そう。

 「離すぞ」って言ってから離した方がいいのかな?

 やばい混乱して来た。

 耳触ってるだけなのに。



「あら、三人とも何してるの?」


 と、そこにアニエスがやってくる。

 助かった!

 早くこの不思議な幸せ空間から出してくれ!


「レオが耳をさわりたいって言ってたから、さわらせてあげたの!」


 レミアが元気よく答える。

 ちょ!そんな誤解されるようなこと言わないで!

 いや誤解じゃないのか。


「そうなのね。

それじゃあ私の耳も触る、レオ?」


 そう言いアニエスは俺の前でかがむ。

 あー、ダメだー、

 深みにはまってるー。

 と言いつつ触る。

 両手で。


「んッ・・・

ふふっ、ちょっと、気持ちいいわね・・・」


 あぁ、わかってたけどこれはダメだ。

 学生の踏み込むべき世界じゃない。

 頼むから!

 頼むからそんな色っぽく微笑みかけないでください!


「も、もう終わり!

レオも満足したでしょ!

髪、流すわよ。」


 俺に耳を触られた後しばらく放心していたリーズが、謎のおさわりタイムに終止符を打つ。

 パパッと魔法で水を流し髪を乾かして、その日の散髪は終わった。


・・・また切ってもらいたいな。


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