八章1 反転
桜花は薫の部屋に応援を呼んだ後、同じ階の正反対に位置する麗の部屋を訪ねていた。
今回の騒動で桜花が怪しいと踏んだのが麗である。本来の彼女であれば、桜花はともかく薫とは久々の再会なのだからいつも引っ付いていそうなのに、逆に自分たちを遠ざけける行動ばかりとっていたことに違和感を抱いたからだ。
「……反応がない」
何度も呼んでいるのにもかかわらず、無反応。しかし、桜花は部屋から麗の魔力が感じてとっているので引くわけにはいかなかった。
「麗、入るわよ!」
事前に百合花に借りていたマスターキーで強行突破をする。
今までうんともすんとも言わなかった扉がすんなりと通してくれる。申し訳ないと思いつつも靴を脱がず部屋へ。仕切り戸を開け、その先には――
「――えっ……」
目に入ったのは縄で縛られ横たえられていた麗の姿だった。
「麗!」
桜花はすぐさま駆け寄ると、揺さぶり、呼びかけるも反応はなかった。口元に頬を近づけると、正常に呼吸をしていることを確認。
「……ごめん」
手の甲で頬を張ってみるものの、一向に目覚める気配を見せない。
ここまでして起きないのであれば十中八九、催眠系の魔術だろう。桜花は催眠の解き方を知らないので、効果が切れるのを待つしかない。
縄を解く作業をはじめるのだが、
「なにこれ、固すぎ」
いくら女とはいえ、魔術師である。腕力もそれなりにあるはずなのに、結び目はびくともしなかった。
「もう、しょうがない! 何か刃物は……」
見渡してみるものの、部屋のつくりは大体同じなのでそれらしきものは見当たらない。作業を一時中断し、麗のもとを離れ窓へ。鍵を開け、全開にすると心地よい風が部屋へと導かれる。
『風よ、鋭利なるものと化し、我に従え』
桜花は魔術を使い、風を見えぬ刃に変換すると慎重に縄を切った。結び目を失った縄はすんなりとほどけ落ちる。念のため、麗の身体を確認してみるが縄の跡が見えなかった。
「危害を加えるつもりはない……ということかしら」
さすがに放置しておくわけにもいかず、携帯端末で御川を呼び、運んでもらうことにした。




