↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼の狂犬  作者: 八咫 日本


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/22

第22話:完全なる歯車

 新京の外周に位置する第七工業区は、黒煙と爆音に包まれていた。

CIA特殊作戦部『ファントム・スレッド』から供給された最新鋭の重火器を操るテロリスト数百名が、無数の工場群を占拠。木下局長のヒステリーによる指揮系統の混乱で治安維持局の到着が致命的に遅れる中、上空を覆う分厚い雲を裂いて、漆黒の大型輸送機が飛来した。

国防省直轄、特殊機甲連隊『金剛』。

輸送機のハッチから、パラシュートすら持たずに巨大な鋼鉄の塊が次々と投下される。

ズガァァァァンッ!!

アスファルトを砕き、クレーターを作りながら着地したのは、身体の八割を兵器化した軍用第三世代サイボーグたち。その頂点に立つ連隊長、権藤鉄幹は、濛々と舞い上がる粉塵の中でゆっくりと身を起こした。

戌亥を凌駕する巨躯。その網膜ディスプレイには、テロリストたちの熱源反応、風速、遮蔽物の強度、そして殲滅に要する最適解が、膨大な数式となって滝のように流れている。

「……なるほど。敵機の配置密度、武装レベル、いずれも想定の範囲内ですね」

権藤の声は、眼前に広がる戦場にはおよそ似つかわしくない、極めて理知的で丁寧な響きを持っていた。彼の中に国家を守る正義への昂りも、テロリストへの怒りも存在しない。あるのはただ、与えられた数式をいかに効率的に処理するかという純粋な論理だけだ。

「各員、点の索敵は不要です。面ごとの完全消去に移行しましょう」

権藤は淡々と告げると、右腕のロック解除コードを走らせた。

プシュゥゥという排気音と共に、巨大な重装甲の右腕が根元から物理的にパージされ、無造作に地面へ落ちる。同時に、背部の巨大なウェポンラックが展開。格納されていた『六銃身大型ガトリング砲』が前方へせり出し、空いた右肩のジョイントへ直接、重々しい金属音を立てて接続された。

「それでは、演算を開始します」

静かな宣言。次の瞬間、六つの銃身が狂ったような回転音を上げ、地獄の業火が噴き出した。

毎分数千発という圧倒的な質量の弾幕。それはもはや射撃ではなく、空間そのものを削り取る物理的な暴力の嵐だった。

「ひ、ひぃぃぃっ!」

「建物に隠れろ! 抜かれるぞ!」

テロリストたちが悲鳴を上げて鉄筋コンクリートのプラント内へ逃げ込むが、権藤は射角を変えることすらしない。

分厚いコンクリートの壁が、鋼鉄の柱が、そしてその後ろで震える人間の肉体が、文字通り粉々にすり潰され、真っ赤な肉塊とコンクリートの粉が混ざり合った凄惨な泥へと変わっていく。

弾幕が通り過ぎた後には、原型を留めた建物も、人間も、何一つ残されていなかった。ただ、地形そのものが抉り取られた真っ平らな更地が広がっているだけだ。

「……エラーなし。方程式は美しく解かれましたね」

赤熱し、白煙を上げるガトリング砲をそのままに、権藤は血の雨が降る戦場の中央で丁寧な口調で呟いた。

怒りも、悲哀も、悦びすらない。完全無欠の歯車としてただ命を刈り取るその姿は、ある意味で新京という狂った国家そのものを体現する、最も恐るべき神の兵器だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。