途絶える手紙
何通も何通も、手紙を交わす内に彼のことをどんどん知っていった。
名前はカザミ。年齢は25歳。男性。
とある国の騎士をしていて、かつての戦で功績を上げて『英雄』と呼ばれていること(その部分だけ文字が小さくなっていたのがとても可愛らしかった)。
部下たちと少しずつ世間話をできるようになって喜んでいること。
この手紙を書くことが楽しみになっていて、同期から恋人と文通か? などと揶揄われて少し恥ずかしかったこと。
不器用だけど努力家なところとか、優しいところ。実は諦めが悪いこと。食に興味がなく、生活能力が殆どないこと。
……どうやらこの手紙は別の世界から来ているということ。
初めて来た手紙はなんとなくの憂さ晴らしのようなものだったらしい。ひと通り書いて気持ちがスッキリしたので、そのままテーブルの引き出しに仕舞っておいたのだと。それが何の原理か、わたしの勉強机の上に置かれていた、というワケだ何それ全然分かんない。
大学一年生の時から始まったこの文通は、就職活動真っ只中の今まで続いている。暇潰しで始まったこの習慣が、今では息抜きとして欠かせないものの一つとなっていた。
今日も面接を終えてスーツを脱ぎ、机に置かれている手紙を手に取る。
慣れないヒールと満員電車。過度な緊張のせいで、早く横になりたいと訴える疲労困憊の身体に鞭打って、椅子に腰を落ち着けた。
『凪沙へ』
いつからか取れた敬称に懐かしく思いながら、文字を追いかける。
『先日、父上から見合いを勧められた。もうそろそろ家庭を作るべきだと』
「25歳で!?」
目を剥いた。
25歳なんてまだまだ社会に出たばかりのひよっこで、なんなら独身の方が多いくらいなのに。
「凄いな異世界」
そう思うと同時に、胸の奥に軋むような痛みが走った。いつからか、わたしは彼に好意を寄せるようになっていた。顔も知らない、生きてる世界が物理的に違う彼に。報われるはずのない恋だと理解している。けれど、この痛みだけはどうしようもない。
深呼吸して、また文字を追いかける。途中で読まないという選択肢は存在しない。彼が書いたその文字ですら、わたしには愛おしく思えてしまうのだから。
『けれど、断った。父上の言うことは正しいと分かっている、理解しているけれども』
『どうしても、凪沙。君の存在が頭に浮かんでくる。』
「えっ」
『本当は今すぐ貴女を迎えに行きたい。会いたい。だが、別の世界に生きる貴女を無理矢理攫うようなことはできない。けれど、もし、もしも。貴女がそちらの世界に絶望するようなことがあったなら。
迎えに行く』
そう締め括られた手紙がクシャッと悲鳴をあげる。
「どうせなら、どうせならっ」
「今迎えに来なさいよばかぁあ」
わんわん泣いて、泣いて、泣き尽くして。またペンを取った。返事を書いた。何枚も。何枚も。何枚も。
けれど返事は来なかった。




