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回想  ~十二年前、二人が兄弟になった日~


「父上、なんなんです?そいつは」


当時の俺は父上の後ろに隠れている男の子に指を差して言った。


「そいつとはないだろう。この子は今日から私の息子になり、そして今日からお前の弟になるんだからなぁ」


父上はそう言うとその男の子を俺の前まで引っ張りだした。その男の子の顔は赤くなっていて、照れているようだった。……いや、そんなことはどうでもいい。


「いやです」


きっぱりと断った。


「なんでだ?家族が増えることはいいことだろう?」


「弟がいるということは私にそいつのめんどうをみてろ。ということですよね?……俺はそんな面倒なことはいやです。俺は自分自身のことで精一杯です。第一そいつはどうしたんですか?」


「ああ、この子はな、道端で座り込んでいたんだ。話を聞いてみるとこの子には父親と母親が盗賊によって殺されてしまったらしく、今は一人ぼっちだったんだ。それで──」


「つまり、可哀相に思いうちの子にしようと。……たしかに同情をしますが、俺は反対です」


「なぜそんなに頑なに反対する」


そんなの決まっていた。自分がよく分かっていたことだった。


「俺には力がありません。守りたい人を守りきれる力が自分にはないと思うんです。俺はまだこんなに若い。未熟です。ついこないだ、初めて剣を持ちました。あんなに重い物を持ったのは生まれて初めてでした。今でもちゃんと持ち上げることができません。……そんな俺がこの子を守れるはずがありません」


そうだ。俺には力がない。誰かを守れる事なんてできやしない。だから──


「そんなことはないさ」


父上はそう言った。


「たしかにお前は今はまだ未熟だが、そんなこと当たり前だ。俺だってそうだった──けどな、お前は俺が小さい頃とは違うものを持っている。なんだか分かるか?」


分からない。


「それはな、「思い」だ」


「思い?」


「ああ、そうだ。俺はただがむしゃらに強くなりたいって思っていた。何かを守ろうとは思わずに一心不乱にただ剣を振っていた。ただ強さを求めていたんだ。……けどな、お前は違う。お前は何かを守ろうとするために強くなりたい、そう思っている。今は力がないのは当たり前だ、まだ稽古を始めたばかりだしな。だが今のお前はちゃんとした理由がある。その思いをこの子のために向けてくれないか?」


俺はその父上の言葉を聞いて、そのすぐあとに目の前の男の子を見る。男の子は恥ずかしいのか下を向きながら俯いていた。









俺はその子の肩を叩いて聞いた。


「──お前、名前は?」


男の子は恥ずかしそうに答えた。


「…ウ、ウィリアム……シンヘルツ……です…」


「そうか、ウィリアムって言うのか。俺はグレン・ハーゲン。よろしくな」


そう言って俺はウィリアムに向かって手を差し出した。


ウィリアムは顔を上げて俺の顔をまじまじと見た。顔はまだ赤い。ウィリアムは俺が差し出した手に視線を送らずにこう言った。


「あ、あの、ぼ、…僕が、この家の者になっても……いいんですか?」


途切れ途切れに言った。


「ああ、大丈夫だ。というか俺にそんなことを決める資格はないし、父上が決めたことなら俺は賛成だ。俺が反対してもいい理由なんてもうとっくにないから大丈夫だ。安心しろ」


「で、では、、……さん、って呼んでもいいですか?」


小さい声で言ったためなんて言ったのか全く聞き取れなかった。


「ん、なんて?」


「あ、い、いえ、なんでもありません。お気になさらずに……」


そう言うとウィリアムはまた俯く。







さん?……ああ、そういうことか……。







「俺のことは好きなように呼んでもいい、安心しろ」


その言葉を聞いてウィリアムは顔を上げる。


「ほ、本当ですか!?で、では、に、兄さん、と呼んでもいいんですか!?」





それだけのことでテンションが上がるものなのか……?





「あ、ああ、いいぞ。──そのかわりと言ってはなんだが一つ条件がある」


「?」


「俺がお前を呼ぶときには「ウィル」でいいよな?」


「……」


「ん?なんか駄目な理由でもあった……のか?」


目を閉じて体をわなわなと奮わせるウィリアム。





……なんか迂闊なことでも言ってしまった……のか?





「さぃっこうにいいです!!その名、気に入りました!!是非それで、ウィルと呼んでください!兄さん!!」


目を輝かせながら言うウィル。




すげーテンションだな……。ついさっきまで俯いていた姿はどこにいったんだ?




「あ、……ああ、分かった。そう呼ばせてもらうよ。じゃあ、今日からよろしくな!ウィル」


「はい!兄さん!!」










──これがウィルとの初めての出会いの日であり、兄になった日でもあった。


今から十二年も前のことなのにここまではっきりと覚えているのが不思議だった。でもここまではっきりと覚えていることに俺は素直に嬉しいって思える。




けどこの四年後、ウィルは居なくなってしまった。何にも告げずに。





俺は生まれて初めて守りたかったものを守れなかったことがものすごく悔しくかった。この後、俺は必死に剣の修行に打ち込んだ。もう守りたいものを守れないなんていやだったから。



気がついたら将軍にまでのぼりつめちまったけど、そんなこと対して興味はなかった。ただ強くなりたかっただけだったけど、結局はまた守れなかった。自分が未熟なせいで、たくさんの部下とたくさんの国民、それに陛下を──死なせてしまった……。


だから、だからこそ、俺は今度こそ守る、守ってみせる。たとえ敵の軍服を着ても、これ以上の屈辱でも、俺は耐えてみせる。守りたいものを今度こそ守るために。






ウィル……。お前はきっと今どこかにいるんだよな。どこかで生きているんだよな。俺は信じている。お前がどこかで生きているって、今もそう信じている。




俺はまだ死ねない。ウィルに再会するまで死ねない。グリアに復讐するまで死ねない。生きれるなら、何でもしてやる。罪のない人を殺しても、この二つのために死ぬわけにはいかない。



長く黒い髪をした男……か。こいつはオスティアにとっての強い味方なはずだ……けど俺はその男を殺さなくてはいけない。たとえオスティアの強い味方になろうとも俺は絶対に殺す……その男を。






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