第八章 アラスク山
グリア城内──。
「よくぞ決心してくれたな、グレン」
グリア帝王はグレンと向かい合いながら言った。
「……本当に、私が貴様らの元で働けば、我が民は無事なのだろうな」
グリアの鎧を身につけているグレンはそう言う。
「ああ、勿論だとも。私はそなたの言う通り卑怯卑劣だが、約束事ぐらいは守ってやるさ」
苦笑しながらいうグリア帝王。
「……その言葉、私の頭の隅にでも入れておこうか」
睨みながら言うグレン。
「──まぁ、これでその話は終わりにしておこうではないか、グレン将軍。さて、早速だが仕事の話だ。そなたには、ある場所に行ってもらおうか。」
「ある場所?いったいどこに行けというのだ?」
「アラスク山、という場所をご存じかね?」
「知っている」
「そこで、私にとっての邪魔者がいるらしい。今すぐにそこに向かってもらおうか、グレン将軍」
「その者の特徴は?」
「長く黒い髪をした男、ちょうどそなたと同じ年頃のものだ。我がグリア兵をたった一人で何十人も斬って殺した者だ。そいつを殺してきてほしいのだよ……」
「……いいだろう。行ってきてやる」
そう言ってグレンは背を向け玉座から離れようとしたときに、
「ああ、言い忘れていたことがある。そなたに一人味方をつけよう──」
そう言ってどこからとも無く一人の男が現れた。
その男は顔に仮面をつけていて素顔が全く分からなかった。
「この男は我がグリアが雇っている暗殺者だ。えっと、確か名前は──」
「不要。我に名などない。好きなように呼ぶがいい」
グリア帝王の言葉を遮るって発言した仮面の男。
「……まぁいい。とにかく、この者と行ってきてくれ。先にグリアの兵隊を向かわせたが……意味は無いだろうな」
それを聞いたのか聞かなかったのか分からないが、グレンはその場から背を向け去る。その後ろを仮面の男がついていく。
そして、玉座の間から出て行った二人──。
(──おもしろいことになりそうだ……。さぁ黒刀使い。どのように王女を守るのか、十分に楽しませてもらうぞ……くくくくく)
オストンで十分に買い込んだセフィリアとクロイドは聖国コーデリアへと向かうためにオストンから離れ、アラスク山の山中にいた。
「で、この山の中どれぐらい歩けばいいの?」
セフィリアは言った。彼女の隣には地図を見ながら歩く青年がいた。
「そうだな……、あと……、ふむ。……まぁ頑張れ」
彼は曖昧に答えた。
「いや、答えになっていないと思うんだけど……」
オストンから離れ、かれこれ一時間ほど。彼らはやっとアラスク山の山中に入った。
周りは木々で囲まれてはいるが、ちゃんと道は整備されており人が通れるようにはなっている。がしかし山なので、勿論──
「ねぇ、思ったんだけどさぁ、ここって狼や熊とか出ては……来ないよね……?」
問題はそれだった。山ということは自然の中。そして自然ということは人間ではなく動植物たちの世界。そして、そんな世界ということは──
「ああ、そうだな。ちゃんと出てくるぞ。」
毅然たる態度をとるクロイド。
「な、なんでそれを知っていてこんなところからコーデリアから向かおうとするの!?危険でしょ!!」
「危険?何でだ。俺がいれば何とも無いだろ。それに来たらきたで食料になってくれるから助かる」
「あなたのその自信はどこから湧いて出てくるのよ……って、食べるの!?」
「当たり前だ。──なぁ、セフィリア。お前『いただきます』の意味知っているか?」
突然そんな質問をされたセフィリア。
「いきなり何?『いただきます』の意味って何のこと?」
「つまりだな。何に向かって『いただきます』と言っているのか分かるかと聞いているんだ」
「そんなこと聞かれてもいきなりだからなぁ……んー、分かんない。答えは?」
「答えは簡単だ。命を『いただきます』ということだ。自分が普段食べてきているものには元々、生きていたものたちだ。そのものたちの感謝の気持ちを込めて『いただく』を『いただきます』と丁寧な言葉でいっている」
「へぇ~。それは知らなかった」
関心するセフィリア。
「……意外だなぁ」
「?、何がだ」
「クロイドってそんなこと知っていたんだ。見掛けによらずそんなこと知っていたなんて意外だね」
「……お前の目からは俺がどんな風に映っているのか、知りたいところだな……」
そして、しばらく歩いていた二人は川の流れる場所に辿り着いた。
「──さて、そろそろ疲れただろう。少し休むか」
「ほ、本当!? やったあ!!」
それを聞いたセフィリアは子供のように川ではしゃぎ出した。
「──さて、今は大体この辺りだから──……」
そう言いながら地図を確認する──が何かに気付いた。
「セフィリア。ちょっと来てくれ……」
「どうしたのー?」
クロイドの元に向かうセフィリア。
クロイドは自分の左腕を近付いて来たセフィリアに向かって肩にまわし抱くようにした。
「ちょ、ちょっと!いきなり何すん──「囲まれている」
「!!!、ど、どういうこと?」
「敵は、十──いや、二十──いやもっとか」
辺りを見回しながらクロイドは言う。
「どこにも、人影は見当たらないみたいだけど……」
その状態のまま首だけを動かし辺りをみるが人影は見当たらない。と思っていた瞬間だった。森の中から鎧を装備しすでに剣を持っている兵士達が何人も現れた。
「──グリア軍か」
クロイドはそう言うと何人、何十名かの一人が答える。
「いかにも我らはグリア軍だ。そこにいるオスティア王女を黙って引き渡してもらおうか」
「職務に忠実なことは褒めてやるが、断らせてもらおう」
「──では、貴様を殺してから黙って奪わせてもらおうか!!」
そう言い一人、二人、三人のグリア兵が、クロイドたちに剣を持ち向かってきた。
クロイドは空いている右手で左側の腰に帯刀してあった「黒刀」を抜刀する。その勢いを利用、一人目のグリア兵の腹部を斬る。次に向かってきた相手には「黒刀」を振り上げ、そのまま勢いよく振り下ろし、三人目には振り下ろした「黒刀」を相手の右わき腹に向かって貫く──!
「ひ、ひるまな!!続け、続くんだ!!」
どうやら、さっき代表して喋った男がリーダーのようだった。その男に言われるがまま次々にグリア兵はクロイドたちの元へと向かってくる──。
その様子をしかと見ていたクロイドは、セフィリアだけに聞こえるように言った。
「しっかり、掴まっとけよ」「え──」
セフィリアが反応し終わる前に彼は「黒刀」を持った右手で彼女の両膝の部分にまわし、自分の胸の辺りで抱えグリア兵がいるほうの反対のほうへと走った。
「逃がすな!追え!!」
「ちょ、ちょっと!いきなり何すんのよ!!」
抱えられたまま暴れるセフィリア。
「暴れるな、落とすぞ」
そう言いながらも彼は森の中を走る──。
後ろにはグリア兵が後からついてくる。
「しつこい奴らだな」
「……」
必死に走り逃げているクロイドの顔を黙って見ているセフィリア。……まぁこの状態なら何もできないが……。彼女はこの状況で何かを思い出しそうだった。
(この顔、クロイドの顔……、どこかで見たことがある、…気がする……)
そう思いながらセフィリアはクロイドの顔を見る。
その視線に気付くことなく彼は無我夢中で走る。
「ねぇ」
「──なんだ?」
「なんで逃げているの? さっき見たあなたの実力なら全員倒せるでしょ」
「…俺一人なら簡単にできる。だがな、お前、セフィリアがいるなら話は別だ。お前を傷付けるわけにはいかないからな……」
そう言いながらも彼は足を止めない。
「──つまり、私は『お荷物』ってことだよね?」
「ん?なんだ。お前にしては随分察しがいいな。自覚していたのか?それは今後大いに助かることだ」
「肯定しないで否定をしなさいよ!!人の心をよく想ってからものを言いなさいよ!!言われてみると結構傷つくのよ!!」
「だから、暴れるな。本当に落とすぞ」
クロイドの目はマジだった。
「いやぁあああ!分かったからやめて!!」
そんな会話をセフィリアとしながらでも、彼は目の前から現れる木の枝を避けている。
後ろには未だにグリア兵が追ってきている。
「……本当にしつこい奴らだな。仕方が無い、セフィリア、もっと強くしがみついてろよ」
「へっ?──何す」
またもやセフィリアが反応し終わる前に彼は行動を先に起こした。今度は高く跳び、木の枝に足をつける。
そのまま、次々と他の木の枝に跳び移りながら進んでいく──。
「ちょ、ちょっとおお!!高い、高すぎるってええええぇぇぇぇ!!」
「……うるさいから落と──「本当にごめんって!やめてください!!」
クロイドはまたもやセフィリアを落とそうとしたが、寸前のところでセフィリアが謝って事無きを得た。
「で、ここは大丈夫、……なのよね……」
セフィリアは途切れ途切れに言う。
「ああ、大丈夫だ。ここはあのグリア兵には見つからん。絶対にな」
対するクロイドは自信満々で言う。
「確かにそうだと思うけどさ、ここ、ぜぇぇぇぇぇえったいに危ないって!!」
そう彼女は心のそこから心配に言う。
彼らの目の前に洞穴があった。岩盤を刳り貫いた洞窟は確かに安全そうなのだが……。
「熊とか熊とか熊とか絶対、熊とかいるって!!」
まさに熊がいそうな雰囲気をこの洞穴は出していた。
「安心しろ、絶対何もいない。俺は少しの間、奴らと遊んでくるからここで待っていろ」
「あんたの何を信じればいいのよ!!──って待ってぇ!行かないで!!」
そういう頃にはクロイドはすでに彼女の視界からは消えていた。
「……本当に何もいない……よね?」
目の前の洞穴を見ながら言うセフィリア。
彼女は怯えながらも洞穴に入っていった──。




