お前は☓☓じゃない
「母さん!」
案茂は蔦のバリアの中にいるゼンに向かって呼び掛けた。案茂の声を聞いたゼンが蔦の隙間から顔を覗かせる。その表情からは自分の息子に声を掛けられたことに対する歓喜の様子が窺えた。
「無人!ようやく私の元へと戻ってくれるのね?!」
「…いいや。どうしても確認しておきたいんだ。何故生きていたのか。そして今までどうして黙っていたんだ?」
案茂の顔が真剣味を帯びる。案茂の様子を見たシーラは慌てて『仲間』たちに攻撃を中止するよう命令した。蔦のバリアを目前に『仲間』たちは動きを止める。ザイはバリアの中でゼンに寄り添いつつ、周囲の警戒を続けていた。そしてゼンは柔和な表情を浮かべると案茂へ手を差し伸べて頬を撫でた。
「言ったはずよ。そんなことはこの際どっちでもいいの。全ては貴方を仁沢賀瀬家の当主にするため。ずっとその為に今の今まで動いてきたのよ。そしてようやくその思いが叶うわ」
「…なあ母さん。母さんは旗目岩九人衆の筆頭とかいってたよな?じゃあ何故仁沢賀瀬家の敵とかいってた癖に俺を敵側の当主にしたがるんだ?」
案茂の至極真っ当な疑問に対してゼンは一笑に付した。どうもゼンにとっては愚問のようである。その様子に案茂の眉間にシワが寄った。
「いったでしょう?貴方が仁沢賀瀬家の当主になればあの『秘宝』が手に入る。『秘宝』を我が物にすることこそ旗目岩九人衆の宿願よ」
「…何故だ?母さんは仁沢賀瀬家の人間じゃないだろう?仁沢賀瀬家の人間以外があの『秘宝』を手にしたところで意味がないと尚児さんが言ってたはずだ。ならどうして…」
「…無人。貴方が鍵よ」
「え???」
ゼンは案茂の頬に伸ばした両手で案茂の頭を掴むと強引に自分の元へと引き寄せた。凄まじい力に案茂はバランスを崩してよろけそうになる。ゼンに目を合わせると、優しい母親の顔はどこへやら欲にまみれた中年女性の邪悪な表情へと変貌していた。案茂の背筋が凍る。
「当主の血縁者こそが『秘宝』を扱うことができる資格を有する。すなわち貴方が当主になれば私は貴方の血縁者。つまり『秘宝』を扱う資格を有するというわけ」
「…じゃ、じゃあ…まさか、まさかとは言いたくないけど…母さんが俺を産んだのは…いやそれよりも前に父さんと知り合ったのは………最初からこの『秘宝』を手に入れる為の行動だった、というのか!!?」
案茂は信じがたい仮説を立てたが、無情にもゼンは仮説を認めるように頷いた。とんでもない事実に案茂は頭を抱えて倒れそうになった。が、ゼンはそうさせまいと案茂をしっかりと掴んでいる。母親の知りたくなかった裏の顔に案茂は涙が出そうになった。
ああ、やはり俺の母親は既にこの世にいなかったのだ。今目の前にいるのは母親の名を騙る別人なんだ。案茂は心の中で呟く。
「アンモナイトを放せ!!」
案茂の背後からシーラがゼンへ銃口を向ける。しかし、ゼンは動じることなくザイへ視線を送った。ザイが再び呪文を唱えると屋敷の中からザイに操られた黒服たちが一斉に玄関口へと押し寄せてきた。
「ご苦労さま、ザイ」
「ゼン、大金庫へお急ぎください。此処は私めが足止めいたします」
ゼンが無理やり案茂を蔦のバリアの中へと引き寄せようとすると案茂はゼンの両腕を掴んだ。ゼンが驚いていると案茂は両手に力を入れ、ゼンの手を握りつぶそうとする。
「い、痛い!!無人、何をするの!?」
「…お前は母さんじゃない。母さんはやはり数年前に死んだ!」
「馬鹿おっしゃい!親不孝者!実の母親を見間違える人がいますか!」
「そんな小芝居で騙されると思うなよ!!旗目岩九人衆!」
「くっ…教育が間違っていたようね。少しお仕置きしないと駄目かしら?」
案茂は怯んだゼンの腹に蹴りを入れた。咄嗟のことに反応できなかったゼンが後方へと吹き飛ぶ。その隙に案茂はシーラに向けて攻撃の合図を送ろうとした。と、そこへ屋敷の奥から聞き覚えのある男の声が響いてきた。
「貴様ら、仁沢賀瀬家の当主である私を差し置いて勝手に話を進めるな!!これが目に入らぬかーーー!!!」
その場にいる全員が視線を送った先にいたのは、黄金色に輝く宝玉を右手に掲げた尚児だった。息を切らせながらもニヤリと笑っている。尚児を見たゼンとザイ、案茂とシーラはそれぞれに顔を見合わせた。そしてある結論に至る。
「よし、ソイツをよこせ。さもなくば奪うのみ」
「さあナオジ!ソイツをよこせ!」
「尚児さん!早くこっちへ!」
「遠慮はいりません。思いっきりやっちゃいなさい」
「なっ…!?く、来るな…こっちに来るな!俺のそばに近寄るなーーー!!!」
その場にいる全員が尚児に向かって突撃していく。この状況が想定外だったのか尚児は慌てふためいて庭へと逃げようとする。が、そこで思いがけない人物に再会した。
「…!?尚葉…か?」
尚児の行き先にいたのは那夜朗とT・レックスとの戦いから避難してきた尚葉と尚子だった。尚葉は意識こそ戻ったものの未だ震えが収まらない様子である。尚児に気づいた尚葉が急いで尚児に駆け寄った。普段の尚葉からは想像つかないくらいの取り乱しっぷりに尚児は思わず引いてしまう。
「な、何でお前が此処にいるんだ?邪魔だから早くどけ!奴らに追いつかれる!」
「…な、尚児兄さん…大変よ…大変なことになったのよ。亡霊よ、亡霊が帰ってきたのよ…」
尚葉は弱々しい声で慌てている尚児にすがりついた。




