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Side:Schwärze②

◇ルーリ

どうしてよりによって、この馬鹿達と一緒に召喚されてしまったのか。先ほど粉々にした軍服の上官をまたもや塵同然の何かに変えた後。目に映るすべてのものを粉砕しながら進んでいくシャルロッテを眺め、ルーリは己の不運を呪って溜息を吐いた。これで何度目だろうか。


更に悪いことに、シャルロッテを止めるべき立場であるヴィリアでさえ、彼女を制止することなく唇の端を吊り上げ笑っている。不快でしょうがない。彼女がこの種の笑みを浮かべているときは、自分の中で思考を完結させているときだ。大抵ルーリにとってろくなことではない。

先程聞かされた不快な事実が頭をよぎり、ルーリは再び嘆息した。


まず、一つ目。召喚されたルーリたちが今すぐ元の世界に戻る方法は存在しない。帰還するためのゲートは存在していたが、動力が枯渇しており、使い物にならなかった。動かすためには自分たちの手でエネルギーを――すなわち、二柱以上の悪魔の魂を――集めなければならない。

次に。この世界には、ルーリたち以外にも悪魔が召喚されているらしい。これだけなら朗報だ。わざわざヴィリアとシャルロッテと戦うという危険を冒さなくても、動力が手に入るのだから――二人のことが大切だ、なんていう殊勝な理由ではない。殺せと言われればためらいなく殺すだろう。だが二人の魔法は強力で、魔力保有量も並みの悪魔と比べて膨大で。戦うには骨がいれる。なるべくなら避けたい――だが、召喚された他の悪魔の顔ぶれが問題だった。


薄紅、青藍、黄金、赤銅、萌黄、深紅、白藍、漆黒、白銀。いずれも一度は名前を聞いたことがある悪魔たちだ。特に厄介なのは青藍、萌黄、白藍、白銀あたりか。彼女たちとは同じ場で学んでいるが、強力な魔法と膨大な魔力を持っているらしい。ヴィリア、シャルロッテ、ルーリの三人が元の世界に戻るためには、他の悪魔を六柱殺さなければならない。最善はルーリたち以外の悪魔が殺し合い、最後に残ったものから魂を奪うことなのだが……そう上手くはいくまい。きっとルーリ以外の悪魔も同じように考えている。

いざとなれば多少の危険を承知にヴィリアとシャルロッテを利用してでも自分だけは元の世界に戻るつもりではいるが。紫苑の悪魔はいつだって利己的で、他人を切り捨てて生きてきた。だからこれからもそうやって生きていく。



そんな他愛もないことを考えながら歩いていると。不意に、前方で炎が上がった。一気に現実に引き戻される。遠くで人間の悲鳴が重なって響いている。突風。風で炎が広がっていく。どうやらこの炎は事故ではなく、ヴィリアかシャルロッテが意図的に起こしたものらしい。

絶えず聞こえてきた断末魔はすぐに鳴りやんだ。生物の焼け焦げる嫌なにおいが鼻腔をつく。この空間から今すぐに出られないことが不快で仕方ないが、前を進む馬鹿と共にこの施設を破壊する気にもなれない。結局どうしようもない。


視界に映る一面の紅のせいかいらだたしいことが思い出され、ルーリは大きく溜息を吐いた。

深紅の悪魔、ハピリ。彼女もまた、この地に呼び出されているらしい。その事実を知ったときは顔をしかめざるを得なかった。彼女とは建前上学友、ということになっている――殺し合いの絶えない世界での“学友”なんて馬鹿らしいと思う――が、ルーリはハピリを嫌っていた。ことあるごとに彼女はルーリに突っかかってくる。

家の派閥同士の中が悪い、というのも当然理由としてあるだろう。だが、それならルーリだけに絡んでくる理由が分からない。喧嘩相手が欲しいのならシャルロッテでもよいのではないのか。同じ馬鹿同士相性も良いだろうに。

ルーリとハピリは相性が悪い。交戦的で真っ直ぐで、自分の芯を曲げることのないハピリを見ていると、否応なく昔のことが思い出される。そのせいか、ハピリの前では上手く、自分を取り繕うことが出来ない。虚勢を張って浮かべた空っぽの笑顔の奥が、見透かされているような気がする。嘘で塗り固められたルーリが断罪されているように感じる。ルーリが、ルーリでいられなくなる。

もちろんこんな感覚だって、ルーリの気のせいなのだろうが。何にせよ、顔を合わせたくない相手であることは確かだ。



「ルーリ!」

――うるさい声に思考が途切れる。顔を上げると、研究所らしかった建物はすっかり更地と化しており、人の気配は一切なかった。あるのはただ、何かが焼け焦げた跡と炭化しきった生物の死骸だけ。

「ヴィリが他の悪魔を探すって言ってる!」

それだけ告げてシャルロッテはすぐさま向こうへと駆け出した。他の悪魔を探すって言ってる――つまり、ルーリもヴィリアと共に一緒に来いということだろう。ヴィリアがこちらを振り返る気配はない。ルーリがついてくるのは当然のことだと思っている。自分の意向を伝えることすら他人に任せている。


彼女はいつもそうだ。傲慢で自分勝手で、自分のすることがすべて正しく、邪魔をする者に生きる価値はないと本気で思っている。無駄に高い知能と魔力保有量――使役系統の魔法を使うヴィリアだが、それ以外の魔法の扱いにも長けている。他の悪魔の存在と名前が把握出来たのも、彼女がいたからだ――のせいでその傲慢さが許されているのでなおさら腹立たしい。強者であるが故にすべての他人を見下している、冷酷なエゴイスト――それがルーリの知っている深碧の悪魔、ヴィリアだ。

シャルロッテに言付けられた命令に従うのは癪だったが、他に手の打ちようがない。ヴィリアもシャルロッテもまだ利用出来る。ならばいっしょに行動するのが最善か。

幾度目か分からない溜息を吐き、重い足取りの中ルーリは歩き始めた。

ヴィリア達の向かう方からは、濃く暗い魔力が流れてきていた。

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