いつまでも
「美幸も帰って来てるからあきらめたかと思ったわ」
「あきらめたらそこで試合は終わりだよ」
あきらめろよ。
今の海人。何が何でも風呂場に突入しそうなくらいにがっついてる。
何がそこまでコイツを掻き立てている。
「アルバイト中だと抜け出せないから知り合ってもなんにも出来ないし…」」
そこは平日に誘えよ。電話して予定聞いたりしながら距離を縮めるもんだろ。出会ってすぐにナニナニしようなんて無理だろ。
あそこは、隠れられる岩場もないんだし。
「そのストレスを此方で発散しようとしない」
「ちぇ」
その手には不安定にもたれた麦茶入りのコップ。
豆腐屋のドリンクホルダーの紙コップの中の水位にギリギリを維持している。
水濡れ装備当分不可欠。
「次に変な事したら出入り禁止だからな」
「…わかったよ」
恨めしそうに海人がグビグビとヌルくなった麦茶を飲み干していく。
一番身近な海人から身を守るためにオレの制限増えていってるのはなんでだ。
「…つらたん。ボクを心配してくれるおにゃのこがほしい」
パタリとテーブルにその身を横たえた。
-ボクて。
「欲求不満もほどほどにな?」
「おっぱい揉みたい」
「………………」
「…言ってみただけ」
「そか」
時間を追うごとに性欲にアグレッシブになっていくのかよ。
「奏…」
「美幸が居るからマジ勘弁な」
いなくても勘弁願いたい。
とにかく、その日の海人は、何だかんだグダグダしたまま帰って行った。
▼
翌。日曜日。
「おっはよー」
何事もなかったかのように爽やかな挨拶と共に参上。
朝7時半だが父母共に寝ている。なんやかんや両親がでてこれないのは、深夜営業の店の経営者だからでネグレストや放任主義ではない。
日の出で戻り夕方前に仕事に出るくらいで、それ以外は真っ当な飲食店と豪語しているが、仕事終わりのキャバ嬢やホストが立ち寄るらしいな。
そんなおかげで、兄妹揃って未だに店には近づけてくれませんな。
時間が時間だから仕方ないか。
それはともかく、何時もより短めの短パンに、虫かごと網が脇に置いてある。
「今日はなに」
「セミ取りいかないか?」
いや、分かり易い格好だけどさ。
虫取りするなら長ズボンに長袖シャツだし、マムシ対策に長靴で、後は帽子と厚手の手袋かな。
逆に無防備なら、ピチピチの短パンと肌シャツくらいまで攻めないと認めない。
「何もかも中途半端なので却下ふぁ~」
欠伸をしながらドアを閉める。
『…開けて』
なんか寂しそうな声が聞こえたが、いい感じに暴走してるな。
やりたかった事をみんなやると言っていたが、子供の時の事まで含まれていたと言うことなんだろう。
「虫取りをこの年になって?」
正しくはセミ取りなんだが、麦藁帽子に白いシャツなぁ?
ドンドンとドアを叩く音と『かなでっ!?』と呼ぶ声。
洗面所に入り、ジャージを脱いで、ハーパンに履き替える。
『かなでっ!!』
いや、朝から仕込みしてきたみたいだけど、オレまだ眠いんだから気を使えよ。
「はいはい、着替えたから待ってろって」
着替え一つ出さえ締め出ししてからにしないと、何考えるかわからないと昨夜のうちにの結論だしといたから。
やるなら徹底的に。
学校始まれば体育前に同じ教室で体操着に着替えるだろうからあまり意味はないんだが、別に着替えてから家に入れるくらい普通にあると思うしな。
シャコシャコと歯を磨きながら玄関を開く。
「…ごめん。俺が間違ってた」
すっかりへこたれた様子の海人が正座していた。
「ほにょほにょに(ほどほどに)」
ブラシを加えたままオレはそれに応えてやる。
いい加減正気に戻ってくれないかな?
あけましておめでとうございます




