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月夜に提灯、一花咲かせ  作者: 樫吾春樹
山査子編
9/12

玖輪目 雪桜

 慌ただしく時間が過ぎ、気づけばもうの暮れ。仕事は更に忙しさを増し、休みなど滅多に無いという状況である。立て続けにマンションの新築工事が入り、年が開ける前にガラスを入れて欲しいと言われたそうだ。

「まこちゃん、起きてるー?」

「んー……」

 疲れてるせいもあり移動中に寝ることも増えてきて、起きるのにも時間がかかるようになってしまっていた。

「大丈夫?」

「だいじょうぶれふ……」

「まだ、寝ぼけてるね…… ほら、起きろー そろそろ現場だぞー」

「ふあーい……」

 肩を揺すられ、やっと僕は目を覚ました。いつもより寝ぼけてた時間が長いと感じ、自分でも疲れていることがわかった。

「……おはようございます」

「おはよ、やっと起きたね」

「すいません……」

「疲れてるのはわかるけど、シャキッとね」

「はい……」

「さてと、着いたから準備するよ」

「はい」

 先輩にそう言われながら、車から降りて荷物を下ろして持つ。立ち馬に脚立、自分達の道具を車から出す。今日は二、三枚しかないので、仕事という量ではない。だが、誰かがやらなければ完了しない。

「今日はビートだから、ローラーと鋏ね」

「はい、わかりました」

 現場に向かって歩いてる途中で、先輩とそんな会話をする。ごく普通のいつもの会話。だけど、今日は少しだけ胸騒ぎがする。こういう時は、嫌なことに勘が当たることが多い。何事もなければと思うが。だが、ジンクスからはそう簡単には逃げられなかった。


パリーン!


 耳を裂く音がして、ガラスが割れたことを知らせる。それは搬入中の出来事で、重さが軽くなったのに気付いて僕が慌てて後ろを振り向くと、階段で先輩の倒れた姿が目に飛び込んできた。

「大丈夫ですか!?」

「……大丈夫、怪我はしてないよ。割れたけども……」

「怪我してないならよかったです…… ガラスはまた作ればいいっていつも言ってるじゃないですか……」

 内心パニックになり思考が停止してたが、裕人先輩の無事な姿を見て安心した。そのまま、怪我でもして病院に行かなければならないということになったら、僕はどうしようかと思った。流石に他の女子よりも力があると言われるが、男性を運ぶのは僕とて無理がある。そんなことに、ならなくてよかったと思う。

 確かにガラスは商品であり、割ってはいけないもの。だが、運んだり施工するのは人間であり機械ではない。だから、どうしてもこういったことは起こる。そう、先輩はいつも言っている。「何があっても、自分の身を優先しろ」と。

「まこちゃん。車から箒とちりとりを持ってきて、ここを掃除しといて。俺は工場に頼んで、至急作ってもらうから」

「わかりました、持ってきます」

 車の鍵を借り、箒とちりとりを取りに戻る。

「やっぱり、当たっちゃったか……」

 ポツリとそう呟いて、言われたものを片手に先輩の元へと戻った。

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