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月夜に提灯、一花咲かせ  作者: 樫吾春樹
山査子編
10/12

拾輪目 福寿草

 慌ただしい年末が過ぎ、気づけばもう大晦日である。流石に今日は仕事もお休みで、実家に帰ってのんびりしている。だけど、実家にいても頭の片隅にあるのは裕人さんの顔。毎日会ってはいるけどそれは先輩としてであるから、彼氏として会うことがここ最近は少ない。仕事が山のようにあったから、どうしてもそういう時間が取れなかったのは仕方ないが。

「会いたい」

 先輩宛のラインに書き込むものの、送る前に消してしまう。きっと、迷惑かけてしまう。そう思うと、どうしても送れなかった。

「寂しいな……」

 ポツリとそう呟いて、ラインを閉じる。彼はどう思ってるのか。同じように思ってるのか、違うのか。そんなことを考えながら、僕は小説を書く仕事に戻った。

 カタカタカタとキーボードを叩く音が響く、部屋の中。耳にはヘッドフォンをして、いつものように作業曲を聞きながら進めている。少しでも進めないと、新年早々締め切りに追われることになる。

「ねーちゃん、年越しパーティーに行く?」

 母さんが部屋に来て、僕にそう問いかける。

「ん。行く」

 短くそう答え、身支度を始める。いつもは作業着しか着てない僕だが、たまには女子らしい服装をしようかとか考える。キャラメル色のロングスカートに、ネイビー色のセーター。それに白い上着を羽織り、首には裕人さんにもらったネックレスをする。伸びてきた髪の毛は、ハーフアップにしてシュシュでまとめる。

「こんなものでいいかな?」

 姿見の前でくるりと回り、自分の姿を確認する。

「琴姉ー、行くよー」

「はーい」

 弟に呼ばれ、階段を降りていく。

「あら、可愛らしい」

「いつもとは違う感じでいいんじゃないか」

 親二人にそう言われ、ありがとうと笑顔で返す。全員揃い、車でパーティーが開催される人の所へと向かう。父さんの友達が主催ででやるため、僕の知り合いが多く来るだろう。

 最近の日本人の家では、あまりこういうことをやらないと聞いたことがある。僕の家は、そもそもが日本人ではなくブラジル人の為、お祝い事の日はパーティーをやることが多い。誕生日はもちろん、クリスマスにお正月。その他に、お祝いじゃなくてもバーベキューとかをすることがある。凄く今更だが。

「着いたー」

 着くと既に何人か来ていて、準備を始めていた。僕達もそれにならって、準備を手伝う。夕方から始めて、日付が変わっても毎年賑わっているこのパーティー。家の中では女性陣が、それぞれが作った料理を持ち寄って机の上に並べていく。そして外では男性陣が、肉を切ったり味付けをしたりして、焼いていく準備をする。

「今年も一年お疲れさまでした! それじゃあ、乾杯!」

 主催者の声に合わせ、皆がグラスを合わせる音が響く。

「真琴ちゃんもお疲れさま。ガラス工事に携わってるんだって?」

「はい、そうですよ」

「若いのに大変だね…… 体に気を付けるんだよ」

「ありがとうございます」

 そのあとも代わる代わるに、人が来ては話しかけられた。知り合いじゃなかったら今すぐに逃げ出してるところだが、そういうわけにはいかない。だが、どうしても人が多いところはまだ苦手なままだ。

「ふう……」

 人との会話の波も一段落して、僕は椅子に腰かける。だが、突然首筋に冷たい感覚がして驚く。

「お疲れ」

「もー…… ビックリさせないでよね」

「悪いな」

 そう言って彼は、缶チューハイを差し出してきた。

 彼は松井絋(まついひろ)。僕の一つ下で、幼馴染だ。僕とは対照的に、明るく時には先程のようにいたずらなどもしてくる人である。

「絋も来てたんだね」

「そっちこそ。忙しいのに来てたんだな」

「まあね。今日から数日間は、会社もお休みだし。」

「そうなんだな。ともあれ、今日は楽しんでいけば?」

「そうする」

 貰ったチューハイに口をつけながら、彼と会話をする。職人のこととか、小説のこと。会えてなかった、時間のことを話していく。

「そうか、たくさんあったんだな」

「まだまだ、僕は頑張らなきゃだよ。早く一人前にならなきゃ」

「そう思うのはいいけど、焦りすぎるなよ? 焦ってもいいことないし」

「わかってるよ」

「ならいけどな」

 お酒も入ってるせいで、会話が弾む。

「なあ、まこ」

「んー?」

「今日のお前、凄く可愛いな」

「いきなりどうしたの、絋」

「いや、何でもない」

「えー、気になるんですけどー」

「うるさい。ほら、もう年が明けるぞ」

 会話を逸らされスマホを見ると、日付が変わるまであと数分だった。僕はチューハイを飲み干し、母さんの近くへと行く。そして、日付が変わった。

「明けましておめでとう!」

 クラッカー音とともに、そんな声が聞こえた。各々が挨拶をしながら、順番に回っていく。僕もその中に混じって、みんなに挨拶をしていく。絋に挨拶するとき、耳打ちで彼に「さっきのこと、あとで教える」と言われた。

 挨拶回りが終わり、僕は絋に声をかける。

「絋、教えてくれるんでしょ?」

「ああ。ここじゃ何だから、ちょっとこっち来い」

 言われるがままについて行き、人気(ひとけ)が無いところに来た。

「それで、何なの?」

「お前はもう少し、警戒と化しろよな? 相手が男だってのを忘れるなよ……」

「だって、絋だし」

「まったく…… お前は」

 そして、壁に追いやられ逃げられなくなった。

「ひ、ろ?」

「この天然は、どうにかして自覚させなきゃな?」

 顎を持ち上げられ、視線がぶつかる。僕より背の高い絋が、少しニヤリとして真っ直ぐに僕を見ている。

「えっと、あの…… その……」

 逃げようとキョロキョロしてみるが、それは阻止されてしまう。

「だめ、今日は逃がさない」

 低い声が聞こえてきて、そのまま引きもせられる。

「お願い、離して…… 絋も知ってるでしょ? 僕には……」

「知ってるよ」

「なら、何で」

「どうしても、伝えたくてな」

 そして彼の顔が近づいて、口付けをされた。

「なあ、まこ。俺じゃだめか?」

 僕の耳元で、彼がそう囁いた。

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