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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第七章 更に盛り上げて

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互恵



 ザルドゥとエレナ婆とあれこれと話をしたコーデリアさんは、店も中の見学もしたくなったようだ。


 それを受けてザルドゥとエレナ婆と俺は目配せをし……視線で語り合ってから一番大人しい店に向かうことにした。


 繁華街の店と言ってもピンからキリまである、普通に賑やかなだけの店からいかがわしさ満載の店まで……で、これから向かうのは賑やかな店となる。


 その店ならば今でもギリギリ営業時間中だ、まぁ本番は夜なので人も店員も少ないはずだが……。


 そこは看板としてはパブリックハウス、パブを名乗る店だが、酒がメインではない。


 ドアを開けて入り受付を済ませると広い空間があり……空間奥の中央にはステージ、ステージ左右には楽器演奏のためのスペース、ステージから伸びる通路があって、その通路の左右にテーブルと椅子が並んでいる。


 ステージの真逆にはバーカウンターがあり、そこで注文した酒を席まで持っていって、ステージのショーを眺めながら楽しむと、そういう店となっている。


 つまりはそのショーがメインの店で、その内容も歌と踊りといった健全なものとなっている。


 ……が、こちらの世界だとそれは中々先進的な考えとなるらしい、詩人の歌や演劇やオペラのような歌劇ならともかく、ショーとして歌と踊りを人前で披露するというのは健全ではないと見なされて繁華街の仲間入りをしたといった感じだ。


 ……実はこの店のオーナーは俺だったりする、健全かつ楽しく飲める店をと思って提案した店だった訳だが周囲に不健全扱いされ、その割には魅力がないから流行らないとまで言われ、そんな馬鹿なと実際に作ってみたという経緯だ。


 売上はそこそこ、店員やショーに参加しているスタッフに相応の報酬を払っている関係でそこまでの黒字ではないが、流行っていないという程でもなく、悪くない結果となっている。


 そんな俺が入店するとなったらそれなりに騒動となるはずだが、先にフィリップが入店して事情を説明してくれていたので店に入っても特に騒がれることはなく、静かに案内がされて、俺達が席につくと楽器による演奏がゆっくり始まる。


 こちらの楽器は不思議なくらいに前世のものとよく似ている。


 同じ人間が使う以上似るものなのか、俺以外の誰かの仕業なのか……両方の影響なんだろうなぁ。


 ピアノに各種弦楽器、打楽器も少々あるが、昼間ということで今いるのはピアニストだけ……そのピアノからムーディーな音楽が流れ始め、気分が盛り上がってきたら女性が奥からステージへと出てきてくれる。


 その女性はこの店一番の歌姫で昼間に出てくることはないと思うのだが……まぁ、俺達が来たからってことなんだろうなぁ。


 女性は体のラインが出るような真っ赤なロングスカートドレスを身にまとっている。


 その手にはマイクがあり……マイク? もう導入しているのか。


 博士が色々な通信機器を作る過程でマイクやスピーカーも完成させていて、それをもう導入しているようだ。


 ……俺の店ということもあって博士側が気を利かせたのかもしれない、まぁスピーカーがあった方が迫力は出るからなぁ。


 そして歌い始める女性、歌姫とあって力強い歌声で店中に響き渡る。


 元々マイク無しで歌姫をやれていた女性だ、マイクとスピーカーを味方につけたならその歌声は圧倒的なものとなる。


 ピアノがリズミカルな音楽を奏で始めて歌声も弾み、盛り上がりが頂点になると女性が音楽に合わせて楽しげに跳ね始める。


 テンポよく跳ねて少しのヒールのある靴でコツコツと床を叩き、それすらも演奏の一部として仕上げて、元気いっぱいな歌声を響かせる。


 振り回されるマイクのコードすら演出の一つ、その場のノリでやっているように見えるけども、その全てが練り上げられた演出で……コーデリアさんはその光景に夢中になっていた。


 最初はリズムに合わせて拍手をしていたのだけど、それも忘れて手は宙を彷徨っていて、口がポカンと開けられ目は見開かれ……ステージを照らす明かりでキラキラと輝いている。


 これから作る劇場とかに比べれば地味な演出なのだろうけども、目の前で迫力いっぱい、全力で披露されるとそれはそれで完成度の高い演出になるものだ。


 ……貴族視点で言うとあまり良くはない内容で、はしたないと言われてしまうのかもしれないけども、今は俺達しかいないのだから構わないだろう。


 それにコーデリアさんをこれだけ夢中に出来るのならば、多くの人々にも楽しんでもらえるはずで……こういう芸術もありなんだとも思うことが出来る。


「……ま、貴族のするこっちゃないですけどね」


 ソファに深く座り、コーデリアさんのことを眺めていた俺に、いつの間にか後ろに立っていたザルドゥが声をかけてくる。


「それでも貴族殺しがここまで忠義を尽くしてくれるんだ、悪いことではないんだろう?」


 俺がそう返すとザルドゥは小さく笑ってから言葉を続ける。


「ま、旦那は貴族の義務ってモンを果たしてますからねぇ。

 何もかも貧しい平民は食うに精一杯で生きる道を選べやしねぇ、そこを上手く導くのが貴族の義務。

 それがたとえ悪評の立つようなことだって多くを守るためにやらなきゃならねぇ。

 そこら辺を分かっているから旦那の下では大人しくしてるんですよ。

 ……そういう意味では叔父御殿には思う所はありやすがねぇ」


「ああ、叔父上のことならもう俺の手を離れたよ。

 後のことは母上達が上手くやってくれるようだ」


「……母君が?」


「事情を聞くなり、それはもう大層なお怒り様でね……。

 どうあれ俺が当主になった以上は叔父上も俺に従うべき立場だ、王城に務めたからと言ってそれは変わらない。

 その辺りを忘れて何をしているかと一喝して……母上からキツイ罰を受けたくなければ大陸で一仕事してこいとの命令を受けたようだ。

 ……細かい所までは聞いていないが、母上は父上がそろそろ何かやらかすのではないかと懸念していたようでね、父上の見張り役を叔父上に任せるつもりらしい。

 今順調な兄上の邪魔をさせたくないんだろうね」


「ははぁ……それはそれは、ご立派なことで。

 ……その様子だとお父上は噂の通りの?」


「そうらしいが、俺の前では良い父親だったからなぁ……なんとも言えない所だ。

 まぁ、叔父上は俺の手に余る人物だろうし、母上と父上に任せてしまうのも良いと思う。

 これだけの人材を送れば大陸事情も落ち着くはずだしな、悪い結果ではないと思う」


「ご自身の手の者を送り込んだりはしねぇので?

 大陸の事情も聞いておりやすが、快勝続きなんでしょう? そこを一つ噛めば見返りも大きいのでは?」


「行きたいという者がいれば送り出しはするが、父上と兄上が必死に頑張って得た物に手出しをする気はないよ。

 支援も続けるし助けてくれと言われたなら助けるが、一切の見返りを求めるつもりはない。

 ……と、言うか現状既に十分な見返りを得られているしなぁ……。

 父上と兄上が大陸から睨んでいるからこそ、王族なんかの動きが鈍っているんだろうしなぁ」


「……今、この国は腐敗しているようですからなぁ。

 旦那やそのご家族が隆盛するのは誰にとってもありがたいことなんでしょうなぁ。

 しかしそうやって新しい風が起こるとなると、大陸の各国家は良い顔はしねぇんでしょうな」


「……その辺りのことは兄上のセンスが抜群だからなぁ。

 手を出したのは一国のみ、隣国との係争地なんかには手を出さず、隣国が確保しようともあえて見逃し、外交的な貸しを押し付けている。

 そんなことをしたなら当然国民が反発する訳だが、それは税の軽減で対処し……過激派はあえて見逃し一箇所に集まるように誘導して……という感じだな」


「良いですねぇ、やはり貴族にはそのくらいやってもらわねぇと。

 下のモンの安寧はそれにかかってますからねぇ」


 と、そう言ってザルドゥはニカッと笑う。


 ……うーむ、貴族殺しの二つ名はただ戦果を求めた結果だと思っていたが、そうじゃない可能性も出てきたなぁ、これは。


 元々ザルドゥは身分に拘る方ではあった、貴族は貴族、平民は平民ときっちり線を引いての態度を見せていたが……どうやら相当強いこだわりがあるようだ。

 

 自分達は平民に甘んじてやってるんだから貴族は相応の働きをしろよと、そういうことだろうか。


 ……まぁ、そういう考えの人間がいてもおかしくはないのだろうし、そういう人間が下から見上げているというのも悪くはないのだろう。


 しっかりやらなければと身が引き締まる思いがするし、いざ何かやらかした時にはしっかりと意見を言ってくれるに違いなく……それはそれで貴重な人材だろう。


「ああ、ザルドゥに叱られないように俺も踏ん張るとするよ」


 俺がそう言うとザルドゥは笑みを深くして……そして俺の隣に座っていたコーデリアさんからも声が上がる。


「旦那様は十分頑張っていますよ、こんなに素晴らしいお店まで作っていつも皆のことを考えて……誰にも文句なんて言わせません。

 文句言う人がいたらドルイド族が総出で殴ってあげますから」


「……はい」

「……はい」


 言葉もアレだったが声色に込められた力もアレで、俺とザルドゥが同時にそんな声を上げることになる。


 そしてザルドゥは、これ以上ここにいても藪蛇だとでも思ったのかそそくさと立ち去って……改めてステージに視線をやるとショーも終わりを迎えていた。


「……えーっと、今日はピアノだけで歌手も一人でしたが、夜になると楽器が増えたり、歌手が増えたりもします。

 また特定の曜日には客が歌を歌うことの出来る時間を設けたりもしています。

 歌と踊りは単純ながら芸術性があり、誰でも楽しめるものでもありますので、こういう店を増やしていくのも大事かなと考えています。

 母上の希望で作っている劇場も大切ではありますが、あちらとはまた趣の違う楽しみとなりますね。

 ……芸術、娯楽などを発展させて……後は飲食も育てていきたい所ですね、一つの文化として」


 話を変えると言うか、空気を変えると言うか、コーデリアさんの視線が突き刺さったままなので少しの早口でそう言うと、コーデリアさんがきょとんとした表情をして声を返してくる。


「飲食を文化として、ですか? 健康などのために旦那様が料理の改良をしているのは知っていましたが……」


「えぇ、飲む、食べる。

 これは言葉が違えど人類である限り、どんな文化文明であっても欠かすことの出来ない同じ価値観を持った行為です。

 言葉が通じなくても美味しい食事を振る舞えば友好の証となる、酒を飲んで胸襟を開くことで縮まる距離がある。

 そのためには一つの文化として育て上げることが大切なのです。

 長い歴史のある料理は更に磨き上げ、この辺りの名産品やワインを紹介出来るようなメニューを構築し、それが人々に知れ渡れば我が家の名も上がります。

 客人を歓迎する際にも意味を持ちますから……高名な料理人を迎えられたら最高ですねぇ」


 俺がそう言うとコーデリアさんは嬉しそうに手を合わせて目を輝かせる。


 コーデリアさんもなんだかんだで食べることが大好きだからなぁ。


 ……また貴族同士の食事会には特別な『符丁』がある。


 初めて招く客には自己紹介となる『名産料理尽くし』、俺のように新しいことをどんどんやっていくつもりで、そう表明したいのなら『新作料理尽くし』、誰か知り合いを紹介したいのならその地域の料理やワインを用意して事前に振る舞った上で紹介するなど、それだけで一冊の本になるようなあれこれがある。


 そのためにもある程度は研究しておく必要があり、それを一切していないとそれだけで相手を侮っているなんて見なされることもあるからなぁ。


 ……まだまだやるべきことは山程ある。


 王家対策も大事だけどそういった方面も進めていかないとなぁ。


 と、そんな事を考えていると、いつの間にか目の前にやってきたエレナ婆が声をかけてくる。


「食事の改良も貴族のためだけではなく、平民を豊かに健康にするために。

 文化も貴族のためだけではなく、平民の心の豊かさのために……そういったウィルバートフォース卿のお心構えにはいつも感服しております。

 そんな卿にしか出来ないことがたくさんあります、それを出来ない者達の代わりにやっていただく必要があるのです。

 そしてそのために私達は命を賭して卿を支えます、そして卿の庇護という盾の内側で平穏な日々を堪能させていただきます。

 持ちつ持たれつ、貴族と平民は決して一方的な関係ではないのですよ」


 ……ザルドゥとの会話を聞いていたのか、エレナ婆なりの持論を語ってくれたようだ。


 持ちつ持たれつか……皆にそう思ってもらえたなら頑張る意味もあるんだろうなぁ。


「その言葉、心に刻みこんでおこう」


 と、俺がそう返すとエレナ婆は嬉しそうに微笑み……コーデリアさんもまたなんとも良い笑顔となってくれるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回は屋敷に戻ってのあれこれです


少しずつ忙しさが片付いてきましたので……来週辺りからペースアップ目指していきたいと思います

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― 新着の感想 ―
叔父上の押し付け先www。あっちならいくらでもポストはあるし、兄上を出し抜けるとは思えないから最適な配置だ。 コーデリアさんはいろんな意味で実家が太いなぁ……
世間様の価値観としては低俗なモノ=不健全、なのかね? 面倒くさい叔父を父に押し付けることが出来たのは重畳
母「もし、父と叔父がつるんで悪さをするようなら……わかってますね?(兄弟に)」
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