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スライムになった私が拾った体を使って好きに生きる話  作者: あやちん
<四章> Crossworld ―『異』世界からの帰還―

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〘九十六話〙決別のミーア

 こんばんは。


 魔力問題で昼も眠れないほど悩んでるスライム娘、ミーア十歳です。


 さてさて、おこちゃまな外見をしている私は、夜も午後9時を回る頃にはベッドに追いやられ眠りにつくというのが、茅野さん宅に引き取られてからのルーティーンとなっております。

 お姉ちゃんが眠りにつくのは早ければ0時前、遅い時は午(・)前(・)1時を過ぎることもあるようです。そもそも私が眠る時間に帰ってこないなんてざらですから。


 いくら若く見えるからといっても無理をしていいお年(二十六歳)じゃないのですし、美容のためにも早く休んだ方がいいと思うのですけど、そうはいかない公僕のかなし~い性(さが)。


 ちなみに寝る時間になっても帰れないときは、スマホに寝るようにって連絡入ってきますです、はい。


 そんなお姉ちゃんとの暮らしは決して悪いものではありませんでした。いや、むしろ楽しかったといっても良いと思います。

 変な力を使う怪しさしかない身元不明女児である私に対しても気味悪がったり、恐れるようなそぶりを見せることも無い……どころか、一貫して普通の女の子に接するような態度でとても優しかった。

 休日に街に連れられて色々ショッピングしたり、おいしいものを食べさせてもらったりと、現代日本のサービスの充実ぶりや便利さを再認識出来る、とても充実したひと時を過ごすことも出来ましたし――。



 私の今後についての話をされ、ちょっと湿っぽい空気になったあと、一緒にお風呂に入り、眠る前に髪やお肌のケアをしてもらい、ベッドに入れられた私。いつもならお姉ちゃんはしばらく自分の時間を過ごした後にベッドに入ってきますが、今日はさっきまでの話のこともありそのまま一緒に眠るみたいです。


 ぎゅっと抱きしめられました。




 今日はよく抱きしめられる日です。



 抱きしめられるのはうれしい……、けど困る。



 私……、もうこのままここから居なくなるんですよ、お姉ちゃん。


 私が居なくなったらお姉ちゃんは悲しむでしょうか?



 うん――、きっと悲しんでくれると思います。

 私はなんて罪作りな幼女スライムなんでしょう。



 でもこのままここに居続けることは私にとって何のメリットもなく、むしろデメリットばかりが増えていきます。



 お姉ちゃんにだって何かしらの迷惑がかかる恐れすらあります。警察官だろうがなんだろうが、気にしない人たちなんて世の中にはごまんと居るに違いないのですから。


 精霊たちがベッドの上で悩みなんて絶対なさそうな様子でふよふよ飛び回っています。最近魔力に余裕が出てきたのかとても美しく輝いて見える三精霊です。


 まぁ、とは言ってもこのきれいな輝きが見えるのはこの世界では私だけでしょうけれど。



 さて、困ったことにお姉ちゃんは私を抱きしめたまま寝入ってしまいました。

 このままでは身動きが取れません。


 あまりやりたくはありませんが、眠りが深くなるようお姉ちゃんの頭の中に干渉します。

 動いたことで下手に目を覚まされるとその後の対処が面倒になりますからね。面倒は避けるに限ります。


「お姉ちゃん、このまま深い眠りに落ちていってね。その眠りはとても安らかで、体にたまった疲れもふっとんじゃうとてもとても良い眠りだよ。――フォーススリープ(強制睡眠)」


 相変わらず私の魔法は適当なものです。自分なりにやりたいことを明文化することで指向性やイメージの補完をするだけですからね。でもそもそも詠唱なんてそれでいいのではないでしょうか? それともこれは魔力が多いものの特権なのでしょうか。ぶっちゃけ詠唱破棄でもいいよね。でも何かする時の切っ掛けとしては絶対あった方がわかりやすいし、なにより様にならないしね!



 ま、ほんと、どうでもいいですね。



***



 お姉ちゃんの抱きしめという名の拘束から逃れた私は、短い期間にもかかわらず私のために買ってもらった多数の小物や衣類をぷにょ収納に収め、リビングのテーブルに短い書置きをしたためてそっと置いてからバルコニーに出ました。


 少ないながらも築いてしまったお姉ちゃん、茅野(かやの)さんとの思い出のせいでちょっとしんみりした気持ちが芽生えます。


 が、それを振り払うように久しぶりとなる翅(はね)を背中からみょんと出し、ちょっとフルフルしたり、魔力の調子を確認してから……、



 思いを断ち切るべく、潔(いさぎよ)くぽわんと十二階の高さから飛び立ったのでした――。





 はい、飛び立ったのは良いですが、今の魔力保有量ではそう長くは飛んでいられません。目指すは一直線に海です!


 海に入ってしまえばこちらのもの。水を得たスライム娘。陸(おか)の上では色々障害物がありすぎてまっすぐ進むことすらままなりませんが、海なら目標に向かってひたすら突き進むことが出来ますから!


 夜は飛んでいる私を隠すには好都合、私は人目を気にすることなく遠慮なく大空をぶっ飛ばしていきますよ~!



 ごめんなさい、いきりすぎました。

 時速四、五十キロ程度しか出せません。


 朝までに海につけるのかしらん?

 不安でしかない。



***

 


 えー、なんとか長靴っぽく見えなくもない半島の先に、夜が明けるまでにたどり着きました。

 三精霊たちはちゃっかり私の頭や肩に乗っかって力の出し惜しみをしていて、図々しいことこの上なしです。


 ちょっとイラっとしますね。

 君たち、私に魔力を分けてくれたっていいんだからねっ?


 飛行機とか大丈夫だったのかって話もあるでしょうけれど、あちらと私とでは飛んでる高さが全然違いました――もちろん圧倒的に私が低高度――しね、ニアミスするとすれば離着陸前後でしょうけれど、そんな偶然は万に一つもないでしょうし、そもそもそんなところはルートにありませんでしたから無問題でしたね。


 まぁ、もう海に入るから全てがどうでもいいんですけれども。



 都市近辺の海岸線の海水は私の故郷たる湖の水と違い、ぶっちゃけめちゃくちゃ汚かったです。まぁ首都のある湾にも近いわけでそれも致し方ないのでしょうけれど、浄化の精霊と呼ばれたるこの私にケンカ売ってるとしか思えない汚れた海です。


 沖に出ることで少しはましになることを期待したいと思います。

 それでも水を得たスライム娘、ミーアちゃんは頑張って目的地に向かって突き進みます!


 ところで、今の見た目は残念ながらもうミーアの姿をしていません。完全スライム細胞による体となったミーアには、不定形ボディとなるための妨げは何もないのですから。ただ、もう一度ミーアの姿にきっちり戻れるのか? ちょっと心配。


 き、きっと、大丈夫。うん、間違いない!


 ということで私はすごく久しぶりにスライム体の姿に戻り、海中を進みやすくするため外見を紡錘形(ぼうすいけい)へと変えました。そのうえで、体表に前から後ろに波打たせる動きを加え、更には前面にいくつかの開口部を設け、水流を体内に取り込み、そのまま後ろに噴出して強力な推力を得る、いわゆるジェット推進のようなことを行い、どんどん速度を上げていきます。


 ここまでやっても案外魔力は使いません。これはもう水中でのスライム体の本能というか生来の動きであり、過剰な魔力を必要としないのです。スライム体さえあれば、あった分だけの動きが永久に出来る……というのは言い過ぎですが、まぁそれに近いことは出来るのです。


 スライム体凄い、ばんざ~い!


 まぁ、故郷の湖でそんな早く動くようなことはほとんどなく、まさに宝の持ち腐れのよう能力だったわけですが。


 と、ともかく。

 後は迷わないように目的地に向かって進むべし、です。


 海岸線に沿って進んでいけば、いやでも目的地にたどり着けるのですから楽なものです。場所だって魔力感知の要領で、スライムセンサーを張っておけばよいのですから見逃すことはまず無いでしょう。




 たぶん。




***



「なに、ミーアがいない? 私物も無くなっていると? となれば、スマホは? スマホは持っていったのか?」


 まだ早朝と言える時間、部屋のベッドで寝てた俺の枕元で目覚まし代わりに使っているスマホが鳴り、何ごとかと寝惚(ねぼ)けまなこで画面を見れば茅野からだった。

 不審に思いつつも出てみれば、ヒステリックな涙声で同じことを繰り返すばかりの茅野の声で耳を射抜かれ、一瞬で眠気が吹っ飛んでしまった。

 俺は何とか茅野をなだめ、落ち着かせ、話を聞きだすことに集中した。茅野との仕事上の付き合いもそこそこ長くなってきたがここまで取り乱した様子を見せたのは初めてではなかろうか?


「私物というのはお前がミーアに買い与えた衣服類や身の回りの小物類という認識でいいんだな? さっきも聞いたがスマホはどうなんだ? 持っていったのであれば――、そ、そうか、そこにあるんだな……」


 スマホを持っていってくれたら良かったんだが……。幼子とはいえ十歳にはなっているし、あ(・)の(・)ミーアだしな、そこまでこちらの思惑に乗ってくれるはずもないか。


 それにしても面倒なことになった……。


 これは警視がまた癇癪(かんしゃく)おこすに違いないぞ。もしこのままミーアが見つからなければ警視の面子(メンツ)が丸つぶれだからな。


「とりあえず、詳しいことは署で聞く。俺も今すぐ出るからお前も出てこい。気が動転しているのもわかるが頼むから落ち着いて、しっかり状況を確認したうえで報告できるようしてくれ。出来るな?」


 俺の呼びかけにスマホの向こうから涙声ながらもしっかりとした返事が返ってきた。ま、あいつもそろそろ警部補になろうかってところなんだ、そうでなくては困るというものだ。


「はぁ、しかしあの女児には最後まで振り回されるな。くっそ、胃がまたしくしくしてきたわ」


 俺はそのうち胃にでかい穴が開くんじゃないかと思いながらも煙草に火をつけ、気分を紛らわすしかないのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 美しく輝いて見える三精霊です。 一瞬美味しくに空見した > 胃にでかい穴が開くんじゃないかと思いながらも煙草に火をつけ (小声)煙草も胃に良くないですよ
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