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スライムになった私が拾った体を使って好きに生きる話  作者: あやちん
<三章> ミーアとアールヴ

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〘七十ニ話〙ヴィーアル樹海の探索隊

「うぉ~、やっとかよ~、長かったぜー!」


 男性にも負けない上背とグラマラスな体が魅力的な冒険者の女性、オルガさんがようやく途切れた樹海の合間から望める、大きく広がる湖を目にして感慨深げな声を上げています。


 彼女がそんな声を上げるのも仕方ないことだとは思います。


 なにしろこの魔獣蔓延(はびこ)るヴィーアル樹海に入って、かれこれ三十日以上が経っています。

 随分時間がかかってるのでよほど遠いのかと言えば、それも違っていて、たぶん直線距離にすればそこまで遠い訳でもないんです。


 ヨアン副長(いわ)く、普通に歩けたとすれば十日もあれば……程度の距離らしいです。


 けれど、そんなことは絶対無理なわけで、道っぽいものといえば獣道くらい、更には至る所から魔獣が現れ、あたり前のごとく襲ってくるのですから時間がかかるのは当然といえば当然で、このメンバーであっても今のような日時を要したのも仕方ないことだと思います。

 

 私が所属するケービック砦の警備隊隊長であるスヴェン様の意向で、ヴィーアル樹海の奥地にあるという湖を探索することになったのがひと月半ほど前のこと。

 スヴェン様を隊長とした総勢十二名の探索部隊は、顔合わせもそこそこに遠征準備が(せわ)しなく進められ、あれよと言う間もなく出立しました。


 噂に聞くヴィーアル樹海は悪い意味で面目躍如(めんもくやくじょ)といった感じで、スヴェン隊長を筆頭に魔獣と相対しているみなさんは本当に大変な日々であったと思います。


 目の前で大きな声を上げたオルガさんもその一人だった訳ですが、うちのクルトとかいう人以上に危ない方で、襲いかかってくる魔獣にひるむどころか、得意だという身体強化と手にした剣でもって勇猛果敢に突き進み、道を切り開いていってくれました。


 それにしても不便で不衛生な樹海での探索は別の意味でも大変で、基礎四元(生活)魔法が無ければこんな長期にわたる行程をこなすことなんて絶対無理でした。しかも隊の中には女性が三人も居るんですから、ちょっと言葉に出来ない面でも魔法のありがたみが身に染みてわかりました。


 魔法は当然、魔獣との戦いにも有効な訳で、活躍したのは剣士の方々だけじゃないということも言っておかなければいけないですね。スヴェン隊長やヨアン副長、他にも同行された魔法士の方々、みなさんで共闘しながらの探索行だったわけですからね。

 私だって、等級(グレード)は皆さんに及ばないにしても、補助や治癒で多少のお役には立てたと思いたいです。


「なぁアンヌさんよ、オレの目には湖の先に壁で囲まれた、そのなんだ、人が住んでる村っぽいものが見えるんだが、あれってもしかするとアレか?」


 先ほど大きな声をあげていたかと思えば今度はそんなことを言ってきました。あれあれと言われてもちょっと理解に苦しみますが。


「ほんとだ! 間違いなく集落っぽいね。かなりしっかりした柵というか、(つる)で覆われた土壁で囲まれてる感じかだね。うわぁ、なにあれ。樹の上に建物があったりするよ、変わってるねー」


 遅れてオルガさんの隣に並んだドリスさんが、斥候(スカウト)の技能である遠目を使ったのか、詳細な様子を驚きの声を持って私たちに伝えてくれます。


「ふむ、やはりあったか……」


 後ろの方から他の部隊メンバーと共にスヴェン隊長が現れ、薄い微笑みを浮かべながらそう言います。


 そう、私たちも一応話では聞かされていました。数世代前に人族と争った、魔獣との混じり物と言われ(さげす)まれたアールヴという種族の話。


 その人々がこの樹海の奥地へと追われたこと……。


 ただ、今現在もそのアールヴ族が生き残っているかまではわかっていませんでした。


 もしかしてミーアちゃんがそこにいる可能性も……。

 ここに来るまで、ミーアちゃんに繋がるような手がかりも全く得られませんでしたし。


 そう考えてしまうのは都合よすぎでしょうか?


 でも……、今の隊長の口ぶりだと、もしかしてあるとわかっていた?


 ま、まぁ、上の人達の考えを詮索することはやめておきましょう……。



「で、隊長さま、あんたアレのこと何か知ってるのか? 久しぶりの人里だ、出来れば休ませてもらいてぇもんだけどな~」


「ちょ、ちょっとオルガ、言い方。言葉遣いっ」


 オルガさんは相変わらずです。


 上級貴族であるスヴェン様への口ぶりに友人であるドリスさんがアタフタしてしまっています。

 まぁ、探索隊結成式のとき、隊長から部隊行動中は身分差については考慮不要とし、優先するのは隊の中の序列のみとのお言葉が出ていますから、いきなり処分されたりはしないと思いますが……。


 それでもやはり心配なのでしょう。

 一応貴族の一員である私だって、上級貴族の方を前にすれば緊張しますからね。


 その点、やはりオルガさんは大物ですね。


「休む……か。ふむ、そう都合よくいくものであろうか。……俺的にはあれらに対し思うところはないが、さて、どう出てくるであろうな?」


「はぁ? そりゃいったいどういうことだよ? まどろっこしい言い方すんなよ」


 隊長の言葉は少しばかりつかみどころがなく、オルガさんが少々ヒヤッとする物言いで更に聞き返します。


 まぁ私もわからなかったので助かりはしますが。


「あれはほぼ間違いなくアールヴ族の村であろう。隊結成のおりに話したと思うが? お前たちは知らぬかもしれぬがアールブ族とは過去に我らといがみ合った歴史がある。今の我らはともかく、あちらがどう出てくるかはわからぬ……ということだ」


「けっ、めんどくせえなぁ。お貴族さまのやったことで面倒ごとになるってんなら、今からの対応も責任とってそっちでうまくやってもらいてえもんだ。ここへ来て人とやり合うなんて真っ平ごめんだぜ」


 うわぁ、オルガさん、それはちょっと言い過ぎなのでは……。


「き、貴様! ソールバルグ卿に対してあまりに無礼な口ぶり。今までもそうであったがあまりに目に余……」


「フレデリク、よい、かまわぬ。ふふ、オルガよ、お前の言葉、耳に痛いが私とて祖先の行いは迷惑に思っている。が、そのようなこと今、この場で言っても無意味。こうやって話していても事が進むわけでもない。物は試しに行ってみようと思っているが、お前は行くのが怖いのか、うん?」


 フレデリクさんは他所の砦の魔法士で、ソールバルグ派ラーシェン子爵の次男のはずです。オルガさんの発言にいつもイライラしてましたからね。

 隊長がいつもたしなめてますが、その隊長はからかい気味にオルガさんをあおり返してます。なにげにオルガさんを気に入ってるみたいですが、やめてほしいです。胃がしくしくしてきます。


「ぬあぁ~、言いやがったな。このオレが怖気(おじけ)づくなんて、そんなことある訳ねぇだろが。よーし、早く行こうじゃねぇか! そらドリス、とろくせ~お貴族様は置いておいて、早いとこあそこまでいっちまおうぜ!」


「うわ、ちょっとオルガ、私を巻き込まないでよ! ちゃんとみんなで行動しなきゃ危ないよ。アンヌ様~、こいつを何とかしてくださ~い!」


 オルガさん、ちょろすぎです。

 隊長にいいようにあしらわれてます。


 私はオルガさんを見て、隊長を見て、もうどうとでもして……と思うしかありませんでした。


 まぁ隊長はいつもの乾いた笑顔とちがう、驚いたことに本当に面白そうな表情を浮かべているので、まぁ良いのでしょうけど。


 ここまで(人間関係的にも)大変な行程でしたけど、何とか来れたのもオルガさんのこうした気性のおかげもあったかもしれません。あのクルトさんとも気が合っていましたしね。


 ともかくこの先も何事もなくうまくいってくれることを女神フェリアナ様に祈るしかないです。

 そしてミーアちゃんともなんとか出会えますように。


 

***



 あれから一刻と少々。


 湖岸にたどり着いてからは岸伝いに歩けるため随分楽になりましたが、それでも村までの距離はまだまだあり、時折吹き付けてくる風もとても冷たく、季節の進みを嫌でも感じました。

 水際に沿って歩き出してからというもの、魔獣と出会うことはほぼなくなりました。時折空からくる襲撃に備えるくらいです。

 スヴェン隊長からは水には触らないようにと注意されています。遠い過去に作られた、この湖についての報告資料に魔力が抜きとられる感覚を覚えるとの記述があったそうで、用心しろとのことです。


 なにそれ、気になります。


 一見綺麗な水をたたえているかのように見える湖ですが、注意深く見れば所々に濃い紫色をした怪しい(よど)みのようなものが目につきます。

 魔力を抜かれることを覚悟のうえで魔導ボードで解析してみれば、魔力の残滓が集まったもののようで、わずかではあるものの魔力反応が得られます。けれど魔力を抜かれるような感覚はありません。


 うーん、また違うものとか、現象なのでしょうか?


 ただ人体には良い影響は与えないようで、魔力中毒や人によっては属性違いの魔力による酩酊(めいてい)状態に近い症状が出ることが解析できました。多く取り込めばそれ以上の症状、最悪死に至ることすらあるかもしれません。(よど)みの水は多様な属性が入り混じって存在していて混沌(カオス)です。


 一応スヴェン隊長に報告しつつ、湖岸を歩きを続け……、


 私たちの探索行程はいよいよ大詰めを迎えていると思っていいのでしょうか?



 遠くから見えていた土壁に囲まれた村らしき場所。

 当面の目標として目指していたアールヴ族の村らしき場所に到着したのでした。


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