〘七話〙樹海の旅の行きついた先
私の樹海での生活は樹の上で目覚めるところから始まる。
おつむスライムで眠る必要あるのか?って疑問が生じるかもだけど、やはり思考する生き物――である私は頭スライムであろうとも断然睡眠を欲するのである!
とは言っても危険な樹海の中。
スライム体の全てが完全な睡眠を行なっているわけではなく、女の子の維持を担っているスライム体以外がきっちり周囲の警戒を行なっています。まぁ、警戒といっても私という意識は眠っているので、出来ることは反射的な動き……、要は相手任せの受動的な対応となります。
そんな訳で完璧な警戒とはいかないものの、スライム体が反応すれば必然的に私は起こされることになるので、そうそう不覚をとることもないでしょう。
樹上睡眠にしても最初は落ちそうで怖かったけど、人間? とは慣れる生き物。今ではどうということはない。
起きたら起きたで、やることは決まっています。
出すもの出さなきゃです。
スライム体が浸透した体とはいえ人間がベース。ゆえに生理現象は起きるのです。
まぁ力技でおなかの中身を吸収してしまうこともやれば出来るでしょうけど……、う、う〇こを吸収……。
ううう。
でもお尻から出さなきゃ、それはう〇こではないのでしょうか?
いやいや、出ていようがいまいが、どう考えてもそれはう〇こです。
…………。
私はいったい何を連呼しているのでしょう。
なんにしても、あれを吸収だなんてやっぱいやです。
普通に出しましょ、普通に。
どうせ誰も見ちゃいないんだしね。気にしない気にしない。
樹海にお花畑があるのかどうかはともかく。
お花摘みに行きましょう!
何言ってるんだろ私。このセリフは元おっさんに効く。
恥ずかしさMAX。自己嫌悪しかない。
かなり大きなネタ振りだったのだけど、実際のところ口から食べるものはほぼないわけで。
獲物は吸収!
ってパターンがほとんど。時折見つかる木の実や果実が口に入るものの全て。
ああ、出すものなんてほとんどないね。
肉だ、肉。じゅーって焼いて、たらり脂がしたたる肉。お肉が食べたい!
できれば塩、コショウ、あとしょう油もほしい!
……。
むなしい――。
日がな一日、延々樹海の中を歩いてるわけですが、獣道をたどっているだけではそいつらの縄張りをぐるぐる廻るだけになるので、その点は気をつけなければいけません。
とりあえず何を目標に進んでいるのか?
それは私自身が答え。
この体をもたらしたワイバーン。
そいつらが飛んできた方向である北東。
大雑把ではあるけれど、そちらに向かって歩いてます。
住んでた湖越し、どこから来たなんてあまり意識していなかったからマジ適当です。でも目標ないよりはずっとマシだよね。
この体にどんな出来事があったのかわからないけど、少なくとも人が住んでいるところがあるのは確実。
そこを目指さずどこを目指すというのでしょう!
はぁはぁ、落ち着け私。
と、ところで今現在、銀虎毛皮ワンピースを着こんで歩いてる私ですけど、実は足元に変化があります。
日々出来ることを模索している私は、足元に注目。サンダルとかなら簡単じゃね? と、得意のスライム体を使って工夫した。基本はスライム体による保護コートです。足裏に多少厚みをもたせたスライム体を張り付かせ、サンダルならではの鼻緒の形も模してみました。ついでに光の屈折率を変化させて色を変えたので、見た目的にも安っぽいビーサン履いてるように見えます。色は見る角度で多少違って見えるのはご愛敬だね。
ただし、張り付いてる(体の一部)ので脱げない!
そんなこんなでDIYっぽいのをたまにしながら、日中は漠然とワイバーンたちが飛んできた北東を目指して歩き、暗くなったら寝る。そんな毎日。
話は変わるけど、やっぱり角付きとか牙デカを仕留め、あの謎器官を吸収すると、何らかのタイミングで体に活力というか、精気というか、そんな漠然とした力の向上がみられるようです。気のせいではなく間違いなくそれはある!
一番の証拠は自分自身の謎器官。それが少しずつ成長してきているとともに、そこを起点に体を巡るものの量が明らかに増加しているのです。それこそが活力、精気の源と考えられるし、なにより私がそう思いたい。
これってやっぱラノベ的発想でいえば魔力的なものと言っていいんじゃないですか?
というか言わせて!
つい興奮してしまったけど、だからどうなのというのが現在のところでもあります。それを使って何か出来るのかもしれないし、体力的に向上するとかだけかもしれない。
わからないものは仕方ない。
のんびりやっていきましょう。
湖を出て三ヶ月。
スライム謹製の頭脳は優秀で記憶力には自信あるから日数に間違いはない。(自慢)
くどいようだけどこの世界での三ヶ月ね。日の出日没回数での三ヶ月。
実際の時間が地球と同等なのかは全くわからない。
よろしくね。
魔獣もそれなりに狩りました。あ、角付きや牙デカのことをひっくるめて魔獣って呼ぶことにしました。
この樹海、角付き率高くてもうね。
小型でか弱い動物だと思ってたウサギですら角付きいたし。なにげに肉食で鋭い角で突っ込んでくるから困る。大型だと双頭の蛇とかもいて、巻き付いてしばいてくるわ、チロチロ舐めてくるわでキモかった。これは角じゃなくて牙デカだったけどね。
他に熊系、お約束の犬系も出た。連携して襲ってきてウザかった。でも、おかげさまで相当謎器官成長したはず! きっと。
今の私の佇まい。
服は虎毛皮。腰帯は虎しっぽ。その帯に牙デカ猪の膀胱で作った水筒と木のナイフ。背中にはこれまた牙デカ猪の胃袋で作った背負い袋。締めに足元はスライム謹製ビーサン。
これが今の私の全てだっ!
創意工夫でなんとかなる。
私の好きな言葉です!
自分自身、女の子の体もバッサバサだった髪は今では艶々。やせ細ってた体も健康体そのもの。(ただし肌が青白いのはそのままですけど……) 女の子の体を活かしてるので新陳代謝も活発なため川を見つければ沐浴してたけど、いざとなれば万能スライムパックでお肌の老廃物は即一掃、あっという間に艶々にできるよ!
ちなみに薄紫色した髪はすくすくと伸び、腰に届きそうな勢い。それをまとめて、その辺のつる草をひも代わりにして括って即席ポニーテールにしてる感じです。
深い紫色をしたつぶらな瞳に愛くるしい小鼻と口。なんてキュートで可愛いのかな、私!
なんてノリノリな気分だった私のテンションは、目の前の光景によって一撃で消沈しました。
樹海が切れ、目の前に視界が広がってくるのが見えて喜び勇んで走っていきました。
いや、海の匂いを感じるようになっていたしね。海岸近いかな~とは思っていたのです。
「うわ、たっか……」
崖でした。
絵にかいたような断崖絶壁。
崖なんて以前獣道からたどり着いたこともあったけど……、
あれは川沿い。
今は海。
絶望感がひどい。
ひどすぎるわ――。