〘八話〙ソルヴェ村での出来事
先に戻るスヴェン隊長らを見送った私たちは、改めて惨劇に見舞われた村を見渡しました。
目立つ瓦礫の処理、気の毒にも被害にあった村人たちの慰霊も終わり、静まりかえったソルヴェ村に、かつてあったはずの生活の音が戻ることはもうないでしょう。どうしようもないこととは言え、悲しいものです。
その様子に皆の気分も落ち込んでいるようですが、いつまでも感傷にひたっているわけにもいきません。
残ったのは私を含め五名になります。
まずスヴェン隊長の副官である私、ヨアン=リンドグレーン。火属性持ちの上級二位の魔法士で、剣術も多少の心得があります。
私が剣術が出来ると言うと鼻で笑われそうな腕前を持つ中級二位の剣士クルトと三位のエリク。この二人は剣術、それに身体強化や体術に優れた体力バカであり、放っておくと無駄に突っ走るので注意が必要です。二人ともまじめにやっていれば上級にすぐにでも上がれる実力を持っているのですが……、本当に困ったものです。
三人目は風属性中級二位の魔法士、レナート=ダール。彼の風魔法応用の気配察知はなかなか有用で重宝しますが、魔力的に多少不安定なところがあり、気位も高く、少々気難しいところもあるので気にかけておく必要があります。平民であるクルトとエリクとはあまり友好的とは言えず、頭が痛いところです。
最後が癒しと補助系統の魔法でサポートしてくれる無属性中級二位のアンヌ=ハウゲン。エリクとレナートより二つ年下となりますがそんな男二人より落ち着きがあり、よほど頼りになる女性です。
年齢構成としては私が二十四歳で最年長。クルトが二十ニ歳。エリク、レナートが二十歳。アンヌが最年少十八歳となります。
「さて諸君、この村は残念ながら復興することなく廃村となります」
私の言葉に皆の表情が引き締まります。
「その代わり、この地には監視砦を新たに設けることとなりました。しかも早急にです。候補地としてはもう少し先に進んだ岸壁寄りの、海峡が一望できる場所となる予定です」
これはスヴェン隊長個人の強い意向であり、その動きは迅速です。
「十日後にはまずは仮設砦を建てるべく、先遣部隊が到着するでしょう。私たちがやらねばならないのは、何を置いてもこの辺り一帯の安全確保が第一。それと、ないと思いたいですが村の廃屋への不法侵入者の警戒。これも行わなければいけません。火事場泥棒などもってのほかですからね」
皆の表情がより一層真剣味を帯びてきました。ここからが更に肝心です。
「もう一つ。この村を襲ったワイバーン、もしくはファイアードレイク。それら亜竜種がまた戻ってくる可能性もないとはいえません。今回の任務は討伐ではありませんし、もし群れで押し寄せられたりすれば我らの戦力程度では、撃退することすら難しいでしょう。くれぐれも先走った行動はとらないようにお願いします」
それを聞くや真剣な表情から一転し、とても怪しい表情を浮かべているバカの付く剣士が二人います、やれやれ。
「クルト、エリク。わかりましたか? 決して先走らないように。何かあればまず報告! 忘れないでくださいね」
「はいはい、わかってますって、ヨアン副長。そんなにご心配されなくたっておれ、いや、私は言われたことは忠実に守る男だ……、です。お任せください」
クルトがさも心外であるように、大きな体に似合わず愛嬌のある顔を真面目に整えて、いや、整えきれていませんが……、言います。胡散臭さ過ぎて胃がしくしくしてきます。敬語も全くできていないですし。
「「はい」は一度でよいです。よろしくお願いしますよクルトさん。エリクさんもいいですね?」
「……はい、副長」
私の再度の確認に、エリクはぼそぼそと小さな声で答えます。大柄で骨太な体格のクルトに比べ小柄ではあるものの、十分引き締まった体をしています。が、騒がしいクルトに対して寡黙であまりしゃべらないため、一見無害そうに見えます。
出来ればずっと大人しくしていてほしいものです。
レナートとアンヌはまあ大丈夫そうですが、若干アンヌがクルトを睨みつけている気もします。
私の心の安寧のため、ここは見なかったことにしておきましょう。
「では各自、任務についてください。解散」
私が簡潔にそう命じれば皆が持ち場へと散っていきます。外回りをクルトとエリク、村内をレナートとアンヌが見て回る手筈です。
何事もなく十日間を過ごせればよいのですが。
さあ、私も仮設砦の設営に向け、情報の精査を急がなければなりません。
頑張りましょう。
***
「ヨアン副長! 見ていただきたいものがあります」
雨風をしのげる程度には建物の体裁を保っていた村長宅を活動拠点とし、確認した情報を整理していたところ、村内を巡回していたアンヌが慌てた様子で報告に訪れました。
私の手を引く勢いで連れて行こうとするものですから、取るものも取りあえず、見にいくこととしました。
そこは地下室でした。
瓦礫で塞がれていたため、今まで確認出来ずにいたようです。アンヌ、お手柄ですね。
ここ最近は使われていなかったようで、カビた臭いが鼻を突き、更にはわずかながら汚物臭が残っています。正直、あまり良い印象を得ることは出来ず、長居もしたくない場所です。
「これを見てください」
顔をしかめていたところに、アンヌが使い古された記録簿らしきものを差し出してきました。軽くうなずきつつ、手に取り確認します。
「な、なんという……」
内容はこの村での儀式の記録でした。
我々はそのような儀式を行なっているなど、聞いたことはありません。
いつから、どのような経緯で始まったのかまではこの冊子では分かりませんが、ここに載っている一番古い記録で五十年前。当初は隔年で行われ、年を経るとともにその間隔は延びていったものの、それでも今日まで続けられ、近いところだと四年前にも行われたと記録に残っています。
想像ですが、儀式の《にえ》とする少女が年々少なくなっていったのかもしれません――。
「あの、それには書かれてないようなんですけど、おそらく今年の春くらいにその儀式、行われたみたいです」
「ほう、なぜそう言えるんです?」
「これです」
アンヌが差し出したのは記録簿の半分ほどの大きさの小冊子。中を見てみればどうやらこの部屋での記録……、いや個人の日記でしょうか。
「なるほど。雪解けとともに行われたとありますね。あとは食事の記録に……、これは懺悔の言葉ですか。ふん、一応罪悪感はあったのですね。おや、最後の贄となった少女の名がありますね……」
「か、書いてあるんですか?」
少女の名という言葉にアンヌが大きく反応し、聞いてきます。
「ミーア。当時十才の女児。母親は産後の肥立ちが悪く死亡し男親は狩りに出てそのまま戻らず。赤毛で、目は赤茶。年齢よりもかなり幼く見えるとありますね」
「ミーアちゃん……、ですか。なんてひどい……」
滅びてしまった村の暗部――。
贄となり散っていった少女たち。
そして最後の贄であろうミーアという幼い少女。
いったいその贄にどういった目的があったのでしょう?
記録にはそこまで書いてありませんでしたが……。
なんともやるせない空気が漂う結果となった地下室での一件なのでした。




