〘六十七話〙アンヌの想い
スヴェン隊長が指揮するヴィーアル樹海への遠征隊。
それに私も加わるようにと、隊長から言い渡されました。
ケービック砦の警備隊からはヨアン副長とクルトとかいうガサツな人も同行します。更には別の砦からの人員や、冒険者ギルドからも幾人か要員が出されるようです。
私のような支援要員を含めた遠征隊の総員は十二名となります。
行く先のことを考えれば少なく感じますが勝手のわからない見知らぬ土地、魔獣ひしめく危険な場所に赴くのに数だけ揃えても動きが取りにくいだけ。信頼のおける人員による、機動性と確実性を考えたうえでの人選なんだそうです。
ヨアン副長の受け売りですが……。
私がそんな中に入ってしまってもいいのかな?
ちょっと不安です。
遠征の目的は、ここ数ヶ月で頻繁に起こるようになった魔獣の海峡渡りの原因を調査するということらしいです。
空を飛べるワイバーンの海峡渡りが特に顕著で、海岸線沿いの要所に築かれている監視砦からの発見報告も後を絶ちません。
それに比例するように被害報告も増加の一途を辿っていて、中でも海峡を渡ってきたワイバーンが岸壁で営巣し、そこを拠点として領内の村々を襲撃する事例がことの外増えたそうです。
ケービック砦においても少し前に営巣するワイバーンを確認したと聞きました。詳細は一隊員に過ぎない私まで回ってはきませんが、漏れ聞こえてきた話からするとなんとか討伐に成功したみたいです。
それでも被害は多少出たようで残念なのですが、でも早期に対応出来て良かったな……とも思います。
それはともかく、ワイバーンの話を聞くとミーアちゃんのことを思い出さずにはいられません。
思い起こせばミーアちゃんと出会ったソルヴェ村が、魔獣の海峡渡りの最初の被害を受けた場所になるのではないかと思います。
それ以降、ソルヴェ村ほどではないにしろ、散発的に魔獣被害の報告が上がるようになってきましたから。
レイナール領にミーアちゃんが居ると聞いた時には居ても立ってもいられず、スヴェン隊長のはからいもあり会いにまで行きましたが……、残念ながら再会することはかないませんでした。
スヴェン隊長は上級貴族であり、下流の者の気持ちに思い至れないのは仕方ないのかもしれませんが、あんな仕打ちを受けたミーアちゃんが、隊長やギルドマスターからの呼び出しに怯んで逃げてしまうのはもっともなことだと思うのです……。
隊長の中では許しを与え、もう済んでしまった出来事であっても、ミーアちゃんの中ではそれは終わってなんかなくて……、今も心に残ったままなんだと思います。
ああ、今この時もミーアちゃんはどんな思いで過ごしているんでしょう?
もし再会できたなら、この胸でぎゅっと抱きしめてあげたい。
もう心配しなくていいんだよって伝えてあげたい……。
ああ、いけない……、考えが逸れてしまいました。
けど、そうなってしまうのはヨアン副長のせいです。
魔獣蔓延るヴィーアル樹海に危険を冒してまで行く理由の一つ、それをヨアン副長が内密で……、と言って聞かせてくれたせいなのです。
不確かな情報ながら、ミーアちゃんが、あちら側に渡っている可能性があるというんですから。
なぜ? どうしてそんな危険なところへ? という疑問は置いておいて、それを耳にして行かないなんて選択肢は私には存在しません!
これを聞いたら、少しばかりの不安がなんだって気持ちにもなりますし、俄然やる気だって出て来ます。
お父様はきっと反対なさるだろうけれど……、そもそもこれを決めたのはスヴェン隊長。スヴェン=リンストロム=ソールバルグ様なのです。
だから引き留めることなんて出来るはずもないのです。
私だってスヴェン隊長のやりように思うところがない訳ではありません。けれど、同じ隊に所属しているとはいえ、所詮私は下級貴族の娘でしかなく、どうすることも出来ません。
とにかく今は、ミーアちゃんに会うことを目的に、私なりにがんばりたいと思います。
あともう一つ、気になることと言えば、遠征隊に参加する冒険者さんのことです。
ヨアン副長曰く、冒険者ギルドのサブマスターであるトマスさんという方の他に、オルガさんとドリスさんという女性冒険者が参加するそうなのです。
オルガさんとドリスさん。
この二人の名前はレイナール子爵館に赴いた際、聞いたことがあります。
ミーアちゃんは少しの間その二人と行動を共にしていたそうで、そうなったきっかけは野盗に拉致されたこと……とかで、怖すぎてちょっと理解したくない状況です。なんと言えばいいのか……、とにかく無事で良かったです。
ミーアちゃんみたいな幼い女の子を拉致するなんて……、野盗なんて存在、この世から全て消えて無くなればいいのに。
それにしても……、ケービック砦から抜け出して二人に出会うまでずっと一人で林野をさ迷っていたのかと思うと、本当に不憫でなりません。
たった一人で夜を過ごし、人と関わることなく生きていくなんて……十歳、いえ、九歳で登録されているのでしたっけ?
絶対、九歳の女の子がしていい生き方じゃありません!
聞けばミーアちゃんはレイナールの町でドリスさんと二週間ほど寝食を共にしていたみたいで、その間に冒険者としてやっていくため、色々学ぼうと頑張っていたらしいのです。
なんて健気なんでしょうか。
魔法の才が飛びぬけていたらしいです。
「うん、当然よね。私が知ってる限り、ミーアちゃんほど才能と魔力を持った人に出会ったことない。領都の守備隊魔法士だってきっと足元にも及ばないんだから」
会ったことはないけれどね。
他にも何か表沙汰に出来ないすごいこともあったようなのだけど、教えてもらえないのです……。
そんな中で、レイナール領代官館への呼び出しを受けて……、それのおかげで行方知れずになってしまいました。
「ああもう、私はどうしてこんなに無力で、すべてが後手にまわってしまうんだろう……」
ほんとにどうしましょう。
ついつい独り言をこぼしてしまいます。
「ともかく! 行動あるのみです。お二人はどんな方々なのでしょう? ミーアちゃんが懐いていたというのだから、きっといい人たちに違いないですよね」
平民のお二人に、下級とは言え貴族である私が素直に受け入れてもらえるでしょうか?
まぁ貴族とは言っても子爵令嬢というだけで私自身に爵位が有るわけでもなく、嫁ぐ先によってはどうなることか……。
何も自分で決められず、歯がゆい思いをするばかり……というのが実情なのです。
こうやって内に籠って考えていても碌なことはないです。
遠征隊は近々出立するのだから、もうなるようにしかならないし、冬も迫ってますからそう長い時間もかけられないでしょうし。
お二人と仲良くさせてもらって、協力してミーアちゃんを見つけ出して……、そして願わくは私と一緒にヴィースハウン領へ戻ってきてほしいな……。
これから向かう先にミーアちゃんが本当にいるのかもわからないし、危険なヴィーアル樹海を無事に抜けられるかもわからない。
そもそもどこを目的にしているのかすら教えてもらってないのだけど。
ああ、女神フェリアナ様。
どうかミーアちゃんと出会えるよう、その聖なるお力で見守りいただけますように――。




