〘五十ニ話〙ミーア、ぶらり一人旅、のちワイバーン
一人ぼっちの旅暮らしに戻ったスライム娘、ミーア九歳……です!
泣きたい……。
唐突な疑問ですが、ワイバーンってどこに行けば会えるのでしょう?
私にわかるワイバーンポイントと言えば、アンヌと出会ったあの場所と、つい最近逃げ出したばかりのレイナールの町くらいです。
う~ん、アンヌと出会った場所……、あの場所って今となっては正確にわからないんですよね。嵐にもまれて流れ着いたところだし、知らない間に例の砦に運び出された訳だし……。
そうは言ってもおおよその見当はつくのですが……、うん、戻るのはやっぱ無しです。わざわざひどい目に遭った場所に戻ることなんてないです。アンヌだってもうあそこには居ないみたいだし。
レイナールの町に戻るのはそれこそ論外。
せっかく逃げだしてきて、なぜすぐに戻んなきゃなんないのって話です。
それにしても私が逃げ出す切っ掛けって、あの強面イケメン上から目線お貴族様がらみ一択でなんかウケる。いや、ウケてどうする私。
ほんと、迷惑この上ない人ですね、あのお貴族様。
もう二度と関わりたくない人、断トツのナンバーワンです。
はっ、ま~た考えがそれちゃいました。
と、とりあえず海岸線が見えるルートで適当に魔獣を狩りながら旅をするって感じで行きましょう。ワイバーンさんはヴィーアル樹海方面から飛んできますから、なるべく海峡が望めるところを選んでいきましょう、そうしましょう。
そしたらそのうちワイバーンさんが襲ってきてくれるでしょう?
ただし問題なのが、このあたり一帯、海沿いの断崖絶壁ぶりがひどく、海沿いをずっと歩くなんてことは無理。なので、街道を外れた森の中を行きつつ、海岸線が見えるところがあれば確認するって感じになっちゃいます。
もうね、道なき道を踏破していくのはこりごりなのです。崖沿いを歩くスリルなんていらないのです。町暮らしで楽を覚えたスライム娘のスライム脳から、苦労という言葉は抹消されております。
幸いワイバーンの魔力は幾度となく体感しているので、その辺も探りつつ、楽をしながら進めていきたいと思います!
***
だめじゃないですか!
私は圧倒的にルート選択ミスをしました。
街道沿い、しょぼい魔獣を狩りながら海岸線を時折り確認しつつ、歩みを進めること二日ほど。
なんということでしょう!
向こう岸がだんだん遠のき霞んでいくではありませんか。
そうです。
海峡の幅が次第に広がり、樹海が広がる向こう側はどんどん離れていってしまったのです。いくらワイバーンが飛べるとはいえ、あいつら、あまり長距離を飛べる生き物じゃないのです。(きっと)
こちら側に渡ってくるワイバーンがここ最近、妙に増えてきてるって話はこの前の襲来の時も耳にしましたが、まだまだ頻繁に飛んでくるってほどでもありません。レイナールの町も、あれが初めてのことだったらしいし。
それなりに飛んできてるなら、こちら側に居ついたり巣作りしてる個体もいるかもしれませんが、対岸からの飛来の方が絶対数が多いに決まっています。
離れてしまっては出会う確率が減ってしまうじゃないですか~。
うーん、どうしよう。
ワイバーンのことはスッパリあきらめてこのまま先に進むか、はたまた、あの村方面に戻るか。
何をするって目的あるわけじゃないから、どっちでもいいといえば、いいんだけど。
むぅ~。
……。
決めました!
やっぱ少し戻ってみましょう。
先に進めば領都とやらに近づいていくことになります。人里も増えていくし、きっとお貴族様もいっぱいいるでしょう。人が増えれば警備隊の砦とかも増えて、面倒ごとに遭遇する確率も倍々ゲームです。
どんなことになったとしても、どうにか出来るとは思いますけど、触らぬ神に祟りなしです。
よし!
決めてしまえばあと行動あるのみ……ですが、今まで散々歩いたのでちょっと楽をしたいと思います。
街道を戻っていく方向に走る馬車を見つけ、その天井に便乗させていただこうと思います。
天井はミーアの指定席ですからね、いつも空席で待ち無しなのです!
***
「困ったもんさ、至る所で検問なんざやられたらよ、荷の引き渡しに遅れちまうってのに」
「そのたびに待ちの行列が出来るからな、半刻、へたしたら一刻以上待たされるのもざらだってよ。まったく、いつまで続けるのかねぇ?」
乗り込んだ荷馬車の天井席でごろりと横になり、澄み渡った青い空に流れる雲を気分よく眺めつつぼーっとしていたら、中の会話がスライム地獄耳に入ってきました。
検問……ですか。
「聞いた話だと、ソールバルグ公派閥の門閥貴族が治める町や村の通行門は一斉にやってるらしいぞ。ギルドも巻き込んでるし、他にも街道で抜き打ちでやってるところもあるらしい。そこまでするなんざ、いったいなにがあったのかねぇ?」
「検問やりだしてもう七日以上経つがよぉ、まだ探してるもんが見つからねぇんだろうさ。門番にちょこっと渡して聞いたんだがな……、探してるのはちいせぇ子供らしいぜ。それも女児だ。お貴族様やギルドが総出で探すなんざ、そのガキにいったいなにがあるのやらだ」
「ほ~、女の子供ねぇ。ガキ一人にお貴族様がそれほどの労力かけて探しまわるたぁただ事じゃねぇな。これで変な趣味の為っつったら堪ったもんじゃねぇが……、んなこたぁねぇか? ガハハッ」
な、なんですとぉ!
な、なにそれ、今のってぜぇったい、私のことだよね?
まじですか~。
あのお貴族様、そこまでやりますか……。
く~~、あのまま街道沿いを進んでいかなくて良かった~。
っていうか、この荷馬車もこのままだとやばいかも。いくら気配を消して光学迷彩で姿を消していてもどこからばれるかもしれません。
あの強面イケメン上から目線お貴族様みたいに……。
けっこう距離も稼げたし……仕方ない、ここからはまた森の中を行くこととしましょう。
楽をしながら旅しようって思ってたのに、結局こうなっちゃうのですね。
***
あれから丸一日歩き、海峡の幅もだいぶ狭くなってきて、目の前の風景に記憶と重なるところがあるように思えてきたころ、その魔力を感じました。
「みぃつけた~!」
野生のミーアのスライム謹製魔力センサーにビンビンに感アリです。
ワイバーンさん、どうやらこちら側に巣を作ってるみたいで、少なくとも六匹の感があります。
あの村を襲った奴もあの中に居たりするのでしょうか?
結局あの後どうなったのか私は知らないんですよねぇ。確か十三匹いて半分以上はやっつけてたと思うんだけど……、どうなんでしょう?
私は感知した魔力目指して歩みを早めますが、そこは人も踏み入らない森の中、少々手こずってしまいました。場所によっては草原に低木が所々生えてるくらいの開けた場所とかもあるんですが、ここは最後まで樹々が生い茂っていて鬱陶しいったらない。
ついでに魔獣もでる。当然吸収して燃料化です。
けれど苦労の甲斐あって、やっと確認できるところまで到達できました!
ワイバーンが巣作りしてるところからは少し離れた崖の淵で、海面からだと五十メートルはありそうな高さです。落ちたら余裕で死ねますね。
崖には筋状の裂け目が縦に幾重にも走っていて、そんな中にはワイバーンが潜むのにちょうどよい段差や深くえぐれた場所もあるようで、ニケ所ほどで営巣してるみたいです。
それぞれの巣に一頭が籠ってて、まず二匹。
上空を旋回しながら飛んでるのが二匹。
巣の脇で羽休めしてるのが二匹で、合計六匹。スライム謹製魔力センサーはばっちり正確です。
さてどうしましょう。
全部やっつけるか、おびき出して一匹だけにしておくか。
魔器官を吸収させて頂きたいので、火や氷なんかの魔法はご法度ですね。
でもおびき出すって言ってもねぇ。
都合よく一匹ずつ来てくれるものでしょうか?
ないよねぇ……。
ああもう面倒です。とりあえずこちらに気付いてもらいましょう。その後どうなるかは出たとこ勝負です。
私はずっと気配を消すため抑えていたミーアの魔器官の活動を全開にしました。
更に体の活動も全力全開、身体強化も行けるとこまで行っちゃいます!
「うにゅわ~、みなぎる~!」
ここまで全開にしたのはめちゃ久しぶり……、いえもしかして初めて?
つい変な声まで出てしまいました。
ついでに浸透させるスライム体濃度もがっつり増量したら、ちょっと体が青白いを通り越して透け気味になってしまったミーアボディです。
ふふ、スライム体は謎空間に今やとんでもない質量となって存在しているのです。長年色々吸収して増量してきた賜物、私にだってどれだけあるなんてはっきり言えやしないのです!
バックアップに超自信ありです!
ぬ?
やりすぎたせいか、体がぼやっと光って見えるのは気のせいでしょうか?
……ま、いいか。
さ~てワイバーンさんは……、
「うっわっ!」
目の前が暗くなったかと思えば、大きな鉤爪が私の頭を掴もうと目前まで迫ってます!
わっ、ちょっ、ワイバーン!
はっや!
さすが野生、魔獣の反応早すぎです!
とっさにしゃがんで躱し、勢い余ってそのまま前にぴょ~んと飛び出しちゃいましたが、私馬鹿?
私が居るのは崖の上。
先には何もないでしょうが~!
「うっそぉ~~!」
落っこちました。
けれど落ちていく感覚は、胸やお腹から伝わってきた痛みの感覚と共に、なぜか無くなりました。
はい、ワイバーンの鋭い鉤爪で、バタついてたローブや服に半ば引っ掛けるようにして確保されてしまいましたとも!
すかさず掴み直したワイバーンさんは華奢なミーアボディを両足で容赦なくぎゅうぎゅう締め付けてくれました。鉤爪がこれでもかと食い込んできます。
「こら、は~な~せ~!」
私はまさかの展開にちょっと焦ったもののここは冷静にならなくてはいけません。
食い込んだ爪で普通なら皮膚がさけ、血だらけになっていてもおかしくないはずなのですが、擦り傷一つなさそうな青白く透けた肌は淡い輝きを帯び、何とも幻想的な趣を私にもたらしてます。
これは浸透したスライム体がめいっぱいの魔力? で、満たされたせいなのでしょうか?
まぁそんな考察は後にして、ワイバーンさんはとっとと私に吸収されちゃってください!
ミーア対六匹のワイバーン。
始まります!




