〘三十話〙短い旅の終わりとサプライズ
オルガから聞いた話からすると、最寄りの町であるレイナールまでは馬車で二日と少しくらいの距離らしいです。
ついでに領都まではどれくらいなのかも聞いたのですが、レイナールの倍以上の六日はかかるそうでかな~り遠い感じです。
ゴールは知れたとはいえ、あと二日と少しですかぁ……、う~ん、もどかしい。
更に言えば私は馬車なんて持ってないので当然徒歩での行程となるわけで、普通に行けば五日くらいはかかる感じです。
萎えます。
ぼっちコミュ障ぎみの元サラリーマンおじさんの私は、本来運動とか好きじゃありません。
そしてそれはスライム体になり、ミーアの体を使うようになったとしても基本的に変わりません。こんな世界なので自分の足で動かざるを得ないから動いてますが、楽できるなら楽できる方へ躊躇なく飛びつく自信があります!
はぁ……。
だんだん町に向かうのが億劫になってきました。
でもそんなこと言っててもしょうがないし、気晴らしにご飯探しでもしましょうかね。
アジトを出てからこっち、目立つ物も何もない平原ばかりが続いてましたが、ようやく森林地帯に差し掛かってきましたし、ご飯はいっぱいいそうな感じです。
***
森に入ったら入ったで、今度は延々森、森、森です。
細々と続く道は相変わらずでこぼこの荒れ荒れですが、迷わない程度にはしっかりした道なので助かってます。
ご飯はたくさん居たので腹ぺこ状態とはおさらばです。
ああ、湖にいたころは腹ぺことは無縁だったのに、陸に上がってからは普通にお腹がすくようになってしまいました。陸は湖みたいにそこに居るだけで栄養吸収できるって環境じゃないですからねぇ。
今更ながら、あの湖は私にとって最高の食糧庫だったのではないでしょうか?
そうは思うものの出てきてしまったものは仕方ありません。
今を前向きに生きていくしかありません!
ちょっとばかり後ろ向きモードになったりしつつも旅を続ける私です。
森の動物や、時折現れる魔獣をおいしくいただき、夜は土製かまくらとスライム寝袋でぐっすり眠り、何のかんの言いつつも旅は順調で三日目を過ぎました。こちら側の魔獣は、樹海の奴らに比べるととっても弱っちいので危険を感じることもなく、マジ危なげない旅路となっております。
やっぱヴィーアル樹海(でしたっけ?)の魔獣たちは一応強かったんですね!
ただ、残念なことに文明的な食事とはかけはなれたものに戻ってしまいました。
ああ、アンヌに甘やかされた生活が懐かしいです。
お食事はちゃんとした人の食べ物……というか料理でしたし。
食事もたまには普通に口からとらないとミーアボディの胃とか、内臓が退化してしまうんじゃないかしらん?
ところで、この森で一番の敵は狼っぽい見た目の魔獣です。
そのまんまですが、フォレストウルフと名付けました。大柄な体格で、銀虎には及ばないものの、ミーアの体の二倍程度は楽にありそうで、魔獣らしく牙が異常に発達しているのが特徴と言えば特徴です。そういえば銀虎の正式名は一角皇虎というらしいです。いつだったかオタクエリクが教えてくれました。なんか名前かっこよすぎ。銀虎で十分だと思います。
おっと、今は狼さんの話でした。
で、一匹だけなら雑魚なのですが、奴らは必ず三匹以上で連携して襲ってくるのでちょっと面倒なのですよ。
なので、こういうすばしっこくてずっこいやつらにどう対処してるかというと、風の魔法な訳なのです。あまり動かなくても対応出来るので、とても楽ちんではかどります。
お頭さんが色々見せてくれたので風魔法のバリエーションが増えたこともあり、大変はかどります。
火魔法は派手で、いかにも魔法って感じですけど、火事とか延焼が心配で使い処に困る印象です。
そんな狼さんたちの群れを三つほど壊滅してあげました。魔力がしょぼくレセプタの発達程度もお察しですのであまりうま味はありません。
更に二日が経ち、ようやく深い森にも終わりが見えてきました。
「はぁ、やっと森を抜けられます。もう森歩きは色々とお腹いっぱいです……」
鬱蒼とした森の中から日の光が燦々と照り付ける広々とした風景へと、見える眺めが変化していきます。
つられて気分も上がってくるというものです。
でもあれです。
馬車が襲われてるとかのイベントもなく、普通に森を抜けちゃいました。ちょっと残念です。
んん?
遠くに何か見えます。
「おおっ、あれ町? 町だよね!」
小高いこの場所からだとまだ遠くではあるものの、おかげで町の様子が一望できます。
周囲は壁とか柵で囲まれています。
港寄りの町中に高い塔が立っているのが見えます。
川が町の中を縦断して流れ、その先には港らしきものも見えます。
あの川は水車小屋まで遡れたりするのでしょうか?
はっ。
もしや水車小屋のあった川を下っていれば、こんなに苦労して歩かずとももっと楽に町まで?
まさか、そんな。
いえいえ、違う川かもしれないじゃないですか!
うん。
考えないようにしましょうね……。
と、と、とりあえずの問題として、町には普通に入れるのでしょうか?
入口には関所があったり、門番みたいな人が居たりするのでしょうか?
さすがにそんなに詳しくはオルガに聞けてません。
お金払って通してもらえるならいいのですが、通行証みたいなものがいるのであれば別の手を考えないといけません。
でもまぁ、そこはなんとでもなりますね、にへらぁ。
などと町の様子を眺めながらそんなことを考えていたら、後ろから騒々しい音が聞こえてきます。
何でしょうか?
振り向いて見れば……、おお、荷馬車じゃないですか!
ちょっとぼろっちい荷馬車がこちらに向かい、砂塵を巻き上げてそれなりの勢いで走ってきます。
くうぅ~。
もう少しタイミングが早かったなら、森の中で乗せてもらうとか出来たかもしれないのに~。
くやし~。
それはともかく、馬車を通すため脇にささっと避けます。
ヒズメが地面をける音やガシャガシャキシキシ色々騒音をまき散らしながら荷馬車が通り抜けます。
幌付きの荷馬車です。
私も簀巻きにされてああいうのに放り込まれて運ばれたんだよねぇ……と、感慨にふけってたら馬の嘶きと共に急停車しました。
なにがって、馬車が。
御者の人が下りてきました。
でっかい人です。
この人もローブを纏っています。
砂埃もあるし日差しも強いですからね。必要でしょう。
嫌な魔力も感じませんし悪い人ではなさそうです。
私の真ん前まで来ます。
ええ?
やたら上背のあるその人は、おもむろに腰をおると、フードで覆われている私の顔を覗き込んできました。
「え? ええっ?」
目が合いました。
相手の目が細まった気がします。
そして両脇下にガツンと衝撃を感じるやいなや、私の目線はグゥ~ンと一気に高くまで上がります。
「はっはーっ! やーっと追いついたぜ、このᛟᛏᛖᚾᛒᚨ嬢ちゃんめ~!」
さすがの私も唖然として、その声の主を見下ろします。
そう。
私はぐいっと一気に持ち上げられ、高い高~いをされたのです。
くぅ、元サラリーマンおじさんが、高い高い……。
はっ。
今はそんなことはどうでもいいのです。
「お、おるがさん、です……か?」
そう、声の主の正体はオルガさんでした。
フードが外れ、肩まで届くには少し短い豪奢な金髪が風になびいてます。
翠色の目がちょっと咎めるように私を見ています。
「そう、オルガさんだ! ミーア、お前ってやつは、ほんとやりたい放題してᛏᛟᚾᛉᚢᚱᚨこきやがって、この。……まったく」
高い高いから今度は片腕抱っこにポジションチェンジされ、頭をグリグリと勢いよく撫でられました。
相変わらずの力加減で威力たっぷり。
それもう撫でるとは言わないから!
頭の中のスライムがちゃぽちゃぽいいそうです。(いや、あくまで比喩ですけれども)
「うわぁ、やっぱりミーアちゃんだった? もう、ミーアちゃん、心配したんだからね! 一人であんな危ないことしちゃだめだよー!」
今度は荷馬車からドリスが飛び下りてきて、駆け寄ってくるなり叱られました。
そりゃいますよね、うん。
どうやら見捨ててきたはずの二人と、期せずして再会してしまったようです。
どうしましょう?




