〘二十八話〙ミーア、タイマンバトル?
「なんなんだ、あのくそガキは!」
俺は今もアジトの広間で猛威を振るっているだろう、忌々しい襲撃者を思い浮かべ悪態をついた――。
事の始まりは隊商襲撃成功を祝い宴を開いてる最中、肌身離さず付けているサークレットが反応したことだ。
そいつは魔道具のサークレットで、魔力紋を登録していない魔力が使われると、振動し装着者に知らせてくれるって代物だ。振動の強弱で大雑把ではあるが魔力の強さも知れる。この振動はうざったくて仕方ねぇし、値が張った割には感知範囲もたいして広くもないが命には代えられねえ。
あとは俺自身、風属性の中級三位の実力を持ってる。これでも野盗に落ちぶれる前は……って、くっそ、んなこたぁどうでもいい。
とにかく使える魔法の中にウィンドセンスがある。
俺は魔道具が振動し未登録の魔力が使われたことがわかるやいなや、その魔法を使った。俺の実力じゃ探索範囲は広くねぇがアジトで使う分には十分すぎて釣りがくる。
案の定、微弱だが魔力を使っている奴がいた。
どこのどいつか知らねぇが、こそこそとアジトの周りをうろついてやがったが、今はこっちへ向かってきてやがる。見張りの野郎共はどうした?
広間の前まできたと同時、俺はでけぇ声で言葉をかけてそいつの動きを止め、機先を制して壁越しでも構わず風魔法による攻撃を仕掛けた。
当たるとは思わなかったが、くっそ、完全に避けきりやがった。見えてないはずなのに小癪な。
そのまま突っ込んできやがった!
思い切りがいい野郎だな、おい。
つうか子供? 年端も行かねえガキじゃねぇか!
「くそくそくそ!」
俺はシャープエッジを連発した。なのにそれを全部避けやがる。
シャープエッジは出が早くて見切りも難しいから避けるのは相当難しい魔法なのによ。
野郎共も切りかかっていくが、やたらすばしっこくて難なく避けやがる。普通おめぇみたいなガキはビビッてしょんべんちびって終いなんだよっ!
仕方ねぇ、仲間も巻き込んじまうが範囲魔法を使って奴の足を……、
「くあっ」
サークレットが馬鹿みたいに震えやがったからつい声を上げちまった。なんなんだよ、おい。
あのくそガキ、やたらデカい魔力を練り上げてやがる!
「ちぃ」
俺はとっさの判断でいざという時のために用意してある隠し扉に飛び込んだ。こいつも魔力登録したやつだけが通り抜けられる魔道具も兼ねていて、くぐり抜けた先は外へと繋がってる。
野郎共に声をかける余裕も、気に入ってる女を連れ出す余裕もなかった。
背後から、そんな野郎共や女たちの叫び声と共に凄まじい破壊音が聞こえてくる。
いったい何が起こってやがるんだ?
くっそ、あのガキ、容赦なさすぎだろ!
俺はそう思いつつも今は逃げることに集中するしかなかった――。
隠し通路の先、水車の裏側の川っぺりに出た俺はとりあえずの一息をつく。
腰まで水に浸かってずぶ濡れだが仕方ねぇ。
なんとかあのガキが唱えたやばい魔法から逃げおおせた。
なんなんだよ、あのガキは。
あんな幼子といってもいいようなくそチビが、なんであんな魔法ぶっ放せるんだよ。
詠唱こそ無茶苦茶だったが、ありゃ上級三位以上で使える魔法だろうが!
俺ですら死ぬ思いで一発撃てれば御の字の魔法を、ほんの片手間で放ちやがった……。
これからどうする?
あいつはたぶんペトリが攫ってきたガキだろ。
ったくよう、余計なトラブル引き込みやがって。生きてやがったら、鞭打ちの百や二百は食らわせないと気が済まねぇ!
……とりあえずはあれだな。
拉致ってある女どもを人質にして、あのガキを脅すなりなんなり抑え込むしか……って、
「ぬおぁ、痛ぇ!」
サークレットが、脳が揺さぶられるんじゃないかって勢いで激しく震え出した。
「みーつけたっ!」
俺の背後、水車の先、川の深い方から聞こえてくる幼子の高く甘ったれた声。
なんでそっち側にいるんだよ?
おかしいだろっ!
サークレットがうざいくらいビンビンに反応しまくっている。くそがっ!
「くらいやがれっ、尖刃、シャープエッジ、シャープエッジ!」
振り向きざまに二連射した。正直もう魔力がやばい。
「なにぃ!」
居ないだとっ?
後ろに居たはずだ! どうして居ない?
サークレットは変わらず激しい反応のまま。
「こっちだよー」
頭上から聞こえる声。
くそガキの声に慌てて上を見上げる。
「うそだろ、おい」
空中に浮いたガキがいた。
高いところから俺を見下した目で見てやがる。くそくそくそ!
どうなってやがる!
「舐めやがってぇ~! 吹き上げ散らせ、ライジングエアッ!」
どういう理屈か、空中で留まってるガキに突風を食らわせ、落ちたところをシャープエッジでぶち抜いてやる!
「うわー」
ガキめ、思惑通り体勢崩してそのまま落ちやがった。
「やったか!」
落ちたところを狙う!
「残念でしたー、おっちませんー。くふふっ、フラグいただきました~」
落ちたと思ったガキはまた空中で突っ立ち、俺の頭上近くで腕を組んでふんぞり返ってやがる。
わけわからねぇ。
くそがっ!
てめぇみたいなガキがそんな格好つけても滑稽なだけなんだよ!
だがこれはチャンスだ。
奴はもう目の前だ。俺の身体能力からすりゃ、十分手の届く高さまで下りてきやがったぜ。
俺は渾身の魔力を振り絞り、今出せる最大の範囲魔法を放つ。
逃がさねえ!
「指したる往く手を吹き裂き散らせ、ウィンドブラストォ!」
封じ込められた空気が破裂したかのような勢いで扇状に広がりながら、研ぎ澄まされた風の刃となってガキに襲い掛かる。
こいつはシャープエッジを束にして放ったかのように極悪だぜ。
すばしっこく逃げようが巻き込んで終いだ!
ひらひらな服着て、空中で無防備に突っ立っているガキが浴びればズタボロどころじゃすまないぜ。
くくっ、ざまぁみろっ!
「水の壁、ぶあつい奴、ウォーターウォール! からの~、氷の檻、お頭閉じ込めろ~、アイスケージ!」
「な、なにぃ!」
ふ、ふざけるな!
空中に浮いたままするすると後退し、ましてや川の水を噴き上げて盾にして防いだだと?
あの一瞬でどうしてそこまで出来るんだ?
どうやって空中を移動してるってんだよっ!
つ、つめてぇ。
なんだこれは……。
とにかく早く岸に上がらねぇとやべぇ。
周りがどんどん凍ってきやがる。
緩やかだが流れてる川なんだぞ!
それを凍らせるなんておかしいだろ!
どんだけでかい魔力持ってるんだよぉ……。
くそぉ、氷の壁まで立ち上がってきやがった。
み、身動きとれねぇ。
なんなんだ。
なんなんだよ、このガキは!
くっそ、ガキぃ……。
うそ……だ、ろ……、く、そ……がっ――。
「勢い余って氷のオブジェ完成~! でも、ちょっときたな~い」
***
お頭さん、凍り付いちゃいました。
川の中に直径三メートルくらいのケージに入ったお頭像が出来ました。
氷漬けになっちゃったけど、これって溶けた後、中のお頭さんはどうなってるんでしょう?
また動き出したりするんでしょうか?
細菌や微生物っでもあるまいし、それはないですかね?
ま、どうでもいいですね。
「魔法もだいぶ慣れました。要領掴んじゃった感じです、よきよき!」
さて、お掃除も終わりましたし、当初の目的のブツだけ頂いてトンズラしちゃいましょう!
長居しても面倒くさいだけですしね。
後始末は人に押し付けです。
ふふっ、これで町に行っても何とかなりそうです。たぶん。
楽しみです!




