〘二十一話〙戦いのあと、それぞれの思惑
これはちょっとまずいのではないかしら?
どう誤魔化せばよいと思って?
絶賛現実逃避中のスライム娘、ミーア十歳です。
ミーアボディの両目、ついでに両耳共にもぶっ壊れてしまいまして絶賛修復、いえ、治癒中です。
吹き飛ばして屋根がなくなった部屋は外の日差しが遠慮なく差し込み、爆炎により負ってしまった火傷をいやでも刺激します。お肌の治癒も進めないとだめですね。
グロ注意。
う~ん、見れば見るほど壊れ方がひどい訳ですが、これどうすればよいでしょう。
やっぱ怒られますよね?
「逃げちゃおっか……」
魔法も使える目処が立ち過ぎましたし、人付き合い苦手だし。なんかこの後どうなるかとっても不安だし。
ああ、でも私、十歳。
幼女だし、まだ会話だってたどたどしいし。わかんないふりして、しらを切り通しますか?
はい、無理ですよね。
困りました……。
それとちょっと、どうしましょう。
なんだかとっても眠いです。
この体が異常に眠りを欲してます。
スライム体までつられて活動が鈍くなってきました。これじゃ治癒がはかどらないじゃないですか……。
こんなことは初めてです。
ふむぅ、やっぱこれってさっきの魔法のせいかしらん。
レセプタ、魔力受容体から魔力が一気に引き出され過ぎた、せい、ですか、ね――。
ぐぅ。
***
「生き残っている個体は無し。飛び去った三頭についてもレナートのウィンドセンスの探索エリアから外れたままです」
「うむ、ご苦労。これでひとまずは落ち着いたか……」
そこかしこに点在するワイバーンの死骸。
止めを刺し切れていない個体がいないか確認させていたヨアンが戻り、問題ないとの報告を受けたことで、不本意ながら始まったソルヴェでのワイバーン戦は一応の終了をみた。
あくまで一応だ。
俺はワイバーン撃退の任が終了したにもかかわらず、気が抜けない状態が続く要因となっている警備隊の仮詰め所を見やる。もう詰め所跡と言った方がいいかもしれんが……。
ワイバーンとの分の悪い戦闘が続き、籠城しながらでも勝機を見出そうとしていた矢先、あの驚くべき事態が起こった。
目もくらむばかりの閃光と共に、天にも届きそうな勢いで立ち昇った火柱と凄まじい轟音。おかげで詰め所の屋根は完全に吹き飛び、家屋自体も今にも崩れ落ちそうなほどのダメージを負っていた。
ただ、幸運なことにその激しい炎の奔流にまかれ、ちょうど詰所上空を旋回していたワイバーンが二頭巻き込まれ、跡形もなく消滅した。消し炭すら残らなかっただろう。
更にはそれに驚いたワイバーン三頭がこの場から飛び去り、残った二頭も火柱と轟音により少なからずのダメージを負っていたおかげで、それを倒し切るのは容易なことだった。
結果、七頭を残していたワイバーンのうち、飛び去った三頭を除き、すべて打ち倒すことが出来るという僥倖を得、今に至るという訳だ。
「さて、ヨアン。この事態の説明が出来るものならぜひ聞きたい。あれはいったいどういうことだ? 何が起こった? すぐさま検分したいところだが、我々が近づいて大丈夫なものなのか?」
俺の疑念の言葉に苦笑いを浮かべるヨアン。奴にしては珍しいことだ。
「あー、そのですね、実はです。あの詰め所には一人残っていた人物が居たのですが……」
随分歯切れが悪いな。
よほど説明なり、言葉にしにくいことでもあるのか?
「一人残っていただと? 確か今戦闘は全警備隊員の参加をもって行うのではなかったか?」
職人ギルドの連中八人を守りながらのワイバーン戦、人を遊ばせる余裕などなかったはずだ。
「はい。それはまぁ、そうなんですが。色々事情がありまして……」
本当にどうしたヨアン。
いつもの理路整然としたお前はどこへ行った。しかも後ろにいるアンヌまであたふたしているではないか。
「もういい。とりあえず検分に入っても問題はないと思っていいんだな? 時間が惜しい、行くぞ」
「えっ、あ、はい。お供……、いたします」
俺の言葉にヨアンが一瞬あきらめたような表情を浮かべたことを、俺は見逃さなかった。ふん、何を隠しているのか知らぬが……、しっかり確認させてもらおうではないか。
***
ああっ、スヴェン隊長が詰め所の方に向かっていく~。
ヨアン副長の役立たず~!
ワイバーンの確認に隊長を一緒に連れていってくれれば、その隙にミーアちゃんの様子を先に見に行けてたのに。
さっきの凄まじいばかりの火柱……、絶対ミーアちゃんの魔力が何らかの原因で暴走したに違いないのに。
インタナルスキャンで見たミーアちゃんの魔器官の魔力溜まりとその濃度、それに全身を巡っていた魔力を思えば、あれくらいの魔法発現はあったとしても不思議ではない。
副長はああなる可能性を恐れて、ミーアちゃんの魔器官の活性化を許してくれなかったわけで、スヴェン隊長が来てからその扱いをどうするか相談する予定だった。
ミーアちゃんの魔器官はどうして活性化されてしまったのだろう?
普通、他者の介在なしに活性化することなんてあり得ないはずなのに……。
小さな身体に見合わない体内を循環する膨大な魔力といい、色々謎なところが多すぎるミーアちゃん。
どうやって樹海で生きていたのかも、未だ確認できていません。
そんな訳で早く会話レベルを上げるよう副長につつかれてます。ずる賢い副長は一見受け入れてくれたように思えますが、未だに警戒を完全に解いてはいないのです。
普通の子供じゃないことは私だってわかってます。
それでもまだ十歳で、しかもその歳にすら見えない幼子だという事実に違いはありません。
だからスヴェン隊長やヨアン副長の魔の手から私が守ってあげないといけないの!
もちろん出来る範囲で、だけど……。
そんなことを考えている間にもどんどん先に歩いていく隊長たち。
私は置いていかれないよう慌てて駆け寄り、まずは中のミーアちゃんの様子を確認しなきゃ……と、そう思うことくらいしか出来ない自分に歯がゆさを覚えるのでした。
***
「わかってはいたが、これはまた、ひどい有様だな」
元村長宅だった詰め所は外観同様、ひどい様相を呈していた。
ただ、奥に進んでいけば比較的破壊から免れている場所があった。
食堂の奥にある小部屋。ドアは吹き飛んでいてすでになく、中の様子も窺えた。
アンヌはともかくヨアンまでも、あからさまに表情を変えた。
「ミーアちゃん!」
普段控えめなアンヌが俺を押しのけるようにその部屋に入っていく。
ほほう、よほど気にかけているもののようだな。
それにしてもミーアだと?
そんな名前の者は隊にはいない。しかもまるで子供を呼ぶように……。
古びたベッドに小さな人影があった。ベッドの周りは周囲の荒れように比べれば比較的、破壊された様子は少ないようだ。
ベッドに横たわっているものは、女の幼子のように見える。
淡い紫色の長髪を乱れるがままにして横たわっている幼子は、我々が入り、アンヌが泣きながら介抱をはじめても動く気配を全く見せない。
幼子は肌が赤く腫れ、しかも所々焼け爛れた箇所さえあり、更には両目、両耳から血を流し気を失っているのだった――。




