68話 メディア
これから攻略庁ダンジョンの完全攻略に向けての井戸端会議が行われるらしい。
ダンジョン前で井戸端とか笑えない。
リヴァドラムはいつものように私の頭の横をふわふわと飛んでいる。いつも笑顔なのはご愛嬌。
連日メディアが報道してる中で、井戸端会議やるってどうなってるんだよ頭の中。
発案者誰?
「あ、ユーキ。こっちだよ」
レイヴィス!
「あ、ユーキちゃん。久しぶりだね」
トディン!!
「ユウキか」
ザザバラ!!!
「アルマッティ! 人外呼ぶなんて聞いてない!」
アルマッティ(犯人)はヘラヘラ笑いながら、ダンジョンを指差す。
「スピード攻略のために」
「ボスとかいなかったじゃん! 安全確保だけでいいじゃん!」
ダンジョン化解除だけなら、レイヴィスだけで十分なはず。こんなにも大掛かりにするとメディアが寄って来るんだからね!
「トディンは完全にアウトでしょ………」
「今回はかなり危ないらしいからね」
トディンは平常運転で呟く。
「ダンジョンにボスが現れたそうだよ」
「はぁ?」
「かなり危ない奴らしくてね。斥候のアルマッティが」
私はアルマッティを睨む。
「一人で倒して来い、お前ぇえええ!!」
ボスまで覗いておいて倒さずにとっておく馬鹿がどこにいんの? 強いんだからやっちまえよ!
「斃すのはちょっと………」
アルマッティはレイヴィスを見た。
「今回のボスは元〈暗所街〉の王、グラスギルドです」
トディンはやれやれというように首を振り、オルトは頭を抱え、レイヴィスは拳を無言で握る。
対して、私は首を傾げた。
「ちょっと殴ろう」
「賛成」
「駄目です。彼には協力してもらわないと」
味方、なのか?
「味方なんです。彼は遊び心が有り余ってるタイプでして」
「遊び心でボスに? それなら、交渉すれば」
「それが………」
「寄生オーガだよ」
私はびっくりして振り返る。
そこにいたのは、いるはずのない冒険者。
「カナ! レオ!」
「呼びました」
アルマッティが覚醒してんだけど。
つまり、不正入国ですねわかります。
「安心しろ。S級冒険者に国境はない」
「ふざけんな」
というか、なぜ異形集団にビビってない?
コイツら肝すわり過ぎだろ。
私はリヴァドラムを抱きしめて、頬を膨らませる。
「そんで、何をしたらいい?」
「あ、はじめまして。ユーキの母です」
「え、あ、どもっすー………」
「ふーん。君がレオ?」
「はい」
「ザザバラよりマシかな」
「お前失礼だな」
初対面のくせに! くせに!
レオはキョロキョロと辺りを見回して、ある一方を指差した。
全員の視線がそちらに向く。
カメラの、レンズ?
「懲りないよな、アイツら」
メディアか。
新聞、テレビ、ネット記者。
花鹿の一件で多くの犠牲者が出た。
それでも彼らはスクープを追い求める。
まるで、ハイエナの魔物だ。
「どうする?」
レイヴィスがこっちを見てきた。
「あ! 遅れましたー…………」
麗華が【ゲート】を開いてやって来た。
メディアが動揺したのを感じる。そういえば、一枚噛んでたなコイツ。
「まずい?」
「かなり。だが、問題はない」
レオは剣を抜いた。
「それで? グラスギルドは倒さないでいいんだな?」
「はい。レオさんが言ったとおり、彼は寄生オーガの宿主になっています」
確か、44層ボス。
ブライトとレオが討伐したという、謎多きモンスター。
そして、今、ブライトはいない。
「どうするの?」
「レイヴィス様がいれば大丈夫です」
「え…………私?」
「それなら俺らを呼ぶ必要はないはずだ」
レオの鋭い質問に、アルマッティは目をパチパチとさせた。
この人、S級冒険者を舐めてやがるぜ。
「そうですね。では、なぜ呼んだと思います?」
レオはメディアを見た。
「アイツらを牽制するため。S級冒険者がコイツらみたいな化け物と一緒にいれば、国民は安心する」
「いかにもお偉いさんがするような小狡い手だ」と、レオはため息混じりに呟いた。
なるほど。
私一人では安心材料として薄いけど、他にも呼べば説得力は増す。あれ、でも。
「私達、政府に響木が死んだって」
「それは、私も一枚噛んでるので」
アルマッティは、政府にはすでにある程度の事実は伝えてあると言った。
S級冒険者が国民の不安を煽るのを避けるために嘘の情報を流すように言ったとも付け加えたようだ。
あ、これ、アルマッティ一人が嘘つきになってるわ。
この人が攻略庁建てたのって、こういうときのためだよな。仕事のできる女は違う。
「つまり、メディアには伏せられていた情報ってことだな。俺たち、もう警戒されてるんじゃないか?」
「それはあり得ると思う」
今まで黙っていた麗華が口を開いて、チラリと記者たちの方を見た。
それだけで、一部の記者は顔を青くして顔を顰める。
中には苛立ったように私を見てくる者もいた。
「私は、もうモンスターだし。人もたくさん殺したから」
「それは俺たちもだ」
オルトが素早く答えた。琴音も頷く。
「麗華さんが気に病むことでもありません」
一周目は、誰かが誰かを殺すことが日常だった。
二周目はそれとは少し違うだけだ。それに、麗華はちゃんと戻ってきた。
「でも、私たち異形が警戒されてることに変わりはない。一周目とか、そういう話を持ち出すと面倒だし、忘れ去られた人と異形の物語を持ち出すのも億劫」
レイヴィスの言葉に、トディンが「ああ」と呟いた。
「それこそ、レイヴィスさまがどうにかできるのでは?」
「やめてよ。私はそこまで深入りする気ないよ」
レイヴィス、さま?
度々、堕天使を含めた異形たちはレイヴィスのことを「さま」付けで呼ぶ。
昔の英雄で、裏町を作ったにしては尊敬を集めすぎている気がする。
「トディントディン」
私は小声で話しかけた。
「なんだい?」
「レイヴィスって、ほんとは何者」
トディンがそれに答えようと口を開いた瞬間に、それを止めるかのようなタイミングでレイヴィスが大声を上げた。
「今回は寄生オーガの討伐及び、元〈暗所街〉の王グラスギルドの救出を目的とする。異形も人間も、お互いを信頼し合い、仲違いをしないように」
レイヴィスはトディンを睨みつけた。
トディンは悪びれた様子もなく、澄ました顔でレイヴィスを見つめ返す。
「絶対に、一人にならないこと。ペアを作って、必ず一緒に行動すること。万が一、寄生された場合は私を頼るか」
レイヴィスは真顔で続けた。
「その場で殺すこと」
レオが私の近くまで歩いて来た。
「俺と組もうぜ」
「いいよ」
麗華もザザバラと組むみたいだし。
というか、私ってレオに「好き」って言ったっけ? レオも、私のこと異性として意識してないよね?
さっきの会話ってどういう意味だ?
「ねえ、レオ」
「ヤバい。誰と組めばいい?」
カナが焦ったように口を開いた。
私達は辺りを見回す。残っているのは、ただ一人。
「私と」
カナは嫌そうに顔を顰めた。
彼女の名前はパーミア。
討伐組合の一人にして、裏町の元奴隷。特技は料理。
私が初めて会った時はかなりの美少女だったが、今はただの幼女だ。
小さな体には似合わない大きめの剣銃を背負っており、目は鋭く、不気味な光を帯びている。
「初対面………だよね」
「はい。私はパーミア。料理人です」
「どういう意味?」
確かに、変な意味にもとれるけども。
カナは恐ろしそうにパーミアを見つめている。対するパーミアは冷静な表情を少し怪訝そうに顰めた。
「私では実力不足ですか?」
「あ、いや、うーん?」
パーミアは結晶を取り出す。
使い捨ての【鑑定結晶】だ。かなり高価なんだけどな。
《種族:デミヒューマ
レベル:---
名前:パーミア
スキル:【解体】【必中】【連射】【無限装填】【ラグ】
装備:綺麗な服
高価な革のブーツ
剣銃 ランクS
回復のポーション
所属:討伐組合
足跡:アスファ
称号:【反逆者】【冒険者】【料理人】【堕天使殺し】》
「これでも不足でしょうか」
「デミ、ヒューマ?」
パーミアは「ああ」と呟いた。
「裏町の奴隷人間は、表世界の人間とは少し違うんです。普通の人のように明るい生活を送れないので。………偽物の人間なんです。我々奴隷は家畜ですので」
カナはパーミアを見つめる。
「悲しくないの」
「はい。私はオルトに言われた通り、堕天使を殺して役に立って、それだけです」
パーミアは討伐組合唯一の人間奴隷だ。
主人に逆らって討伐組合に入った理由は知らないが、一周目から他者とはあまり関わらない、仕事人のイメージが強い。
レイヴィスか討伐組合幹部の命令しか聞かないし、なのに料理は勝手に作るし、意外と好かれてるとは思う。
「本当に? やりたいこととかないの?」
「………………」
パーミアに迷いが生まれた。
「デミヒューマには、言葉がありません」
生まれすぐに、“出荷”されて食用として育てられるか、奴隷として育てられるかが判別される。
そこに言語はなく、簡単な命令と動作を教わるだけだという。
主人によっては教育を施されたり、“特別な”仕事を任されるが、基本的にデミヒューマは言葉を発さない。
パーミアは異端児だったという。
裏町に迷い込み、空腹に耐えれずに倒れたオルトにパンをこっそり差し出したそうだ。
後で叱られるとわかっているのに、『たべて、いいよ』と拙い言葉で確かにそう言った。
「私は、デミヒューマを解放したいとは思いません」
「え?」
カナは真剣な顔のパーミアを見る。
デミヒューマがいなくなれば、人間を食糧とする異形が困るからだ。昔から、そういう食用に育てられる人間は少なからずいた。
何も知らないデミヒューマは都合が良いのだ。
「私は、奴隷です。仕える主は討伐組合です。だから、主に死なれたら困ります。それが、私の戦う理由です」
カナの隣にカイモが現れていた。
かつて目があった穴の奥に不気味な赤い光だけが輝いている。何が見えているんだろう。
カイモには、パーミアがどう見えているんだろう。
「ギャァア」
カイモはカナを宥めるように横腹に額を押し付けると、そのまま半透明になっていき、じきに消えた。
カナはため息をついて、手を差し出す。
「よろしく、バディ」
「…………よろしくお願いします」




