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65話 共謀

「ザザバラ」

「本物の王に向かってなんだ、裏切り者?」


 ナイトメアはバッとアルマッティを振り返った。


「みぃ! 契約を!」

「……………【再現】→【崩壊】」

「ほう?」


 ザザバラは楽しそうに笑う。

 突如、ザザバラの後ろに控えていた吸血鬼のほとんどが灰になって消える。


「雑魚を消したか。良い判断だな」

「ありがとうございます」


 アルマッティはナイトメアをそっと抱き上げた。


「どうする気ですか?」

「もちろん、殺す」



     ☆☆☆



 さっきから上の階の戦闘音が物凄い。

 アルマッティが頑張っているのはわかるが、敵の多さもわかる。


「急がないと」

「でも、敵が誰なのかわかりませんよ」

「ARマシンさえ有れば、情報も集められたのでしょうが」


 糸部咲撫(いとべさかなで)の声に皆んながため息をついたその時だった。


「いったー!」

「キュ!?」


 天使だ。二周目では初めて見たかもしれない。

 明らかに幼い見た目で、翼は二対。つまり、ラグナロクと同じ。


「私はカノン。現世担当の天使です!」

「直接参戦する気?」


 普通に世界とか崩壊しそうなんだけど……。


「え、違う」

「あ、違うんだ」


 カノンは嬉しそうに、そして、悲しそうに言った。


「エクリプスが、戦ってます。急いで行ってあげてください! 私の【ワープ】を使っていいので!!」


 エクリプス?

 ラグナロクやカノンと同じ特別な天使の一人だろうか?


「お願いです! 相手はあのザザバラで……」

「ザザバラ!?」


 私はオルトと琴音を見る。大丈夫だろうか?

 いや、待てよ。一周目でアイツを殺したのはオルトだったな。


「オルト、行こう。もう一度奴をぶっ飛ばしてやるぜ」

「待て、早とちりするな」


 オルトは冷静だった。


「マロニエが可哀想だろ」

「それに、麗華さんのこともあります」


 琴音の援護射撃も喰らった。


「え、つまりマロニエを連れて行けばいいってこと?」

「連れて来ようか?」


 カノンが聞いてきた。

 何だよこの天使、マジでいい子やん。


「お願いできるか? 急いで欲しい」

「時間稼ぎもしないとね」

「問題があるとしたらクールタイムかも」

「レイヴィスがいるから【時間短縮】を使ってもらって」

「え!? む…………レイヴィスさまが?」


 む?

 というか、レイヴィス“さま”?


「【ワープ】!」


 カノンは私達をワープさせると、すぐに下へと飛んで行った。


「あの天使マジかよ………」


 私達はとある部屋にいた。

 そこには、大量の血が飛び散っていた。

 偉い人が座るような執務机の上に、ぐったりとした人影を膝に置いて手首から血を舐めている吸血鬼の姿があった。


「アルマッティ?」


 ザザバラは楽しそうに笑った。

 彼の足元には、ズタズタにされたナイトメア。

 そして、この部屋一面には、灰が舞っている。


「惜しかったなぁ。敵の数が多かった」

「その手を離せ」

「【黒ノ門】を開けたレイヴンズには、後でお仕置きをしないとなぁ?」


 ザザバラはアルマッティの手首を思いっきり噛み砕いた。

 ゴリッという嫌な音の後に、アルマッティの苦痛の叫び声が聞こえた。


 嘘だ。

 アルマッティはあんなに強かったのに。


「一周目で暴れたのは、結局この悪魔と契約していたからだ。悪魔のいないこの女は、戦力にすらならない」


 そっと金色に輝くスキル結晶を持ち上げて付け足す。


「たとえ力に目覚めても、このザマだ」



「そこまでです。父上」



 ザザバラの瞳が揺れた。

 私達の後ろに立っていたのは、綺麗な制服を見に纏った赤毛の吸血鬼。


「マロニエ?」

「間に合ったぁ」

「お疲れさま、カノン」


 レイヴィスもいるみたい。良かったぁ。


 安堵した私とは裏腹に、レイヴィスはザザバラの膝の上で横たわるアルマッティを見て表情を変える。


「わかってて、やったの?」

「当たり前だ」


 カノンの表情も険しくなっていく。


「やめてよ。ザザバラ、もう十分でしょ」

「何が? この女は、俺の部下を殺したんだぞ? そこの悪魔と共謀してな?」


 そして、私は気づいてしまう。

 信じたくない。アルマッティだって、きっとそうだ。




 ナイトメアは、もう死んでいた。




 レイヴィスは気づいていたんだろう。


「この女が欲しいか? 英雄さま?」


 ザザバラはアルマッティの首に手をかけた。


「お前にアルマッティは殺せない」

「試すか?」


 ザザバラは剣を抜いた。











「…………【再現】→【地獄ノ門】」




「……………………みぃ?」





 ザザバラが乾いた笑い声を上げる。


「馬鹿にした? あたしのこと」



 すぅうううとザザバラが持っていたアルマッティが消える。

 現れたのは、黒い髪の男とその男の側に控える大人しそうな見た目の綺麗な天使。

 翼は二対。

 でも、ラグナロクやカノンよりも美しいと感じた。


 …………声がアルマッティなのはなぜ?



「遅いよ、死神」

「え! 死神!?」


 見たら死ぬとかないよね?


《迎えが遅いんだよ》

「あっ! あたしのせいにするんですね!」


 アルマッティの声でその口調はもはや笑いを狙っているとしか思えないんだけど。

 見た目違うし。


「嵌めたのか!? エクリプス!!」


 エクリプスと呼ばれた天使はニコニコ顔で、姿を変える。

 それは紛れもなくアルマッティだった。

 ナイトメアがすっと彼女の肩に乗る。


「わたくしが、そんなことするわけないでしょう?」

「エクリプスはすると思う」

「エクリプスならできるね」

《お前さんは割とへーきでするよな》


 全方位から否定されましたけど!?


 私はジロリとアルマッティ…………エクリプスを見た。

 わたわたとオルトや琴音を見て、吹っ切れたようにため息をついた。


「騙される方が悪いかと」

「急にアルマッティになるな」

「ほんっっとうっさいなぁ!!」

「エクリプスの記憶が急に戻って来たせいで精神が安定してないんだよ。今怒らせると後が怖いからそっとしておこう」


 レイヴィスの冷静な解説に一同が微妙な顔をする中、アルマッティだけは気まずそうに目を逸らした。

 図星だったらしい。


 ザザバラは不快そうにマロニエを見た。


「父上。もうやめにしましょう。勝てるわけありません」

「部下が殺された。それに、この天使共には散々」

「吸血王」


 アルマッティが死神をチラリと見た。

 死神は苦笑すると、頷いた。

 良い人そう? 堕天使は元々は死神や邪神の天使だったって聞いてたから、てっきり敵だと思ってたけど。


「貴方の部下はわたくしが〈吸血街〉へ帰しました。誰一人、死者はいません」


 ザザバラは脚を組んでアルマッティを見た。


「それが嘘だったら?」

「我が神と、貴方の神にも誓いましょう」

「そうか」


 ザザバラは悲しそうに死神を見つめた。

 何となく、わかった気がする。


「ルシフェルは大嘘つきだった。記憶の神が、我が神を陥れようとしていると聞いて、何も考えずに言いなりになった」

《お前さんは若かったし、頭も堅かったから仕方ないよ》


 死神は優しく微笑む。


《怒ってない。一緒にルシフェルを》

「あ、待って待って」


 急にエクリプスに戻ったアルマッティは死神を制した。


「このままザザバラを味方にすると、敵の本陣にいる麗華が浮いちゃうんだよね」


 レイヴィスがハッとしたように顔を上げる。


「ザザバラ。危険だけど、一旦戻ってもらえる? あのフェンリル達に、あたしの死体を見せつければ、納得されるし」


 ん?


「敵本陣に乗り込むの? 馬鹿なの?」


 レイヴィス、辛辣過ぎるよ。

 確かに、エクリプスはお馬鹿キャラかもだけど。アルマッティとは真逆だけど! それ、アルマッティだから!!


「相変わらず想像力がないなぁ」

「後で覚えておけよ」


 カノンの顔が青くなったのは、見て見ぬフリをしておこう。


「荒らすくらいいーじゃん。大丈夫、宣戦布告だよ。〈吸血街〉には手を出すなってこと」

「あたしも、みぃといくよぉ」


 ザザバラが難しい顔をする。


「だが、死体ではないとすぐにバレるぞ」

「頭が堅いのは、今も昔も変わらないのかな?」

「あぁ?」


 さっきから喧嘩売りすぎ!!


「あたしを誰だと心得る? あたしはエクリプス。再現を司る特級天使」

「自分で言うとカッコ悪いぞー」


 オルトの野次を跳ね除けて、エクリプスは自信満々に呟く。


「死体になるくらい、特技よ!」

「一度死んだ奴が言うとシャレにならないんだけど」


 アルマッティがネタキャラになっちゃった………。

 多分、今まで会った天使の誰よりも強くなったけど。


 早く元に戻ってくれー。

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