53話 ラドンと醜い天使
龍星群の放った【ブレス】をゼールの【リフレクト】が弾いた。
さすがの一言だ。やはり、二周目だと何かが違うのだろうか。………ゼールと絡んだことないけどね!
「よし! 殺さない程度にやれ!」
「【貫通】」
「【女王蜂】」
「【かまいたち】」
「キュァアア!!」
「【星ノ剣】」
「………はぁ。【エンチャント】」
多分、アルマッティさんがダメージ調節してくれたね。さすがだね。
「るぉおおおおん!」
ラドンが落下して地面に横たわる。
危ねぇ。マジでギリじゃん。
「さてと、ラドン。話を聞いてもらおうか」
ようやく、ラドンの目がこちらを見た。怒りに燃えた目にはまだ闘志がみなぎっている。
「私はユーキ。レイヴィスの娘よ」
「…………るぉ?」
微かにラドンの目に迷いが見えた。やはり、コイツは。
「あなたは、堕天使?」
その時だった。
線路の向こうに光が見えた。
「魔導列車です! 隠れて!!」
「【蜃気楼】! 【ミステイク】!」
全員がなんとか隠れることに成功する。
予想通り、魔導列車はラドンの前で停まった。
「異形王の紋章です」
声を潜めて、アルマッティさんが呟く。
「情けないのぉ」
そう言って降りて来たのは、細身の白竜だった。
一目でわかる。コイツは、異形王ではない。なぜなら、異形王はこんなに小さくない。
レイヴィスから聞いた話だと、〈中央街〉の真ん中に建つ城に相応しい巨大で滅多に小さくなりたがらないと言う。
「るぉおおおおん」
ラドンのか弱い鳴き声を、白竜は見下ろした。
その目は恐ろしいほどに冷たい。
「人間の冒険者ごときにこのザマとは、貴様はそれでも堕天使かぇ?」
白竜は舌打ちをすると片手を振り下ろした。
「伏せろ!」
琴音を咄嗟に庇ったオルトの肩がパックリと割れる。
「貴様ら、覗き見とは良いご身分じゃのぉ。妾を誰と心得る? 跪き、頭を垂れよ」
オルト達はそれに従うが、私とリヴァドラムはそのままだ。
白竜が不快そうに鼻を鳴らした。
「貴女は…………」
「はじめまして。私はユーキ。レイヴィスの娘です」
白竜はそこでようやく、態度を軟化させた。
尻尾をイライラしたように降ると、オルトをチラリと申し訳なさそうに見て、再び手を振った。
たちまち、オルトの傷が治る。
「申し訳ありません。人間の冒険者は殺すのが決まりですので」
私は首を傾げた。
やけにあっさり。
「疑わないの?」
「疑う? 反転竜を従え、スキルで隠しているとはいえ、その耳と【死】の属性……」
あ、やべ。
「リヴァドラム」
「キュア」
私の属性が【生】へと戻る。
ふう。なるほど、アンデットだから私には攻撃して来なかったのか。
「ご無礼を。虫に黄金が混じっているなど考えないでしょう?」
「うん、まあ」
しれっと、オルト達を虫扱いしてんだけど。
「わたくしは、異形王の娘である【神聖竜】ハクアです」
ハクアは困ったように私を見つめた。
なんか、嫌な予感が。
「レイヴィス様はどちらにいらっしゃいますか?」
「〈暗所街〉に」
「………是非、伝えて欲しいことがございます」
白竜改め神聖竜は、小さな尻尾を不機嫌そうにブンブン振った。
「我が父、異形王は“サバイバー”共と理想郷を作るつもりです」
ああ。レイヴィス。
奴隷さんが寝返ってますけど?
☆☆☆
「アスファー」
黒く、醜い獣はギロリと声の主を睨んだ。
赤い目をぎらつかせて、運んでいた荷物を一旦地面に置いた。
声の主………アポカリプスはとことこと無神経に怒れる猛獣の前まで来ると、汚れた布を取り出した。
「これ、綺麗にしといてくれない? ボク、こーゆー地味な作業苦手でさぁ」
「グルルル…………」
「そう怒んなって」
アスファは荷物をアポカリプスの前に差し出すと、布を加えて歩き出した。
「やれやれ、中級は大変だね」
アポカリプスはホッとため息をつくと、荷物に添えられているメモを読む。
「うげっ」
“死の神”と書かれたメモにアポカリプスは更に深いため息をついた。
アポカリプスとはあまり仲が良いとは言えない神だ。
しかし、現在、神の派閥争いはない。“サバイバー”の出現と、ラグナロクとレイヴィスの進言、そして、“ダンジョン”のクリアが大きい。
正直、争い事は嫌いだから大いに結構なのだが。
「アスファ、マジで大変だなぁ」
その大変さの理由が、アポカリプスの雑用であることに気づくことは、この先も決してないだろう。
アポカリプスは白い獣を見て安心する。
「やあやあアスファ。さっきはどうもありがとう」
「失せろ」
アスファは丸まって目を閉じた。
「昔はこんな乱暴な子じゃなかったんだけどなー」
そう言って様子を伺うが、アスファは無反応だ。
「お礼と言ってはなんだけど、特別任務持って来たよ」
「特別、任務………?」
嫌そうな顔をしてアポカリプスを見るアスファ。
どれだけ信用されていないんだ、とため息をついた。
「下界に降りて、レイヴィスに直接協力する天使が欲しいらしくてね。君を推薦したらアッサリ」
「!?」
アスファはぱっと立ち上がって、目をあからさまに輝かせた。この目は、かつて英雄と呼ばれた男のもので間違いない。
アポカリプスは満足そうに頷いた。
推薦を受けてもらえたのには、三つの理由がある。
一つは、単純にアスファが神に忠義を尽くしていたこと。
一つは、アスファがかつてレイヴィスと共に旅をしていたこと。
そして、最後は推薦者であるアポカリプスがかなり特殊な天使で、神からの信頼も厚いこと。
「いいのか? 本当に?」
「敵対はしないと思うし。行っていいよ」
白い獣はすぐに歩き出そうとしてやめた。
自分の体を見下ろすとその場に座り込む。
「?」
アポカリプスは首を傾げた。あれだけ会いたがっていたのに。
「今のオレを見て、彼女はなんと思うだろう」
「え、今更?」
「それに、オレは彼女と釣り合わない」
「それも、今更?」
すでに二人の間には子供までいる。
それなのに今更、釣り合わないと言い出されてもレイヴィスは困るだけだろう。
それに、レイヴィスがアスファを忘れているとは思えない。
「オレはどうしたら………」
「じゃあ、レイヴィス以外のとこに行けば?」
「レイヴィス、以外?」
「そう。例えば………ユーキとか、レイカとか」
アスファはすっと立ち上がった。
「そうだな………。そんなことは、会って考えるべきだ」
自分に言い聞かせているのだろう。
無理矢理にでも足を動かすべきだとわかっているのだ。
「ありがとう、アポカリプス。お前には色々うんざりしてたが、偶には役に立つじゃないか」
「お前、中級天使なのに頭が高いぞ」
「威厳がないアポカリプスが悪い」
中級天使でまともに話せるのは、一握りだけだ。
そのうちの一人であるアスファは、神からの信頼も、上級天使からの信頼も厚い。しかし、なぜか無派閥天使である。
おそらく皆んな、アスファはアポカリプス直属だと考えているのだろう。
ただのパシリのつもりだとは今更誰にも言えない。
気づいているのは、アスファくらいだろう。
「じゃあ、しばらくしたら報告に来るよ」
「うん。楽しみにしてる」
アスファの毛並みが黒へと変わる。この状態での会話は不可能だ。
黒い獣はアポカリプスに一礼すると、走り出した。
「いってらっしゃい」
ポツリと呟くと、アポカリプスは背を向けた。
「さて、会議でも行くかな」




