52話 星ガ降ル世界
「見えたっ! アレが線路だよ!」
遠くから咆哮が聞こえた。
「【ブロック】【ミステイク】」
「【神秘ノ光】」
私達は頭を庇う。
隕石らしき1メートルほどの大岩が熱を帯びて落下してくる。
しかし、ゼールの【ミステイク】のお陰で一度も命中しない。
《はぁ?》《嘘だろ?》《この規模の範囲攻撃はヤバい》
《それを受け切れるコイツらもヤバい》《強すぎ》
私は【ヴィクトリム】を抜く。
「覚醒した私の剣技を見たまえよ!」
「僕も合わせます」
ゼールは落ちて来る隕石に飛び乗った。
落ちて来る隕石を足場に上へ上へと登って行く。
「【聖剣】!」
敵の攻撃をめちゃくちゃに掻き乱す。
というか、ゼールはどうやって戻って来るつもりなんだろう。
「るおぉぉぉおおおおおん!!!!!!」
星の鳴き声が聞こえた。
ゼール目掛けて再び隕石が降り注ぐ。
「【蜃気楼】!」
「ここで切るんですね」
「なら、私もきっちゃおっかな!」
私は【ヴィクトリム】を構えながらニヤリと笑う。
「【スキルガチャ】!」
このスキルはチラつかせても問題ない。対策ができないからだ。数多あるスキルから一つを使うことができるようになる。
そこに法則なんてないし、クールタイムが終われば新しいガチャを回して別のスキルと交換できる。
《ナニソレ》《スキル増えた?》《覚醒してね?》《てか、ゼールくん強すぎ》《頭おかしい》
《スキル【範囲シールド】を一時習得》
《幸運値と引き換えに引き直しますか?》
ノー。
私はオルトに向かって頷く。
「おしっ! ゼール、叩き落とせ!!」
ゼールが空中で探検を抜く。
デッドクラックをチラリと見て頷いた。
「【リフレクト】!!」
今まで落下していた流星群が上に向かって飛んで行く。
同時にゼールも上へ急加速を始めた。
【蜃気楼】の一つが落ちて来て着地する。
「デッドクラックさん」
「了解」
どうやら【蜃気楼】同士の入れ替えもできるらしい。便利なスキルだな。使い方難しそうだけども。
「【見透かし】」
ぼんやりと影が浮き上がり、はっきりと姿を現した。
「あれが………」
【流星群】とは巨大な龍だった。
黄金の体の周りはキラキラと光の粒が散り、長い髭は威厳を表す。指は3本で、目は翡翠色。
「るぉおおおおおおん!!!!」
怒りのこもった雄叫びを上げて、こちらを見下ろす。
「完全に敵認定されたな」
オルトが面白そうに言う。アルマッティさんもウキウキ顔で「手応えあり」と呟いた。戦闘狂過ぎるだろ。
「【流星群】! 話を聞いて欲し」
流星群が口を大きく開いて力を溜め始めた。
【ブレス】だ。やはり、ここのボスは強いな。
「ロア! 【鑑定】!」
「…………」
ロアが走り出した。
私はブレスに合わせてスキルを使った。
「みんな! 集まって!」
全員がすぐに私の周りを囲む。
「【範囲シールド】!」
【ブレス】が放たれる。
眩しくて目を瞑る。再び目を開くと私達の周りの大地が抉れていた。
死体が見つからないわけだよ………。
《うけ、きった……!?》《ヤバいヤバいヤバい》《ここで配信終わってたよね!?》《てか、今まで空から光線攻撃だったやん!?》《S級冒険者やべー!!》
「ロア!」
「《種族:龍星群
レベル:211
名前:ラドン
スキル:【星ガ降ル世界】【ブレス】【星ニ願イヲ】【透明】【咆哮】【硬化】
称号:【星空ノ覇者】【異形王ノ守護獣】【星獣】》」
私はアルマッティを見る。
「ランクAまで下げます」
「了解?」
《嘘やん》《ロアたん喋った?》《【鑑定】ウルフ》《知的子ウルフで草》《声イカついんだけど》《まだ推せる》
再び星が降って来る。
これが、【星ガ降ル世界】か。
隕石を落とすスキルかな。あんまり脅威ではないようだが。問題は、クールタイムが明らかにランダムであるということ。
これは、【星ニ願イヲ】が影響している。
おそらく、命中率だ。
当たらないと、クールタイムが短くなるんだ。
質より量で攻めるタイプのモンスターらしい。
「ふっ、お子ちゃまね」
「急にどうした?」
オルトが呆れたようにこちらを向いた。
相手の攻撃手段は二つだけだ。【ブレス】のクールタイムは7分である。
つまり、問題は。
「誰か、アレに当たりにいかない」
「お前、オレらに死ねと?」
《オルトがタメ口になってるw》《何があったんだ》《優希さんが普通にしてるのウケる》《オルトヤバい》
「やっぱ、私がいくかー」
《馬鹿だろ》《死ぬぞ》《S級の防御力》《わくわく》
「いや、やっぱオレも行くわ。ゼール、【ブロック】よろ」
「了解しました」
「生還を祈るよ」
「OK」
琴音の応援(?)に頷いて、オルトは私の隣に並ぶ。
「私は正攻法で行くから」
「お前のは、どう見ても邪道だっつの」
リヴァドラムが私の肩に乗る。一緒について来てくれるらしい。
「リヴァドラム! 【反転】!!」
「キュア!!」
私の属性が【死】へと変わる。
これで、死ななくなった。
「ゼール!」
「【ブロック】!!」
私達は走り出す。
「いっぱい当たった方が勝ち! 負けたらコンビニの新作ケーキだから!」
「わかったよ! 子供舌!!」
《は?》《今、何起きてる?》《これさ、優希さん視点だから状況わからん》
現在、通常行われているドローンでの撮影ではなく、ARマシンに付属しているカメラから配信している。
つまり、私の見た目は事故らない限り見えない。
そんでもって、他の冒険者は周りにはいない。この騒動は見えているのだろうが、半径一キロ以内に入れば流星群の恰好の的だからな。
つまり、エルフ耳も隠す必要なかったね!
「リスナーの皆様! ARマシン、壊れまーす!」
《うそーん》《最悪やww》《討伐報告楽しみにしてます》
《死なないよなw?》《冒険者ってこんなんだったっけw》
そのコメント欄を最後に、配信が終わる。
私のARマシンが粉々に砕けたからだ。
☆☆☆
琴音は呆れた顔で自ら流星群にあたりに行く当たり屋達を眺めていた。
「私にはできない」
「ですね」
「わたくしもやりたいとは思いませんね」
「流星群を駆け上がる方がマシだ」
全員、優希の【範囲シールド】にて守られている。
ノーリスクで頭のネジが外れた冒険者を眺めていた。
「にしても、心配してて損したよ」
「何がですか?」
琴音の呟きに、アルマッティがニヤニヤしながら呟く。
「何も知らない時は、オルトとアルマッティが………」
「呼び捨てですか?」
「さすがに外じゃ猫被るから」
琴音は遠くに見える線路を眺めた。
「あの線路を伝って何十年も歩いたよ。アルマッティも、行きたかったんだろう?」
「ええ。オルトは鈍感で罪な男ですからね」
デッドクラックとゼールは肩をすくめた。
確かに、オルトは鈍感で罪な男だ。だが、もしかしたら。
「気づいてて、知らないフリをしてくれているのかもしれません」
「へえ。そんな器用なことできたかな」
「彼は、貴女以上に大人ですから」
琴音は黙る。
それはそうだ。オルトは琴音と違って最初からオルトだったんだ。あの時も、あの時も、琴村音々の知る志村透は全てオルトだった。
ずっと昔から、琴音のパートナーで、たった一人の愛する人。琴音だけがそれを知らずに生きていた。
「酷いことをしたと思うよ。結局、私は怖かったんだ」
全てを知った上でもう一度やり直すことが。
何も知らないオルトを、ただ見るだけの日々が。
そして、いつか来るであろう戦争を待つのが。
「私は臆病者だったんだ」
「それを言うなら、僕もですよ」
ゼールが星空を目を細めて見つめた。
「弱いから、戦うことを恐れていました。だけど、決めたんです。やっぱり、あの人の隣に並ぶには強くなくては」
琴音はオルトを見る。
そうだ。彼の隣に立つためには強くなくてはならない。
「なんか吹っ切れたよ。ありがとう」
「いえいえ。相談事ならいつでもどうぞ」
琴音は【龍星群】ラドンを見つめる。
当たり屋達に驚いているのが、遠目からでもわかる。
もう少しで、勝てる。
「【ブレス】を一度防がないと」
「【範囲シールド】はありませんからね」
全員の視線がゼールに集まる。
「まあ、それはそうなりますよね………」
【ブレス】を無効化できるのは、ゼールの【リフレクト】くらいだろう。
星が止んだ。
「行くぞ」
デッドクラックの低い声に再び冒険者達は走り出した。
ぐふ、休みが…………。




