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46話 すべてのはじり

 途中下車したカーバンクルは最後に双子に向かって、キスをした。

 別れを惜しむように一声鳴くと、夜の闇の中に消えて行った。


 哀奈(あいな)は目を瞑った。


「レイカも、目を閉じて」

「…………うん」





 ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン……………。




 ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン……………。




 ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン……………。




『次が終点となります。お乗りのお客様は、次の駅で降りてください』



 レイカが強く、哀奈の手を握る。

 もう、知っているのだろう。母親には会えないことを。



「フシュゥウウウウウウウ!!!!!」



 装甲列車の停まる音がして、哀奈は目を開ける。


「っ」


 見慣れた景色がそこにはあった。


「レイカは、目を閉じてて」

「わかった」


 全部、思い出した。

 そうか、そうだったんだ。


 装甲列車から降りると、再び「フシュゥウ」という音がした。

 耳に違和感を覚えてそっと触れると、尖っていた耳が丸味を帯びている。まるで、人間の耳のように。


 駅のホームの人々…………。






 否。








 駅にいるのは、異形だった。

 駅は日本でもよく見る作りだ。しかし、そこにいるのは紛れもなく異形だ。


 中には、魂らしきものが漂っていたり、奴隷らしき人間がいたりと、不思議なことになっている。


 この場所を、哀奈は知っている。

 そしてこの場所が、どうなるのかを、哀奈は知っている。







 駅を出ると、そこは自分が生まれて、育った町があった。

 哀奈はぎゅっとレイカの手を握ると、目的地に向けて歩き出す。


「お姉ちゃん、変な音がするよぅ」


 車の音が、飛行機の音が、学校のチャイムが、携帯の発信音が、町の放送が、全てが聞こえるたびにレイカは怯えたようにそう言った。

 そのたびに、哀奈は「大丈夫」と繰り返した。

 駅から15分ほど歩いた場所に、それはあった。

 古びたアパートの2階。確か、204号室。一番奥の部屋だ。


「レイカ、目を開けて」


 レイカの目は潤んでいた。


「ここ、どこ? お姉ちゃん」

「レイカ、聞いて」


 哀奈は笑いかける。

 できるだけ、大丈夫に見えるように。


「今から、魔法をかけるよ。凄く楽になるおまじない。その時がきたら、魔法を解くから………」


 自分が無惨に屠った妹の死体が脳裏にチラついた。

 視界が歪む。

 嫌だ。この後、哀奈は………。


「そうしたら、お姉ちゃんと、お母さんがいるから」


 きっと、そうであるはずだ。


「だから、ね。約束して」


 見慣れたはずのアパートが、とても恐ろしい場所に見えた。

 哀奈は、元から知っていたからこの場所に来た。

 何故、ここなのだろう? よりにもよって、あの人達なのだろう?

 きっと、一番やりやすいんだ。


「絶対、今の気持ちを忘れないで」


 レイカは頷いた。



 哀奈はまず【記憶操作】でレイカの記憶を書き換えた。

 彼女の名前は工藤麗華(くどうれいか)。工藤優希(ゆうき)の一つ下の妹。


 次に哀奈は街の記憶を書き換えた。

 ここは日本のとある町。

 駅に乗れば、あるはずもない隣町に行ける。


 次に、世界の記憶を書き換えた。

 ここには町がある。○○という町だ。

 とても綺麗な街並みは海外からも注目される。


 次に、異形の記憶を書き換えた。

 ここは○○○ではなく、人間の住む町だ。

 異形はただちに裏町へ戻れ。さもなくば、天使に裁かれるだろう。


 次に、死者の記憶を書き換えた。

 ここは○○○ではない。

 よって、お前達はここから死者の世界に行くことはできない。


 次に、裏町の記憶を書き換えた。

 偽りの○○○を作り、そこに死者の魂を誘導する。


 次に、天使の記憶を書き換えた。

 これが限界だろう。

 神の記憶はさすがにいじれない。





 最後に哀奈は、自分の記憶を書き換えた。

 自分は工藤優希。

 この町に住む、貧乏な家の女の子。

 妹が一人いて、お母さんもお父さんも、立派な人格者。

 異形もスキルも、何も知らない。

 そう。自分はただの“人間”だ。



 でも、この記憶はずっと忘れるわけじゃない。

 この夢から覚めたら思い出す。





「お姉ちゃん………?」


 優希は自分の目が濡れていることに気がついた。


「あれ………私、何してたんだっけ?」

「さあ?」


 麗華は首を傾げた。

 そんな彼女の目も赤く腫れている。


「それより、この前できた駄菓子屋に行こうよ!」

「お金ないよ?」

「大丈夫! この前自販機の下で百円拾ったの!」



 走り出す麗華の後ろを追いかけようとして、優希はふと足を止めて振り返る。


 気のせいだろう。


 甘くて、寂しい匂いがしたのは。



     ☆☆☆



 神はこの出来事を黙認した。


 これは、紛れもなく神が与えた試練だったのだから。


 しかし、当時の神は何故このようなことになったのかわからなかった。


 だから、ユーキとレイカを危険分子として印をつけた。


 彼らのステータスに一つの称号が追加される。



 【天敵(エネミー)】。



 そして、その称号は神も知らないうちに世界へ広まっていく。


 工藤優希の生まれた町の名前は、光天町(こうてんちょう)


 そこを訪れた、もしくは訪れたことのある人と接触した子供達は何故か偶発的に【天敵】の称号が追加されて行く。


 数年後、それに気づいた神々は“ダンジョン”を創る。


 【天敵】を減らすために。


 そして、ユーキを呼び覚ますために。




 しかし、ユーキはルシファーによって操られたオラシルによって食い殺されてしまう。




 神の命令をうけたラグナロクは、ユーキを復活させ、レイヴィスの元へと送った。



    ☆☆☆



《【スキルガチャ】を獲得しました》


《ボーナスとして、レイカにもスキルを配布します》

《【不滅牢獄(ダークプリズン)】【聖域】【奇跡】【断罪】【複製(コピー)】》

《スキルは二周目以降、使用可能です》



    ☆☆☆



 哀奈は目を覚ます。


 レイヴィスと最初…………いや、再会したあの路地だ。


 目の前には、血まみれで息絶え絶えの女性と、あのカーバンクルがいた。


「良かった………! これで、【記憶保存】ができる!」


 同時に足音が近づいて来た。


「こんなとこにいたのかよ」


 哀奈は目を見開く。

 中年とまではいかないが、前よりもずっと歳をとっていた。


「アルス………?」


 アルスは哀奈を見て鼻で笑った。


「マジで変わらねーんだな、化け物」


 哀奈は耳にそっと触れた。

 尖っている。


「楽しかったか? 俺らを騙して」


 哀奈はそっと口を開いた。

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